早期教育と母乳育児が悪魔合体、ニセ科学を含む高額幼児教育に…体験者は語る

文=山田ノジル
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GettyImagesより

 ひらがなポスターをお風呂に貼る。0歳から「こどもちゃれんじ」に入会。そんな私を実母は「あなたって意外と教育ママだったのねえ」とのたまいます。馬鹿言うんでねえ。そう呼ばれる境地に至る本気幼児教育は、こんな生ぬるいもんじゃないっつーの(ついでに子どもを私立小校に通わせてた親戚も「教育ママ」認定されている)。

 といいつつ当方教育方面はあまり詳しくないのですが、ガチ度が高い幼児教育と言って思い浮かぶのは「0歳から」「右脳を育てる」「フラッシュカード」などでよく知られる「七田式」でしょうか。スパルタ系では、ヨコミネ式なんて物件も最近耳にしました。そうそう、モリカケ騒動で注目を集めた、教育勅語を唱えさせる塚本幼稚園とかも独特すぎてなんだか怖い。

 しかしそのあたりは、当方のアンテナが反応する「健康問題」がダイレクトにからんでいなそうだったのでいままで遠巻きに眺めていました。ところが、幼児教育に「母乳育児」が合体しているという謎物件があったのです。日本学校図書株式会社なる会社が販売していた※「家庭保育園」(通称カホ)です。

※現在はHPが半年以上「工事中」となっていて、これまで行われていた「新規兄妹会員」の入会なども終了し、教材の販売は行われていない模様。ただし中古の教材は、市場に出回っている。

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 会員だったという方から家庭保育園のパンフレットを入手すると、ウリは「人は誰でも天才になる素質を持っている!」。WEBでは「最新の脳科学の見地から開発された教材」なんて説明もありました。ところが教材のラインナップを見ると、その「脳科学」とは「ビッテ式」という超天才教育理論をベースに、奇跡の詩人でメタクソに叩かれた「ドーマン法」※などを織り交ぜているメソッドらしい。

※ドーマン法という民間療法によって、重度障害児である少年の知能が奇跡的に回復し、文学的才能も開花させ数々の誌で多くの人を感動させている~というドキュメンタリーがNHKで放映され、批判が殺到した。

 そしてこの組織の特別顧問には、「西原式育児」の提唱者である西原克也医師が登場。「胎教から」というスタートダッシュで始められる早期教育に加え、「極力離乳食を遅らせて2歳過ぎまで母乳のみで育てよ」という西原式育児が合体しているとは、なかなかのトンデモ度ですね。ちなみに西原式については当連載でも紹介済みですが、約20年前の育児法です。母乳の成分に影響するからという理由で母親に課せられる食事指導や子どもの発達の説明などが、昨今判明してきた事実からは遠く遠く離れたお説でありました。

「母親がカレーを食べると母乳がバイ菌だらけ」…今も実践される西原式育児法とは

 15年ほど前、取材の待ち時間に男性スタッフと雑談していると、こんなことを言い出しました。「子どもは2歳くらいまで、母乳だけでいいと思ってるんだよね…

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早期教育と母乳育児が悪魔合体、ニセ科学を含む高額幼児教育に…体験者は語るの画像4 ウェジー 2020.05.05

 ドーマン法は障害児のリハビリや健常児の天才教育に! と謳われたメソッドですが、上記注釈にあるとおりテレビ番組で取り上げられたことをきっかけに、「科学的根拠なし」とすでにぶった切られています。つまりどちらも「子どもの発達や病気の仕組みがいま以上に解明されておらず、手探りだった時代の古い育児法」だと思うのですが、それがパッケージ化されて、つい最近まで販売されていたという事実にもマジか! とのけぞりました。

 今回はこの「家庭保育園」に入会、教材を購入し実践していたという体験談をお届けします。私の元へメールをくださったのは、平成元年生まれのKさん。第一子の妊娠期に雑誌「妊すぐ」(リクルート)を読んでいたところ、家庭保育園の広告が掲載されていたのがきっかけだと言います。

