一方、こんなやり方もある。作家として知られる門田隆将氏は――
「我那覇真子氏の現地レポート、特に連邦議事堂で女性が死亡した現場の映像分析に見入った。連邦議事堂の“窓を割る人間、映像を撮る人間も、アンティファであると思われる”と。その人物が「目撃者」としてCNNに出演し、視聴者に刷り込みを行い、トランプ・警察双方に打撃を与えるやり方。戦慄を覚える。」(午前6:11·2021年1月9日)
我那覇真子氏の現地レポート、特に連邦議事堂で女性が死亡した現場の映像分析に見入った。連邦議事堂の“窓を割る人間、映像を撮る人間も、アンティファであると思われる”と。その人物が「目撃者」としてCNNに出演し、視聴者に刷り込みを行い、トランプ・警察双方に打撃を与えるやり方。戦慄を覚える。 https://t.co/Q60iWkYogi
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) January 8, 2021
大統領選の過程からアメリカに滞在している、トランプの熱烈な支持者で右派活動家の我那覇真子氏のツイートを引用する形で「ANTIFA」説を紹介し、「戦慄を覚え」てしまったわけですね。
「本日、先頭を切り連邦議事堂に突入した人間が“アンティファである”との告発が相次いでいるが“それ以前に”不正が罷り通る世界で民主主義の存続は難しい。世界は覚悟の時を迎えた。」(午後9:24·2021年1月7日)
米民主主義の終焉は、あれ程の証拠や宣誓証言で明白になった不正選挙が“不問に付された事”で確定。共和党は茨の道を歩む。本日、先頭を切り連邦議事堂に突入した人間が“アンティファである”との告発が相次いでいるが“それ以前に”不正が罷り通る世界で民主主義の存続は難しい。世界は覚悟の時を迎えた。 https://t.co/cX2nYoEw9m pic.twitter.com/q0zIQWK6VK
— 門田隆将 (@KadotaRyusho) January 7, 2021
実は、門田氏のTwitterアカウントのタイムラインをたどってみても、ご本人自身の判断としてはどちらともハッキリは書いていないのだ。にもかかわらず、引用する形をとって「ANTIFA」説への強いシンパシーを示している。引用であるかぎり、後に事実がひっくり返っても自分の判断への責任は問われない。けれども特定のメッセージは、フォロワーに伝えることができるのである。
「わからない」ことにする
熱心なトランプ支持で知られる作家の百田尚樹氏は、議会占拠が報じられた直後に、次のようにツイートしている。
「議会になだれ込んだのがトランプ派か反トランプ派かはわからないが、バイデンが選出される流れが中断されて、トランプ陣営に立て直しの時間が与えられたことはたしかだ。 さあ、ペンスが裏切り者と判明したトランプ陣営は、どう出るか! 私はペンスの解任も有り得ると見ている」(午前5:49·2021年1月7日)
議会になだれ込んだのがトランプ派か反トランプ派かはわからないが、バイデンが選出される流れが中断されて、トランプ陣営に立て直しの時間が与えられたことはたしかだ。
さあ、ペンスが裏切り者と判明したトランプ陣営は、どう出るか!
私はペンスの解任も有り得ると見ている。— 百田尚樹 (@hyakutanaoki) January 6, 2021
百田氏自身はリン・ウッド弁護士が流した「ANTIFA」説に「はたしてリンウッド弁護士が本当にそう思って言っているのかはわからない。」(午前5:17 · 2021年1月7日)とはコメントしている。その後も「ANTIFA」説には触れてはいない。「わからない」という判断停止を示すことによって、決定的な言質は取られまいとした感がある。
他方、彼のツイートへのリプライを見ると、彼のフォロワーには「ANTIFA」陰謀論にイカれてしまっている人も多い。そうした傾向をもつ「お客さん」に踏まえつつ、しかしだからといって「ANTIFA」説にのっかるのも危険だ……そんな力学も働いて、「わからない」という道を選択したのではないか。
じっさい、「トランプ当選」を否定した上念司氏が、DHCテレビ系列の『虎ノ門ニュース』『ニュース女子』を視聴者からの「電話等含む「ご意見」」によって降板させられたことを考えると、陰謀論に突き動かされた「お客さん」の挙動は、右派業界で食っていくためには無視できないものとなっている。
とはいえその後、どちらが侵入したのかが「わかった」のか「わからない」ままなのか、百田氏にはぜひツイートしてもらいたものである。
ホントに信じてしまったタイプ
こうした中で、動物関連の著作も多いエッセイストの竹内久美子氏は特異な位置を占めていた。かねてから「トランプおやびん」「トランプ兄貴」「虎さん」などと親しげに呼んでいたほど熱烈なトランプ支持者である竹内氏は、議会占拠当日、次のようにツイートしていた。
「トランプさんのツイッターのすさまじい統制。
議会に侵入するなど、トランプ支持者のすることではない。
たぶんAあたり。
アメリカが香港になりつつある。
アメリカ国民、今こそ誇りを示してくれ!」(午前11:15·2021年1月7日)
トランプさんのツイッターのすさまじい統制。
議会に侵入するなど、トランプ支持者のすることではない。
たぶんAあたり。
アメリカが香港になりつつある。
アメリカ国民、今こそ誇りを示してくれ!— 竹内久美子 (@takeuchikumiffy) January 7, 2021
文中で「たぶんAあたり」というのは「ANTIFA」のことだろう。
竹内氏のこのツイートが興味深いのは、これまで見てきた右派業界の著名人とくらべて、「言質を取られないように」という配慮が抜け落ちた、かなりナマな心情の部分が表明されているからだ。
「議会に侵入するなど、トランプ支持者のすることではない」という一文は、たいへん特徴的だ。
昨年来、「リベラルのほうが暴力的。これ法則ですから」(午後2:48·2020年6月4日)「極左テロ組織のアンティファが世界中で暴動を起こしているだけだと思うよ。背景に中国もいるし。」(午後2:01·2020年6月5日)などなどと、BLM運動を「暴力」や「暴動」、さらに「背景に中国がいる」という陰謀論を以て非難してきたのが竹内氏だった。
ところが今度は、トランプ支持者のほうが、暴動的形態で連邦議会突入・占拠し、議会内を荒らし回ってしまった。これでは彼女が脳内に思い描いた「トランプ支持者」のあるべき姿と矛盾をきたしてしまう。だから「トランプ支持者のすることではない」と断定してしまうのだ。そんな暴力的なことをするのは「Aあたり」=ANTIFAに違いない――そんな理路がこのツイートにはみてとれる。
彼女はその後も、「一台分のバスに乗ったANTIFAの凶悪犯が トランプ大統領サポーターの デモ隊に潜入した」という自称アメリカ在住アカウントからのリプライを引用RTして「やはりそうでしたか。」(午前11:24·2021年1月7日)とコメントするなど、他のプロのもの書きが慎重に避けてきた「ANTIFA」説への公然たる支持を隠すこともなく、同時に、SNSで流れてくる各種の陰謀論を疑う習慣のなさを隠すこともなかった。そして1月10日にはリン・ウッド弁護士の駄法螺にまたもや乗せられ、「トランプ大統領の世界緊急放送」はどこでやっているのかと焦りまくる姿をさらけだしたのであった。
(早川タダノリ)
1 2