ボールペンのインクもカラフルになりました。とくにゲルインキボールペンは水性顔料を使っているものが多く、各社ともバリエーション豊かなカラーラインナップを用意しています。
水性顔料ゲルインキボールペンは発色がよく、ボール径の小さいものは文字を細かく書くことができるので、学生を中心に広く使われています。みなさまが目にする日常のボールペンも、特にカラフルな筆記線が書けるものはゲルインキを使用していることがほとんどだろうと思います。
確かに赤やピンク、グリーンといった色は華やかで目立ちますし、注意書きや目を引く部分に特別に使うことは多いと思います。ただ、メインの筆記具として使うには派手すぎますし、例えばひとに渡すメモや文書だとしたら相手はどう感じるでしょうか。
日本では伝統的に筆記色は黒、欧米であればメインカラーはブルーであることがほとんどです。でも、ただ黒いインキで書くだけでは「気持ちが上がらない」「事務的に過ぎる」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回ご紹介するサクラクレパスの「ボールサインiD」は、そんな色へのこだわりをもつ方にお薦めしたい最新ゲルインキボールペンです。
ボール径によってボディカラーが異なります。0.4ミリボールタイプはライトグレー軸、0.5ミリボールタイプはダークグレー軸です。本体にロゴ等をはっきりとした色で印字しない流行のデザインで、Ballsign iDのロゴは本体にカラ彫り、社名のSAKURAはクリップ上部の樹脂部分にカラ彫りされています。
本製品の最大の特徴はインキ色にあります。6色展開ですが、カラーのすべてが黒のバリエーションで構成されているのです。
ピュアブラック、ナイトブラック、モカブラック、フォレストブラック、カシスブラック、ミステリアスブラックと名づけられたカラーは、ぱっと見すべて黒です。ですが、それぞれに僅かなカラーの差があり、それこそが本製品の「iD」を体現しています。
ボールサインiDの「iD」はidentity(独自性)。黒にも個性があり、それぞれ好みの黒を使うことで書き手の独自性を表現することができます。
ピュアブラックは、最も見慣れた黒。万人が想像する漆黒です。どんな文書のどんな場面でも安心して使うことが出来る、ある意味無難でフォーマルな存在と呼べるでしょう。
ナイトブラックは青寄りの黒です。一般にはブルーブラックと呼ばれる色に近い印象で、深みのある群青は深海を連想させます。
モカブラックは、珈琲を思わせるブラウンがかった黒。カジュアルな印象があり、黒では落ち着きすぎて重いと思われるときに使いたくなります。
フォレストブラックは深緑の色。ドイツの「黒い森」シュヴァルツヴァルトを連想させる色合いで、黒さの中にも上品で洗練された緑が映えます。
カシスブラックは臙脂を内包した黒。赤みを強く含んでいて、この6色の中では最も華やかです。落ち着いた中にも昂揚を憶える、そんな印象を持つカラーですね。
ミステリアスブラックは紫に寄った黒です。神秘的な深みを感じる絶妙の色合いで、ボールペンのインキではあまりお目にかかったことのないカラーです。この色こそ、自らの個性の発露にうってつけではないでしょうか。
0.4ミリは細くて繊細な文字が書けます。0.5ミリではもう少しダイナミックな文字になります。0.5ミリの方がインキの吐出が多い分、各色の個性が際立ちますね。
ボールサインiDはデザインも凝っています。本体は円柱のように見えますが、クリップ側とクリップ真裏側が平らに削られており、置くとクリップを上にして転がらないようになっています。六角形の鉛筆を持つ際に、人差し指を平らな面に置きますよね。本製品はクリップ側の平らな面に鉛筆と同じように人差し指を置き、円柱形態になった側面に親指と中指を置く握り方を想定しています。親指と中指に自然なフィット感が生まれる設計で、わたしはこのフィット感は好ましいと感じていますが、持つ場所を固定されてしまうと感じる方は持ち方を工夫する必要があるかもしれません。
クリップは金属製で丈夫です。ノックノブが背後まで曲げられたクリップパーツで覆われているデザインは斬新で、インキ色はこの触れることのできないノックノブとSAKURAマークの入ったクリップマークで判別します。
1984年に世界で初めて水性ゲルインキボールペンを発売してから、サクラクレパスは様々なゲルインキボールペンを製造販売してきました。ボールサインという名前は、それから連綿と受け継がれてきた伝統ある製品名です。昭和の後期に発明された製品が、令和の時代にふさわしいカラーリングとスタイリングで皆様との出逢いを待っています。
まずは店頭でぜひカラーの違いをご確認いただき、気に入った黒を使ってみて欲しいと思います。写真では微妙すぎて伝わらない、このごく僅かな差の個性こそが、これからの時代に必要なものなのだと実感できることでしょう。
(他故壁氏)