Kさん(以下、K):広告には「母親の教育次第で子どもが天才になる!」というようなことが書かれていました。健康で賢い子になるというふれこみを信じ、教材の購入に約100万円使いました。教材セットの中に西原式育児の書籍も入っていて、それによると離乳食を遅くすることにより、タンパク質の摂取を遅らせてアレルギー発症の可能性を低減させるとあったんです。

 また、母乳を飲むと顎を動かすので、顎が丈夫で歯並びがよく賢い子に育つという説明も魅力でした。いまはそれらがまったく科学的根拠がないことを知っていますが、当時はネットで検索すると栄養士や看護師を名乗る人が西原式を良いと言っていたので、それを信じてしまって。

 ちなみに教材を購入するには営業担当から説明を受けるプロセスがあるのですが、その窓口が会社の福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」なんですよ。そこから申し込んで契約が決まると、ポイントがもらえるシステムでした。いま振り返ると、大手でこんなニセ科学を含む学習教材を扱っていたなんて……と悲しくなります。

 家庭保育園は胎教から第1~6教室までカリキュラムがあり、必要な教材を組み合わせるシステムで、Kさんはフルで購入(結果、約100万円)。そして西原式育児を実践し、1歳までは母乳のみで育てた結果、生後6カ月以降の体重はほとんど増加せず、停滞。当然、成長曲線上の数値は下のほうとなり、検診時には保健師からも医師からも離乳食を与えるように言われます。

K:家庭保育園の会員はカウンセラーという名の相談員にいつでも相談できるようになっているのですが、その点を相談すると「西原式で問題ないので続けてよい」と言われ、それを信じてしまいましたね。その相談員はおそらく何の専門家でもなく、家庭保育園の教材を使用して子育てをした女性だという気がしています。社内教育や自身の経験によるアドバイスのみ……という印象です。教育や栄養や医療の有資格者という記載はありませんでしたし。

 その後、自分の育児スタイルに合わないことや、西原式への不信感などから家庭保育園の教材を使わなくなり、現在子どもは3歳ですが、いまは少し小柄な程度で、元気に育っているのが幸いです。風邪もひきますし、アトピーも出るのでごく普通の成長という感じです。当時は私自身の食事制限もストレスでしたし、月齢が上がるにつれ食べ物に興味を持つ子どもに食べ物を与えないようにするのが大変でした。

 「小ぶりでピカピカ」を目指す西原式育児(西原医師の著書でそう表現されている)。「小ぶり」だけは当てはまるものの、親子ともにピカピカとはいかないのが現実のよう。また、母親の食べたものが母乳の味を左右するので(※されません)、カレーやアイス、キムチを食べると5分後にはにがいお乳になる、小麦を食べると母乳にばい菌が入る、妊娠期に抗原性のタンパク質を食べると子どもがアトピーになる、冷たいものはとってはならぬ……と修行感がパないレベルの食事制限も特徴です(もちろん全部まったくの間違い)。これを実践されていたとは、本当にご苦労さまです……。

K:娘が1歳になってから、西原氏が引用する「WHOは2歳までの授乳を推奨する」という文言からWHOの授乳のガイドラインを調べたところ、「ちょっと理系な育児」というサイトを見つけ、WHOは乳児の6カ月以降からの栄養価の高い補完食を推奨していることを知り、だまされたという気持ちになりました。

 ちなみに西原式育児の本が発行されたのは2001年。その頃は、米国小児科学会で「アレルギー予防のために離乳食を遅らせる」という方針が提案されていましたので、それが反映されている可能性は大。しかしそれも2008年には撤回されており、Kさんが家庭保育園の教材を購入したのは2015年。情報の更新されていない古い育児指導を高額で販売してはいかん、という法律作ってくれませんかね。

 教材の内容を一部ご紹介しましょう。

早期教育と母乳育児が悪魔合体、ニセ科学を含む高額幼児教育に…体験者は語るの画像5・西原克成医師の著書『西原博士のかしこい赤ちゃんの育て方』。アレルギー予防と顎の発達、鼻呼吸を重要視する観点から、「2歳まで極力母乳」「3~5歳までおしゃぶりを使わせる」という独自のメソッドが解説されています。

