8月、ついに東京入管の職員が4人コロナに感染してしまう。そのすぐ後、収容されているイラン人ジャファリさんもコロナに感染してしまった。
ただちに感染経路を究明しなければならない事態のはずだが、入管は「原因不明」とだけ説明し、それ以上の発表はない。ジャファリさん本人もなぜ自分がコロナにかかってしまったのか心当たりがないと話す。
ジャファリさんは独居房に移動させられ、誰とも会話できない孤独な日々が続いた。2カ月後、4度目の検査でやっと陰性になったが、その後も味覚を感じなくなってしまい、症状が改善する様子が見えない。
治療のため採血をされるが、結果などは伝えてくれず、何のためにやっているのかわからない。まるで人体実験のような扱いを受けているような気になり、辛い気持ちになっている。
運動場に行っても、コロナにかかったことで他の被収容者から煙たがれるのが悲しいと語っていた。コロナに感染する前から歩けないほど体が弱っていたジャファリさんは現在、容態悪化のため、面会に出てくることができないほど病状が悪化している。
牛久入管内部でいじめが横行
東京入管だけでなく、茨城県にある牛久入管のほうでも仮放免が出る中、解放されない人たちへの扱いがどんどん酷くなっていった。
今年の春に入ってきたばかりの常勤医に被収容者たちは嫌がらせを受けた。「私の言うことは絶対。嫌なら国に帰れ」「犯罪者」「あなたの命は私の中にある」など、医者とは思えない暴言を被収容者たちに投げかけたという。
さらに被収容者の常用していた薬を減らして苦しめたそうだ。摂食障害の人には職員たちを動員し、無理やり押さえつけさせて点滴を打つなど、本人の意思などお構いなしだったと被害にあった人たちは憤りを見せる。
イラン人のヤドラさんは常勤医からあまりにも執拗ないじめを受け続けたため、保健室にある待合室に自身の糞尿をまき散らすという事件を起こした。
入管は警察を呼び、2カ月後、牛久警察署に身柄を拘束されてしまった。ヤドラさんを知る被収容者たちの証言によると、「彼はとてもきれい好きで、風呂や廊下などを毎日掃除していた。あんな事件を起こすなんて信じられない」と口をそろえる。
入管は、建造物損壊64万156円および器物破損21万2850円と、4年以上も収容されている人がとても支払えるわけのない高額な金額を出してきた。
それに対し、起訴前に支援者が弁護士を通して、弁償金を支払う姿勢を見せたが、吉村真弘局長はそれを拒否。起訴された後に支払いを受け取ると言ってきているが、さらに利子も要求してきている。裁判は2021年2月3日に始まる。
解放された人たちも“自由”ではない
12月に入り、年内に解放された人たちに話を聞いてみた。
大体の人が体を壊し、PTSDに悩まされている人も多い。夜は眠れず、外に出て多くの人の中を歩くことも辛いという。
思春期になった子供たちのいる家庭では、長い不在のため、親との間に深い溝ができてしまうということもある。長期収容のせいで、壊れた家族の関係を取り戻すのには時間がかかる。
牛久入管から解放されたイラン人のベヘザードさんは次のように語る。
「4年半の収容生活は職員や常勤医たちに対して人間としての権利を求める戦いの連続でした。抗議のハンストをした時は、仮放免されてもわずか2週間で戻された。
いまは支援者の助けでシェルターに身を寄せている。働くことができないし、隣の県に移動することも許されない。何も自由がなく、保険証もなく権利もない。
壁がないだけで、まるでまだ収容されているかのようです。これでは自分に誇りを持つことができません」
それでも年末にぎりぎりで出られた人はまだ良かったのだろうか。12月29日から1月3日までは面会ができない。
年末年始に家族と過ごすことができず、収容施設で孤独に過ごすのはあまりにもさみしく耐え難いことだろう。被収容者がだいぶ少なくなった収容施設だが、残された人たちの絶望は深い。来年はどのようになっていくのだろうか。
(織田朝日)
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