トランプの終焉・バイデンの始まり〜混沌と希望のアメリカ

文=堂本かおる
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GettyImagesより

 12月14日、待望のコロナ・ワクチン接種第1号の瞬間が全米に中継された。接種を受けたのはニューヨークのICU看護師サンドラ・リンゼイ。接種後、リンゼイ看護師は以下のように語った。

「恐怖心はありません。科学を信じています。私の仕事は科学に深く根差しています」

 リンゼイ看護師と、接種を行ったミシェル・チェスター医師は共に黒人女性だ。アメリカ黒人は米国政府によるタスキギー梅毒人体実験(1932-72)の実験台となった歴史があり、現在に至るまで政府の医療政策に深い懐疑心を抱いている。コロナについても白人に比べて黒人の感染率、死亡率が高いにも関わらず、ワクチン拒否者が多い。これが理由で黒人看護師が接種第1号に選ばれたのだった。ちなみにワクチン開発チームのリーダーの1人は弱冠34才の黒人女性科学者キズメキア・コルベット。29日には次期副大統領カマラ・ハリスも接種を受けた。

 いずれにせよ、当初の予測より遥かに早く為されたワクチン開発にアメリカは希望を見い出した。ところが同じ14日、イギリスではコロナ・ウイルスの変異種が発見されており、クリスマスの翌日にはカナダでも見つかった。地続きのカナダまで来ているのであれば、変異種が米国に広がるのも時間の問題だろう。

 米国では今年3月にコロナ禍が始まり、9カ月が経つ。その間にコロナ死者数は33万人に達した。米国総人口3.3億人の、実に1,000人に1人が亡くなった計算となる。感染者の累計は1,900万人。12月28日現在の入院患者数は約12万人。この中には回復する患者もいれば、残念ながら亡くなってしまう患者も含まれている。患者は孤独のうちに死に、遺族は亡くなった患者の遺体を見ることすら許されない。

トランプとジュリアーニの奇行

 11月初頭の大統領選から2カ月近くが経った12月末になっても、トランプは敗北を認めていない。不正投票があったと主張し続け、50件以上の訴訟を起こしたが、ほぼ全てを判事によって門前払いされている。訴訟の陣頭指揮を執ったのはトランプの個人弁護士であるルディ・ジュリアーニ(元ニューヨーク市長)だが、フォーシーズンズ・ホテルで行うはずの不正投票に関する記者会見を、手違いにより同名の園芸会社(向かいが大人のオモチャ店)の駐車場で行う、法廷に連れてきた不正投票の証人が泥酔しているかのような証言を行う、そのとなりでジュリアーニ自身が放屁する、大汗をかき、白髪染めの黒い液体が顔を伝い落ちるなどの奇行を繰り返し、その全てがニュース報道によって全米に伝えられた。

 一方トランプは、遅れに遅れてようやく議会を通過したコロナ救済策の法案に署名を行わないまま、誰にも告げずにホワイトハウスを抜け出し、マイアミにある自身のゴルフ・リゾート、マーラーゴに出掛けてしまった。国民1人600ドルの支援金、失業保険延長、そのほかの経済救済策が為されないまま、アメリカ国民はクリスマスを迎えることとなった。さらにトランプが署名を怠ったために予算も通らず、28日(月)からはトランプ政権4度目の政府シャットダウンとなるはずだった。

 多くの国民が食料にも事欠き、全米各地でNPOによる無料の食糧配給場に長蛇の列が出来、子供にクリスマス・プレゼントも買えず、年始には自宅から立ち退きとなるはずの人も少なからずいた。政府シャットダウンが起こると政府職員は自宅待機となって給与が支払われず、一般市民に必要な行政サーヴィスも滞る。

 これが、大統領が国民に対してクリスマスに行なったことなのである。

 ところが署名デッドラインを過ぎ、多くの失業者が1週間分の失業保険を受け取れないことが決定した日曜に、トランプは法案に署名したのである。その真意(そんなものがあれば、だが)は不明である。