・「ドーマン法」関連の書籍、教材(グレン・ドーマン氏の書籍、ドッツカード※などの教材)や、ビッテ式に基づく独自の書籍・教材。

※右脳の計算力を目覚めさせると謳われる、赤い丸がランダムに印刷されたカードのこと。七田式などでも同様の教材が取り入れられている。

・市販の絵本、育児書

・オリジナルの書籍(親向け書籍例『IQ200 天才児は母親しだい!』、子ども向け書籍例『なぜなにBOOK』)

・良い子が育つ魔法の言葉(カレンダーサイズの、イラストつき標語ポスター)

・英語教育のプリントやCD

・会員向けの冊子

 これらに加え、「子どもが3歳までは、電話やメールでの問い合わせや相談に応じてくれる」というアフターサービスがついていて、ざっくりと100万円だったよう。

 会員向けの冊子のひとつ「すくすく通信」を読むと、一般的な出版社から発行されている育児書からこの教材と親和性の高そうな一部を引用し、記事化するスタイルでした。キャッチの一部を広い読みするだけで、熱気がブワッと伝わってきます。

「胎児&乳児教育こそが、収益率の高い最良の教育先行投資となる!」

「親が普段する口にする言葉が子どもの力を育てます」

「母親としての誇りをもって」

 教育意識を高め、財布を開かせようという必死さ漂う濃厚かつ古風な文面。繰り返しになりますが、これが2015年に買ったブツかあ~(購入後に送られてくるプリント類もあるので、お借りした冊子には2018年のものもありました)。

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 胎教に関しての書籍(教科書と呼ぶべき?)は、昨今トレンドの「親を選んで生まれてきた」系とはまた違うノリですが、強烈なトンデモっぷりは負けてません。

・胎児期に良い母子関係をつくると、人を思いやることのできる、しかも、かしこい子どもの土台ができる。

・一方、この時期に胎教に注意をはらわず母子の絆づくりを怠っていると、後の育児や教育に苦労したり、情緒不安定な子どもに成長したりする可能性が大いにある。

・わずか20~30週間の胎教に時間を費やせば、後の育児は非常に楽になる

・妊娠8カ月から2週間だけ対談した効果は、10歳の子どもを10年間、愛情こめて育てたときに芽生える「きずな」より強いといえる。

 脅しながらも、過剰な効果をお約束! 胎教って、こんなんばっかなんですかね。熱意も愛もあふれている里子家庭の前で、同じことを言えるのでしょうか。「お腹の中にいるときから動物との接触を頻繁にとっていると、生まれた赤ちゃんは動物好きになる」ってのも、呆れを通り越し爆笑させていただきました。お母さんが虫嫌いなのに、ポケットにダンゴムシ詰め込む男児がたくさんいるのはこれいかに。

K:教材のドッツカード、絵カードは1歳くらいまで少しやっていました。積み木やパズル、ホワイトボードでのお絵かきや図形マグネットの遊びも、ゆるく楽しい範囲でできました。続かなかったのは、英語CDの聞き流し。いちいちCDをかけるのが面倒だったもので。

 「良い子がそだつ魔法の言葉」という標語ポスターみたいなものは、「しっかり大地を踏みしめて 部屋より外で飛び回る」とか価値観が古くておそろしさを感じ、子どもに教えたくなくてやめました。『なぜなにブック』という本は低年齢向けのやさしい図鑑のような絵本のような内容でしたが、話し言葉も書き言葉も混ざっているのが違和感があり嫌でしたね。

 価値観がこれまた古いのもありました。時代にあわせて内容の見直しをしていないか、そういう社風というか教育方針なんだと思います。考えれば考えるほど、自分が思う育児と合っていなかった。英語の絵本は面倒で読んでいない。プリント学習は開封していない。大金をドブに捨てた感があります。初めての育児で右も左も分からないなりにも、誰かに相談して踏み留まればよかったと、後悔しています。

 Kさん夫は西原式含む家庭保育園に懐疑的だったものの、Kさんがセールスの言葉に感動してこの方法で育てると譲らなかったため、説得をあきらめたのだとか。

K:唯一よかったのは、絵本セットです。市販のロングセラーの良書を、家庭保育園が選書したものです。なかなか自分で一括で買える値段と冊数ではありませんが、そろえておくことでいつでも絵本が読める環境を作れました。娘には低月齢から1日に数回~数十回の絵本を読み聞かせしたためなのか、言葉を話すのがとても早かったです。1歳半で200以上の単語を話し、2歳で3語~4語文が話せ、大人と普通に会話ができました。意思疎通が取れるという点は、育児が楽になったといえます。

