国民投票法改正案の問題点を解説 今後、与野党に求められる議論とは?

文=本間龍
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Getty Imagesより

 12月4日に閉会した臨時国会で、国民投票改正案の審議・採決はまたしても先送りとなった。与党がこの法案を国会提出してからすでに2年が経過し、その7項目の中身については野党も反対していないのに、である。問題はこの改正案そのものにあるのではなく、野党側がこの改正案に含まれていない「CM規制(広告規制)」を改正案に含めることを要求しているのに対し、与党側は改正案を通した後に別途話し合うべきとして、合意に至っていないためだ。

 本稿では、国民投票における広告規制の必要性について解説する。

何が問題とされているのか

 そもそもこの改正案が最初に提出されたのは2018年6月であり、自民、公明両党と日本維新の会、希望の党の4党が共同提出した。希望の党は2017年9月に民進党と合流している。

 改正内容としては、2016年に改正された公職選挙法の内容を、国民投票法にも適用するというものである。具体的な法案内容は、

①「選挙人名簿の閲覧制度」への一本化
②「出国時申請制度」の創設
③「共通投票所制度」の創設
④「期日前投票」の事由追加・弾力化
⑤「洋上投票」の対象拡大
⑥「繰延投票」の期日の告示期限見直し
⑦投票所へ入場可能な子供の範囲拡大

 など7項目。駅や商業施設などへの共通投票所の設置や期日前投票の弾力化、投票所に同伴できる子供の範囲を「幼児」から「児童、生徒その他の18歳未満の者」に拡大するなどで、すでに公職選挙法にも反映されており、この中身自体には野党も反対していない。

 それなのに未だに憲法審査会で揉めているのは、この法案にテレビCMを含む広告の規制条項が含まれていないからである。

 当初、憲法改正に反対する野党の間でも、CM及び広告規制が必要という懸念はあまり強くなかった。それが顕在化したのは、拙著『メディアに操作される憲法改正国民投票』(岩波ブックレット、2017年)と『広告が憲法を殺す日 国民投票とプロパガンダCM』(集英社新書、南部義典氏と共著、2018年)を出版し、強く警鐘を鳴らして以降である。つまり改正案は、野党内でCM規制に対する警戒感が醸成し始める前に提出されたのだ。

 現在の国民投票法には、投票を呼びかけるテレビCMを投票日の2週間前から放映禁止にするという条項以外、広告に関する規制がない。ということは、資金のある陣営は無尽蔵に広告(テレビやラジオCM、インターネットを含むすべてのメディア)を掲出できることを意味している。

 逆に言えば、資金が乏しい側はほとんど広告を打つことが出来ない訳で、憲法改正を問う国民投票運動期間(通常選挙における選挙期間)でのPR展開において、圧倒的な差が生じるということだ。現状では「CM規制」とまるで電波メディアだけの問題のように言われているが、より広義な広告活動全体の規制、もしくは資金の多寡による広報活動の差が生じないような措置が必要なのだ。

 拙著を世に出すまで、この問題に深刻さに気づいていた護憲派議員はほとんどいなかった。かくいう私も、2016年にジャーナリストの今井一氏が主催する「国民投票法のルール改善を考え求める会」に参加して国民投票法を詳しく分析するまで、この問題に気づいていなかった。同法の条文を読み、広告活動に関する規制があまりに緩いのに驚いて、急遽発売したのが『メディアに操作される憲法改正国民投票』だったのだ。

 「国民投票法のルール改善を考え求める会」では、2017年頃から数度にわたり国会議員を招いて広告規制の必要性に関する勉強会を開いたが、当初、野党の反応は鈍かった。2017年当時の最大野党・民進党は、同年10月に希望の党への合流問題で分裂しそれどころではなかったし、その後、護憲派の中心となった立憲民主党も、党首の枝野幸男氏が民主党時代に国民投票法成立に尽力したこともあってか、この問題には腰が重かった。与党が圧倒的多数を占める国会において憲法改正論議を進ませないために、憲法審査会自体を開催しないという戦術がメインになっていたたことも、野党の動きを鈍くさせた。

 とはいえ継続審議になっている改正案を永久に無視する訳にもいかず、野党側が主張するCM規制条項を改正案に追加するならば成立に同意しても良いという流れに変わったのは、2019年になってからである。だが与党からすれば、法案は2018年に提出済みで当初はすぐに採決できる見通しだったのに、あとからCM規制条項の追加というのは虫が良すぎる。また、豊富な資金と電通を要する改憲派にとっては、CM規制などない方が良いに決まっているから、その条項を改正案に入れる必要がない。そのため、とりあえずこの改正案は先に成立させて、広告規制については後で議論しよう、という態度を取っている。だが野党は、改正案を通せば改正発議への道が開かれることを警戒して、いままで審議に応じてこなかったのである。

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