シンプルなデザインほど飽きが来ることなく、流行にも左右されない。
20世紀前半にドイツで生まれたバウハウス(造形学校)の思想はLAMY(ラミー)の筆記具の隅々にまで行き渡っています。
筆記具は比較的シンプルなデザインが多いなかで例外的に、欧米のメーカーなどの限定モデルには精巧な工芸品、美しい美術品のようなモデルも存在します。
そんな美しく高価な限定品の万年筆にインクを入れて使った人が、書けないとメーカーのサポートセンターにクレームを入れると「えっ! この(限定品)万年筆にインクを入れたんですか?」と答えが返ってきたというジョークがまことしやかに聞かれるのも、装飾にすぐれた万年筆は鑑賞用もしくはコレクターアイテムとして実用品ではないという、少しアイロニーがこもったエピソードです。
ドイツのLAMYはたとえ限定モデルであっても実用的でシンプルさを損なわず、ぶれないメーカーの姿勢を守り続けている信頼のブランドです。

LAMYラインナップの比較
人気のLAMY万年筆を並べてみると(右からLAMY2000、studio、safari、dialog3)どのモデルも余計な装飾を省いたシンプルなデザインですが、dialog3(以下ダイアログ3)の起伏のないストレートなシルエットはLAMYの中でも異色な存在と言えます。
そんなダイアログ3は、LAMYプロダクトのラインナップ「MODERN WRITING(モダンライティング)」「YOUNG WRITHNG(ヤングライティング)」「PREMIUM WRITHNG(プレミアムライティング)」の3つのカテゴリーの中で、LAMY2000と並ぶ「PREMIUM WRITHNG」という上位に位置するモデルになります。

デザイナーの個性が光るプロフダクト
他に類を見ない独特なデザインのダイアログ3をLAMYと共同開発したのは、LAMYの人気ボールペン「LAMY pico(ピコ)」を手掛けたドイツのデザイナーフランコ・クリヴィオです。2001年に登場したLAMYピコも一見すると筆記具に見えないシルエットに加えて、ノックするとペンの全長が長くなる仕組はデザインだけでなく機能もしっかりと追求した筆記具で、2009年に発売されたダイアログ3はpicoのコンセプトを受け継いだモデルにようにも感じます。

ひねるとペン先がせり出すツイスト式
万年筆に関心がない人に、「これは万年筆ですよ」と手渡しても、筆記ができる状態に操作するのはちょっと難しいかもしれないこのダイアログ3は、軸の中央にある継ぎ目を中心にして左右にひねるとペン先がせり出してくる構造で「ツイスト式」と呼ばれています。
日本ではPILOT株式会社が早くからノックすることでペン先を繰り出す万年筆を発売していたことから、総称として「キャップレス万年筆」とひとくくりにされる事があります。

蓋が閉まっている状態

胴軸をひねると蓋が開きペン先がゆっくりと姿を現します

筆記可能な状態になったダイアログ3
「Gods is in the details」(神は細部に宿る)まさにこの言葉がぴったりとはまるのがダイアログ3の精巧なメカニズムとデザインと言えます。
胴軸を1回ひねると、ドーム型の蓋が開き中からペン先がゆっくりとせり出してくるギミックは、特撮ドラマやロボットアニメーションの変形シークエンスを見るようで、子どもの頃それらを観て育った世代にはドキドキと興奮が込み上げてきて、メーカーが意図している性能とは別の魅力を感じてしまいます。
ドーム型の蓋は中のペン先が乾くのを防ぐ効果があり、見た目だけに留まらない物づくりに対する情熱がLAMYらしい点でもあります。

クリップの位置に注目

クリップの後端が沈んでいるのがわかります
さらに、クリップ部分にもさりげなく利便性に優れた機能が隠されています。
キャップレスタイプの場合、一般の万年筆と大きく異なるのは上下が逆さまになっている点で、筆記の際に親指と人差し指でペンを支えるのにこのクリップが少々邪魔になります。
ダイアログ3にはこの問題を解決するために、ペン先をせり出した時にクリップの後端が沈み込むのと同時にクリップ内のスプリングも機能しなくなる構造になっていて、筆記中にクリップ部分が妨げになったり、跳ね上がる心配がありません。
それならいっその事、まったく起伏のないボディになればと思う人もいるかもしれまんが、わずかに残るクリップ部分は、机の上で転がらないための工夫なのでしょう。

Gods is in the details
「Gods is in the details」を唱えたミース・ファン・デール・ローエは、ル・コルビュジエやフランク・ロイド・ライトと並ぶドイツを代表する近代建築家で、バウハウスの第3代校長を務めた人物です。また彼の有名な言葉「Less is more」(より少ないことはより豊かなことだ)はまさにLAMYの神髄を言い当てた名言だとファンはうなずくはずです。
シンプルなデザインが特徴のLAMY万年筆の中でも異色の存在でありながら、もっともLAMYらしさが伝わるダイヤログ3もまた、彼の言葉を形にした存在であり、手元に置いておきたくなる衝動と興奮を覚える万年筆です。
データ
メーカー LAMY(ラミー)ドイツ製
サイズ 同軸径 14mm 収納時139mm/筆記時157mm
重量 47g
ペン先 14金/EF(極細)/F(細字)/M(中字)/B(太字)
カラー パラジュールコート/ブラック/ピアノホワイト/ピアノブラック
価格 45,000円 税別
(出雲義和)