メリークリスマス

 多くのアメリカ人が度重なる警告にも関わらず、11月の感謝祭、12月のクリスマスに国内大移動を繰り広げた。ニューイヤーズ・イヴのパーティもあちこちで行われると思われ、接種は始まったものの、1月の感染者増大が予測されている。こうしたコロナ禍の状況とトランプの奇行に気を揉みながらも、ジョー・バイデンは第46代大統領としての準備を着々と進めている。

 バイデンはファーストレディとなるジル・バイデンとの連名でクリスマス&ホリデー・カードを発した。「今年は多くの人にとって大変な一年でしたが、皆さんの働きはとても重要でした」「皆で一緒になって、やり抜きましょう」「素晴らしい休暇を」「来年、お会いできるのが待ち切れません」といった内容で、夫妻の愛犬で、すでに人気者になり得つつあるメイジャーとチャンプのイラストが描かれている。

 大きな天災や今回のコロナ禍のような国家的有事の際、人心を落ち着かせ、慰め、勇気付けるのも一国のリーダーとして非常に重要な仕事だ。ゆえにバイデンは政策には触れず、一般市民が交わすカードと同じく、ごく当たり前だが心温まる文言を用いている。

 カードの文頭には「メリークリスマス・アンド・ハッピーホリデーズ」とある。クリスマスはキリスト教の祝祭であり、バイデン自身もクリスチャンだが、他の信仰を持つ国民、信仰を持たない国民にとってもクリスマスは休暇であることから、こうした表記としている。いわゆるポリコレではなく、アメリカに暮らす全ての人、一人一人への気遣いなのである。

クリスマスの“ポリティカル・コレクトネス”問題 「メリークリスマス」vs.「ハッピーホリデーズ」論争

 アメリカはクリスマスを含むホリデーシーズン真っ盛り。あちこちに煌びやかなツリーやイルミネーションが溢れ、子供たちは25日にもらえるプレゼントにワクワク…

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トランプの終焉・バイデンの始まり〜混沌と希望のアメリカの画像2 ウェジー 2016.12.22

 トランプはメラニアと共に撮影したクリスマス・メッセージ・ヴィデオで、近年の米国大統領としては異例のレベルでキリスト教性を強調した。非キリスト教徒の存在を完全に無視した、排他的な内容であった。トランプ自身が熱心なキリスト教徒でないことはすでによく知られている。

多様性を追求するバイデン内閣

 バイデンは閣僚とそれに次ぐ高官の計25人のうち20人を指名済みだ。トランプ政権の4年とコロナ禍により崩壊してしまったアメリカを立て直すための人選と言える。各自がそれぞれの分野で秀でた人物であることはもちろんだが、米国を再建し、かつ新しい方向に進ませるためにも、人種や性別などの多様性が必要となる。

 今のところ女性9名、男性11名。アフリカン・アメリカン6名、ラティーノ3名、インド系1名、中国系1名、ネイティヴ・アメリカン1名、ユダヤ系5名、移民(米国市民権取得済み)2名となっている。

 今回の大統領選に出馬し、大きな注目を集めたピート・ブートジェッジは運輸長官に指名されている。閣僚中、唯一のオープンリー・ゲイかつ同性婚者だ。

 同じく大統領選に出馬していたバーニー・サンダースは自身の閣僚入りを望んでいたが、中道路線のバイデンがプログレッシヴ派のサンダースを指名する可能性は低くなってきた。

 やはり大統領選でベーシック・インカムを公約に予想外の健闘を見せたアンドリュー・ヤングは政権入りはせず、来年のニューヨーク市長選への出馬を検討中だ。

大統領:ジョー・バイデン(男性/白人)
副大統領:カマラ・ハリス(女性/インド系/ジャマイカ系)

