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ここ数年、フェミニズム関係の本は人気を博すようになっており、海外の書籍が続々紹介されています。韓国文学をはじめとするフェミニズム系の文学作品は相変わらず人気がありますし、文学作品以外でも、2020年はシンジア・アルッザ、 ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザーの『99%のためのフェミニズム宣言』(惠愛由訳、人文書院)やキャロライン・クリアド=ペレスの『存在しない女たち――男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(神崎朗子訳、河出書房新社、これは私が書評も書いています)など、フェミニズム関係の重要な英語の本が日本語に翻訳されました。
2021年最初の連載となる今回の記事では、2021年に翻訳が期待されるジェンダー関係の英語のおすすめ本を3冊、選んで紹介しようと思います。
デボラ・キャメロン『フェミニズム――思想、議論、政治運動入門』

Deborah Cameron, Feminism: A Brief Introduction to the Ideas, Debates, and Politics of the Movement, University of Chicago Press, 2019.
150ページくらいしかないとても短い本ですが、西洋、とくに英語圏のフェミニズムについて、ごく基本的なところから最新のトピックまでをカバーした入門書です。これ一冊読めばフェミニズムに関する基礎的なポイントはだいたい押さえられるかと思います。
序論ではフェミニズムとは何かに関して簡単なまとめを行った後、「支配」、「権利」、「仕事」、「女性らしさ」、「セックス」、「文化」、「断層と未来」の7つのテーマに沿ってこれまでの研究や運動を押さえています。トランス差別や#MeTooなどここ数年の話題にもきちんと触れており、現時点ではほぼ最新の知識まで提供してくれる本だと言ってよいでしょう。
著者はオクスフォード大学の教員でフェミニズム言語学の研究者であり、一般書や一般向けの講演もたくさん手掛けているデボラ・キャメロンです。一般向けのメディアで書くことに慣れた研究者の著作であるため、学術的にきちんと主要なトピックをカバーする一方、できるだけわかりやすく読みやすい文章になるよう心がけて作られています。
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』(くぼたのぞみ訳、河出書房新社、2017)の話題から始まり、「支配」の章ではナオミ・オルダーマンの『パワー』(安原和見訳、河出書房新社、2018)が、「文化」の章では2016年のリメイク版『ゴーストバスターズ』がインターネット上で受けた攻撃の話が出てくるなど、文学や映画をはじめとするポピュラーカルチャーの動向もきちんと押さえています。
おそらくは大学の1年生などが教科書として使うことを想定していると思われ、非常に短いのでちょっと物足りないと思う人もいるかもしれません。それぞれのトピックについてさらに知りたいという人は、この本で触れられている研究とか作品を直接見ていけばより知識が深まるかと思います。大学で教えている研究者としては、こういうすぐ教科書として使える本は日本語に翻訳されてほしいですし、一般読者にとっても役立つ本だろうと思います。