「アメリカ議会占拠はANTIFAの仕業」デマを拡散した日本の右派文化人たちの華麗な技法

文=早川タダノリ

政治・社会 2021.01.13 18:00

Getty Imagesより

●日本人のつくりかた(第2回)

 2021年1月7日(現地時間6日)、米大統領選結果の認定を行っていたアメリカ連邦議会に暴徒化したトランプ支持者が侵入し、数時間にわたって議場などを占拠した。

 この衝撃的な事件に際して、日本において熱心にトランプ支持を標榜してきた右派系文化人やSNSユーザーが、「議会を選挙したのはトランプ支持者ではなくANTIFA」なるデマに飛びつき、一斉にそのデマを拡散した。

 単にSNS上のみならず、夕刊フジ1月8日付(7日発売)では、一面トップの「議会乱入!!発砲 米暴動」記事に、「議事堂に侵入したデモ隊について、トランプ支持者と報じるメディアが多いが、ネット上には極左集団が紛れ込んでいるとの情報もある」なる一文を忍び込ませ、出どころも検証せずに与太話を活字にしてしまうありさまだった。

拡散されたデマの顛末

 連邦議会侵入直後から流された「議会に乱入したのはANTIFA」デマは、すでにAFPやBuzzfeedなどでファクトチェックされて、この記事を書いている1月10日の時点ではすでに旧聞に属する事柄だろう。

 とはいえ、トリガーになった代表的な2例のみを確認しておこう。

 トランプ支持者として知られるリン・ウッド弁護士が、ツイートした謎の「画像解析」(リンク)が、日本でも一挙に拡散された。

 このツイートは現地時間の午後1時40分に投稿されているが、トランプ支持者たちが 議事堂周辺のバリケードを突破したのは同午後1時すぎだと報道されていることから、かなりのスピードで「連邦議会に侵入したのはANTIFA」というキャンペーンが始められたことがわかる。

 一方、ニュースメディアでは旧統一協会系「ワシントン・タイムズ」が議会占拠当日に「連邦議会に侵入した群衆から顔認証技術でAntifa活動家を特定」と報道(のちに同紙は訂正)、それをすぐさま法輪功系メディア「大紀元」が翻訳して掲載(リンク)。それをさらに右派系まとめサイト 「アノニマスポスト」が拾って大きく拡散した。上記「ワシントン・タイムズ」記事をトランプ支持者の海外アカウントがツイートしたものを翻訳して流した人もいた。いずれも、占拠当日(日本時間1月7日)午前から昼過ぎにかけての動きだった。

 こうしたデマ記事に釣られた熱心なトランプ支持者の匿名一般ユーザーや自称「アメリカ在住」アカウントなどは枚挙にいとまがない。代表的な事例として、幸福実現党外務局長をつとめる及川幸久氏のツイートを挙げておこう。

「連邦議会に侵入したのはアンティファという証拠  退役軍官僚の証言 XRビジョン社による顔認証システムによって2人のアンティファが特定された。フィラデルフィアのアンティファで上院に侵入した。 日本のメディアの報道と事実とは違うはず。」(午後0:34 ·2021年1月7日)

 及川氏が興味深いのは、上記ツイートの数時間前に

「この映像ではトランプ支持者たちが怒って議事堂に侵入したように見えるが、アンティファがそう見せているのか。」(午前5:29·2021年1月7日)

――と述べているところだ。

 動画を見た彼の直接的な認識は「トランプ支持者たち」だったにもかかわらず、海外のうさんくさいアカウントが流したデマに引っ張られ、「アンティファがそう見せているのか」と自分で認識を加工しているのである。涙ぐましいというか、デマにやられるとこうなってしまうというか、なんとも興味深い認識過程が垣間見える。

「両論併記」のテクニック

 1月9日に放映された朝日放送テレビ製作『教えて!ニュースライブ正義のミカタ』で連邦議会占拠事件がとりあげられた際に、コメンテーターとして登場したほんこん氏は次のように発言していた。

「TwitterとかYouTubeとかで見させてもろたけど、警察の方々が招き入れてる映像も残ってるんですよ……これがほんまにANTIFAっていう証言も出てるんで、それは平行に〔?〕公平性をもって放送したほうがエエと思いますけども」(文字起こしは早川による)

 意味不明な箇所もあるが、〈連邦議会を占拠したのはトランプ支持者ではなくANTIFAだという「証言」もあるから、それも併記して放送せよ〉という趣旨だろう。「……という証言もある」というところがミソで、占拠したのはトランプ支持者なのかANTIFAのどちらなのか、本人の主体的な判断は下していないかのように装いながら、両論を併記させることで「トランプ支持者が議会を占拠した」という事実をあいまいにさせるのである。

 これは歴史修正主義者がいつも使うテクニックだ。

 映画『否定と肯定(原題: Denial)』(2017年公開)の原作者で、ホロコースト否定論者と法廷で闘ったアメリカの歴史学者 デボラ・E・リップシュタット氏は、2017年に来日した折に、朝日新聞のインタビューに答えて次のように語っていた。


「私たちは、何でも議論の余地があると習いました。しかし、それは間違いです。世の中には紛れもない事実があります。地球は平らではありませんし、プレスリーも生きていないのです。ウソと事実を同列に扱ってはいけません。報道機関も、なんでも両論併記をすればいいということではありません」リンク

 ほんこん氏が求めた「公平性」とは、デマと事実を同列に扱えというものでしかなかったのである。

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早川タダノリ

2021.1.13 18:00

1974年生まれ。編集者。戦前から現在までの「日本的なるもの」言説に関心を持ち、各種プロパガンダ資料を蒐集。過去に日本がたどってきた歴史を踏まえながら、現代の「日本イデオロギー」を考察している。主な著書に『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫)、『「愛国」の技法』(青弓社)、『「日本スゴイ」のディストピア』(朝日新聞出版)などがある。

twitter:@hayakawa2600

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