閣僚

国務長官:アンソニー・ブリンケン(男性/白人/ユダヤ系)
財務長官:ジャネット・イエレン(女性/白人/ユダヤ系)
国防長官:ロイド・オースティン(男性/アフリカン・アメリカン)
司法長官:未定
内務長官:デブ・ハーランド(女性/ネイティヴ・アメリカン)
農務長官:トム・ヴィルサック(男性/白人)
商務長官:未定
労働長官:未定
保健福祉長官:イグザビア・ベセラ(男性/ラティーノ)
住宅都市開発長官:マーシャ・ファッジ(女性/アフリカン・アメリカン)
運輸長官:ピート・ブティジェッジ(男性/白人/オープンリー・ゲイ)
エネルギー長官:ジェニファー・グランホルム(女性/白人/移民)
教育長官:ミゲル・カルドナ(男性/ラティーノ)
退役軍人長官:デニス・マクドノゥ(男性/白人)
国土安全保障長官:アレハンドロ・マヨルカス(男性/ラティーノ/ユダヤ系/移民)

閣僚級高官

大統領首席補佐官:ロン・クライン(男性/白人/ユダヤ系)
通商代表:キャスリーン・タイ(女性/アジア系)
国家情報長官:アヴリル・ヘインズ(女性/白人/ユダヤ系)
中央情報局(CIA)長官:未定
環境保護庁長官 :マイケル・リーガン(男性/アフリカン・アメリカン)
中小企業庁長官:未定
行政管理予算局長:ニーラ・タンデン(女性/インド系)
国連大使:リンダ・トーマス-グリーンフィールド(女性/アフリカン・アメリカン)
大統領経済諮問委員会長:セシリア・ラウズ(女性/アフリカン・アメリカン)
アメリカ合衆国気候問題担当大統領特使:ジョン・ケリー(男性/白人)

 ホワイトハウス多様化の恩恵は、オバマ政権時に明らかになっている。オバマ元大統領はホワイトハウス入りに際し、長年共に働いてきた有能なマイノリティ・メンバーを職員として帯同した。その職員やファーストレディのミシェル・オバマは若く優秀なマイノリティをインターンとして登用した。

 第一次オバマ政権誕生からすでに12年が経ち、当時のホワイトハウス職員のみならず、インターンもキャリアを積み、今では各界で活躍している。彼らはマイノリティゆえの頭角の表しにくさを自身の経験から知っているからこそ、優秀なマイノリティを支援し、雇用し続ける。これにより社会の多様性がさらに進むことになる。

 多様性のある政権は、政策決定の時点で多様な視点が盛り込まれることにもなる。例えば、国土安全保障長官に指名されたアレハンドロ・マヨルカスはキューバ生まれ。1960年のキューバ革命時に両親に連れられ、アメリカに難民として渡っている。両親はユダヤ系キューバ人であり、マヨルカスもユダヤ教徒だ。

 マヨルカスはオバマ政権下で国土安全保障省の1部門であるUSCIS(米国市民権・移民業務局)のトップを務めており、DACA(子供の時期に親に連れられて不法入国した若者の米国滞在救済策)も手掛けている。そのマヨルカスが、トランプ政権によって混乱の極みとなった移民政策をも統括することになるのだ。

複雑化するBLM

 1月20日のバイデン就任式までにトランプが敗北を認め、当日にホワイトハウスを去るかどうかが懸念されている。

 今回の選挙でトランプは7,400万票を得ている。中にはトランプの敗北が濃厚になるほど以前にも増して保守色を強め、それまで保守の情報源であったフォックスニュースからさらなる極右メディアに切り替え、共和党打倒を叫ぶ者すら出現している。

 2020年はジョージ・フロイドの死をきっかけにBLM運動が続いた年でもあるが、黒人問題も複雑化している。トランプ支持者の黒人は以前に比べると確実に増えた。加えてトランプ政権4年で極右グループ、白人至上主義グループが跋扈するようになったが、白人至上主義グループの設立者が黒人であったり、日系人であったりする。その一方、BLMに多くの白人が参加し、白人の母親たちによる自己犠牲をも顧みない活動もあった。多様化が思いもしない両方向に進んでいることになる。

 明けて2021年のアメリカは、まずはコロナ対策と、コロナ禍による経済ダメージからの復興に着手することになる。同時に国全体を立て直し、4年後の大統領選につなげていかなければならない。だが、言うは易し、行うは難し。2020年12月の段階で、来年のアメリカは占うことすらできないのである。
(堂本かおる)

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