2021年1月、新型コロナウイルス感染症に関する2回目の緊急事態宣言が発出された。本記事執筆中の2月末時点では、まだ解除されていない。公表されているデータの推移を見る限り、東京など大都市圏での感染拡大は、着実に減少しつつあるようだ。しかし、入管や刑務所や施設や精神科病院でのクラスター発生には、収束の気配が見えない。そして2月までに、精神科入院患者の新型コロナ感染率は日本国内の約4倍、死亡率も約4倍に達している。
精神科病院と新型コロナの深刻すぎる関係
収容施設のうち、実態が若干は分かりやすい精神科病院を中心に、強制収容と新型コロナ感染リスクの関係を見てみよう。全貌が明らかになっているわけではないのだが、“シャバ”こと一般社会よりも深刻な状況の一端を見ることはできる。
2021年2月16日までに、精神科病院での感染クラスター発生は71件に達していた。陽性となった患者の総数は2828人、死亡者は47人であった。この他に、職員やその家族など786人の感染者がいた。71件のうち、感染者数が50人を超えるクラスターは23件、100人を超えるクラスターは10件であった。
精神科病院の中で誰かが新型コロナに感染すると、短期間で大規模集団感染となりやすい。クラスターの大きさの傾向は、それだけで精神科病院が感染の「インキュベーター」(培養器)となる可能性を可視化する。
さらに、「精神科病院に入院していると、新型コロナに日本全体の約4倍感染しやすく死にやすい」という傾向も現れてきている。精神科看護師の有我譲慶さんが、新聞報道や病院の発表資料等からコツコツと集めたデータは、そう語っている。衝撃的だが、それでも過少見積もりかもしれない。
現在、精神科病院での新型コロナ感染の状況は、火薬庫の爆発に似ている。精神科病院内に取り残されている人々は、火薬庫に取り残されているようなものだ。火薬庫には、生存に必要な水や食糧や医療スタッフなどの資源は供給されている。しかし時には、新型コロナ感染リスクという「火種」もやってくる。
精神科病院では、狭い空間に多数の人々がおり、「3密」が揃いやすい。この点は、クルーズ船と似ている。ただし、クルーズ船のゴージャスさや居心地や美食や「おもてなし」はない。そもそも、クルーズ船とは異なり、精神科病院は入りたくて入る場所ではない。