 また、文字の読み書きを特段教えなくとも、一人で読み書きができるように。3歳になったいまでは、分厚くて挿絵のたくさん入った童話集を読んでいます。本が好きな子になってよかった。一方下の息子にはあまり読めてやれておらず、言葉の出が遅い。絵本の読み聞かせ量と言葉の発達に因果関係があるのが、個人差なのかはわかりませんが。

 昨年、Kさんは家庭保育園から得た情報で疑問に思っている点を問い合わせてみたと言います。

・西原式で育てた長女が、6カ月から1歳まで体重がほとんど増えなかった。

・長女の10カ月健診で離乳食を始めるよう医師から指導されたが、家庭保育園のカウンセラーから離乳食は始めなくてよいと言われた。

・アレルギー対策として西原式は「離乳食を遅らせることを推奨しているが、長女は3歳時点でアトピーが出ている。

・西原氏はWHOのガイドラインより『2歳まで授乳をしたほうがよい』と引用しているが、WHOが生後6カ月より速やかに栄養価の高い補完食を始めるよう推奨している。※

※WHOは2歳までの授乳を推奨はしているが、西原式のように母乳のみという内容ではなく、6カ月からは母乳とあわせて主食とタンパク質、野菜、油脂などを組み合わせた補完食を食べさせるのがよい、としている。

K:これらを伝え「家庭保育園で発信している指導は、一般的な育児法から外れているうえ、医学的根拠のない誤りであり、乳児の栄養失調を招きかねない大きな問題なのではないか?」と伝えましたが、家庭保育園側からは「何も申し上げられない」とのすげない返答で、本当にがっかりしました。

 改めて思い返すと、産前に営業担当者から聞いた話の中でも、違和感を覚える話がありました。家庭保育園の代表者が講演で、こんな話をしていたんだとか。食べ物には陰陽があり、陰の食べ物を食べるとアジア顔・体型で体の強い子どもが生まれる、陽の食べ物は西洋顔・体型で体の弱い子が生まれるなど……。思い返せば、この話をおかしいと感じたときにクーリングオフすればよかった。いまさらですけど。

 ネット上の家庭保育園の評判は「価格が高い」という意見も多いものの、実践者たちは「カホの子どもは強くて賢い」と自信満々。会員向けのパンフレットや冊子に至っては「もし知らずにいたらと思うと、恐ろしくなる…」「家庭保育園に出会っていなかったら育児ノイローゼになっていたかも」と親の不安を刺激するようなエピソードも山盛り掲載されています。育児系のネット記事では「自分の子どもにあったものだけを上手に選んで使えばいい」なんてふんわりした結論のものが多い様子ですが、Kさんのように「大金をドブに捨てた」と感じる人がいるのも事実です。しかもネットでは知育系の情報中心に触れられていて、西原式についてはほとんどスルーされている(当方のリサーチがあまいだけかもしれませんけど)。さすがにいまの時代には無理があると思われてるのが明白です。いずれにしても、ここ数年で販売終了となったのが答えでしょう。悩める母親たちをターゲットに、消費期限の限界ギリギリまで売り切った感満載。

 「この教育法で子どもが東大入りました!」とか「◎◎育児で穏やかな賢い強い子に育ってます」という巷の武勇伝的体験談を見るにつれ、「それ本当に関係あるんかいな」と思うことがほとんどです。そして親たちがそう語る背景は、少子化によって貴重な子への期待が重くなったことや、よくも悪くも「母親の育て方のせい」と見られる風潮が影響しているはず。親のあり方が子どもに反映される部分もあるでしょうが、あまりにも家庭の責任とされる空気が色濃いなかで幼児教育が過熱し、やたら高額なトンデモ物件が入り込む隙間が発生しているのでは……と思わせるお話でした。さらに「昔ながらのものはいいものだ!」ということを過剰に信じる日本会議的な価値観も、古い(しかも間違っている)情報を高額商品に化けさせる錬金術であることを確信。どうぞみなさま、鴨られぬよう情報をシェアしていきましょう。

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