精神科病棟に新型コロナウイルスが侵入するということ

文=みわよしこ
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感染した患者は生還したのか、それとも?

 2021年、感染者数が100名を超えた事例は埼玉県のA病院(1月12日、105名)、山口県のB病院(1月16日、195名)、そして東京都下のC病院(1月11日、246名)である(2月27日時点)。

 A病院は「A内科神経科病院」という名称だが、実際には精神科病院である。病院概要の「診療科」を見ると、そのことが判明する。診療科は「精神科・神経科、内科(精神科・神経科外来受診の方の併診および病棟診療のみ)」となっており、病床数は「191床(全て精神科病棟)」とある。精神障害者の社会的入院や、高齢の認知症患者の入院が多そうだ。105名の感染者の内訳は、患者93名、職員12名となっている。病院が開示している情報には、「感染された、長期療養中の2名の入院患者様が症状悪化し、当院において懸命の治療が行なわれておりましたが、残念ながら亡くなられました」「当院にて新型コロナウイルス感染症が原因で亡くなられた入院患者様は計4名」といった記述がある。感染判明後の経過や転帰を公開する姿勢がある点は、評価してよいと思われる。

 B病院の199名の感染者の内訳は、患者153名、職員46名である。病床数は274床であるから、満床なら患者の56%が感染したことになる。2月21日までに、「新型コロナウイルス感染によるクラスター発生について」というお知らせが第7報まで公表されているが、患者のその後については「治療のため指定医療機関に転院した患者様で、治療が終了した方が2月8日から逐次当院に戻ってこられるようになりました」といった記述があるのみだ。

 B病院の設置母体は、主に高齢者、特に認知症の高齢者を対象とした入所施設やグループホームを多数経営している法人であり、比較的若年の障害者を対象としたグループホーム等も若干ある。B病院を含む多数の施設は、市街地からやや離れた地域に集中する形で建てられており、周囲にはゴルフ場やセメント工場が点在している。B病院の内容の詳細については、法人Webサイトでは情報量が少なく不明であるが、日精協サイトで検索すると、「精神科療養病棟」「認知症治療病棟」とある。主対象は、長期入院している社会的入院患者、および認知症の高齢者であるようだ。精神疾患の急性期への対応については、記述が見当たらない。

 問題は、精神科療養病棟と認知症治療病棟のいずれも、入院患者の高齢化率が極めて高く、しかも職員数が少ないことである。精神科看護師の有我さんは、このようにコメントする。

「精神科の急性期に対応するための設備があれば、感染症対策もできます。感染症に対しては、そこをレッドゾーンにすればよいわけですから。でも、療養病棟や認知症治療病棟は、そういう対応が出来る場所ではありません。しかも、医療的ケアが出来る状態ではないほど、ふだんから看護師が少ないのです」(有我さん)

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精神科病棟に新型コロナウイルスが侵入するということの画像1
精神科病棟に新型コロナウイルスが侵入するということの画像2 ウェジー 2021.03.06

「病棟まるごと感染」という場面で起こること

 C病院では、1月11日に感染者の発生が判明した。C病院は病棟が3つあり、定員は261床である。感染者数は最大で246名に達し、そのうち入院患者は190名であった。満床であったとして、患者の73%が感染したことになる。3つある病棟は、すべて新型コロナウィルス感染病棟に指定されたが、2月4日より順次、指定解除となった。2月22日には、すべての病棟が指定解除となっている。もっとも、感染した190名の入院患者のその後は不明だ。

 C病院の事例で特筆すべきことは、職員が58名も感染したことだ。精神科病院での感染クラスタとしては、感染者総数・感染した患者数・感染した職員数のいずれにおいても、現在、日本最多である。しかし問題は、人数にはとどまらない。

「病棟まるごとの感染が次々と起こる状況では、有効な対応はできなかったのではないでしょうか。しかも、スタッフのうち58名が感染しているわけです」(有我さん)

 そもそも人手が余っているわけではない精神科病院では、職員が1人感染しただけでも、ダメージが大きい。

「職員が感染すると、自宅待機になります。職員1名が感染すると、濃厚接触者となる職員が3名くらいになりますが、その3名も自宅待機となります」(有我さん)

 職員が3名感染すると、職員の濃厚接触者がそれぞれ3名いるとして、合計で12名となる。その全員が、自宅待機しなくてはならない。

「自宅待機者が10名を超えると、もう、病棟の仕事は回せないでしょう。とても、患者さんのケアに手が回る状態ではなく、『ゾーニング』といった対応もできなかったのではないかと思います。それで、感染が拡大したのではないでしょうか」(有我さん)

 最大の問題は、入院患者のその後であろう。

「適切な医療ができる病院に転院しないと、とても治療的ケアはできません。相当の人数の患者さんが亡くなっている可能性があるのではないかと見ています」(有我さん)

 さらに、病院の成り立ちも不安材料だ。

「C病院は、刑法的な施設が精神科的に発展したような経緯をたどっていますね。医療というより、精神障害を持つ犯罪者の収容のために始まった感じです。今回、新型コロナに感染した患者さんに対して適切な医療を提供したくても、病院の体制や人員や構造が、それに適したものになっていません。だから、こんな巨大クラスタになったのではないでしょうか。少なくとも、転院者も死亡者もいないことは考えられません」(有我さん)

 社会の関心が精神科病院の中で起こっていることに向けられ、情報を充分に開示しない行政や医療機関が厳しく批判されるようになれば、状況は変わるかもしれない。しかし、あらゆる人々が何らかの形でコロナ禍の影響を受けている現在、日常的に存在した精神科病院への無関心は、さらに深刻化しているようだ。その無関心は、何をもたらすのか。

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