新型コロナウイルス感染率・死亡率は国内の4倍? あまりに無力だった精神科病院の現状

文=みわよしこ
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精神科病院とクルーズ船はどちらが危険か

 新型コロナに対する日本の関心は、2020年1月、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号でのクラスター発生を通じて高まっていった。国外メディアから「インキュベーター(培養器)」とまで呼ばれたダイヤモンド・プリンセス号と比べて、精神科病院内での感染者や死者は、多いといえるのだろうか。

 ダイヤモンド・プリンセス号では、新型コロナ感染が確認された後、乗員乗客の合計人数は最大で3711人であった。最終的な集計結果によれば、感染者は712人、感染者数13人であった。比率で見ると、感染者は全体の19.2%、死亡者は同じく0.4%であった。

 精神科入院患者数約27万人(2019年)から、いわゆる「精神科病院」ではない病院(大学病院等)を除くと、精神科病院の入院患者は約21万5000人となる。感染者は全体の約1.3%、死亡者は約0.02%にあたる。全体で見れば、「新型コロナに関しては、精神科病院はクルーズ船に比べて桁違いに安全」ということになる。

 しかし、新型コロナ感染クラスターが発生した精神科病院を個々に見てみると、感染者が入院患者の50%以上となった事例も存在する。いったんクラスターが発生すると、クルーズ船の比ではなく危険なのだ。もはや、そこにいること自体が危険なのであるが、「退院」という選択肢は平常時よりも少なくなっている。退院に必要な調整や準備のために、患者自身が外出や外泊を行うことは困難だからだ。病院によっては、コロナ対策を理由として、実質的に患者の外出外泊を禁止している。

 また、精神科病院で発生した感染クラスターでは、重症患者数や死亡者数の実態が把握しにくいことも特徴の一つである。転院した患者のその後は、転院先で死亡した場合を含めて、追跡は事実上不可能だ。

精神科病院でインフルエンザに感染すると?

 精神科病院で新型コロナの感染クラスターが発生しやすく治療しにくいという問題点は、2020年3月ごろから認識されていた。

 もともと、精神科病院の中は医療密度が低い。1958年の厚生省(当時)次官通知による「精神科特例」で、入院患者に対し、医師数は一般病棟の3分の1、看護師・准看護師は3分の2でよいこととされたからだ。精神科病院の人件費比率を抑制しやすくするための、いわば「精神科病院ビジネスモデル特例」である。その後、一般診療科も精神科も病棟の機能分化が進んできたが、「精神科はより少ない医療スタッフでよし」とする基準は、2021年現在も維持されている。

 現在、患者50名が入院している一般的な病棟1つを例として、一般的な看護師配置を見てみよう。内科の場合は、看護師が25名いる。3交代勤務であるから、1勤務時間帯あたりでは看護師は約8名ということになる。実際には、看護師は夜勤時間帯には8名よりも少なめ、日中は8名よりも多めになる。精神科の場合は、看護師は17名となる。1勤務時間帯あたりで見れば、約7名である。そこだけを見れば、「一般科病棟と比べて、精神科病棟の看護師は差別的に少ない」とは言えないかもしれないが、内実には隠しようのない格差が存在する。

 もちろん常に、精神科病院で身体疾患を治療する必要性は存在する。長期にわたって入院している患者は、いわゆる「生活習慣病」、糖尿病や高血圧などの持病を抱える可能性が高い。ノロウイルスやインフルエンザウイルスによる感染症は、精神科病院を毎冬悩ませる問題だ。「精神科なり」のノウハウは、それなりに蓄積されてきていた。

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