BTSが音楽番組から消える? コロナ禍で進行しているK-POP産業の大変化

文=菅原史稀
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 コンサートの興行形式における変革が産業にもたらす影響も大きい。昨年には多くのK-POPアーティストによりオンラインコンサートが実施されたが、特筆すべきは芸能事務所自らがライブ配信プラットフォームの運営事業へ乗り出しているという点だ。

 大手芸能事務所SMエンターテインメントとJYPエンターテインメントは、オンライン型コンサート運営会社「Beyond LIVE Corporation」を共同設立。その第一弾として開催されたSuperMによる有料ライブ「SuperM-Beyond the Future」ではカメラワークと実際の空間が連動するAR合成技術が導入されるとともに、リアルタイム3Dグラフィックによるダイナミックな演出が施され、世界109カ国約7万5000人の視聴者を呼んだ。(オンライン公演中はアーティストと視聴者がオンライン上で交流する機会が設けられることも)

 SMエンターテイメントの関係者が「オンライン公演のチケットはオフラインの3分の1程度の価格設定。しかし、収益率が高いのです」と語っているように、チケットとグッズの総売上がオフライン公演と比べると少ないに関わらず、オンライン公演によって生まれるメリットは多い。まず、会場費・舞台装置費・移動費・人件費の支出が画期的に削減できる点は運営側にとって大きな利点だろう。加えて、普段K-POPアーティストが訪れる機会の少ない国々のファンや、オフライン時のチケットにおける価格設定には手が届かなかったライト層のファンにとっても嬉しい機会となる。(参照リンク

 またオンライン公演ならではの新たなコンテンツ提供形式が、産業に意外な形で変化をもたらしている。音楽番組において、グループ全体を映し出すパフォーマンス映像とは別に、一人のメンバーをクローズアップして映す“チッケム”、いわゆる“推しカメラ”映像はK-POPシーンにおいて大きな存在感を放ってきた。特定のメンバーによるパフォーマンスの一挙手一投足がおさめられる“チッケム”はファンからの需要が高く、再生回数ものびるため、芸能事務所にとってもマーケティング的な観点から最も重宝すべきコンテンツの一つとされるのだ。

 一方、この“チッケム”を取り巻く問題も発生していた。これまで“チッケム”の映像所有権を独占してきたのは、音楽番組においてそれを撮影するTV放送局であり、芸能事務所には映像使用権が与えられなかったのだ。しかし、オンラインコンサートの勃興によって技術投資に乗り出した芸能事務所がコンテンツ生産力を身に付け、“チッケム”をも自らで発信できるようになった現状は、音楽番組出演に依存しないマーケティングの可能性を切り開いている。

 ある芸能事務所の代表は「一回の音楽番組出演に対し、多くのコストを払いながら映像の使用権が与えられない状況は非効率でした」「今は私たちもコンテンツを生み出すことができるようになり、音楽番組に固執する理由がありません」というが、芸能事務所と放送局のパワーバランスが変わりつつあるというのも現在のK-POPシーンにおける興味深い動向だ。(参照リンク)

 コロナ収束後のショービジネス業界にも受け継がれていくと見られるオンラインコンサートの更なる発展を後押しすべく、政府も投資に乗り出している。韓国の経済財務相は、2021年におけるK-POP業界のオンラインコンサート開催支援費として290億ウォン(約2450万ドル)の確保を発表した。今後は、オンライン公演を専門とする大規模コンサート会場の開設も視野に入れたコンテンツ支援事業を拡大する方針という。

 未曾有の危機的状況によりもはや以前の収益モデルには戻れない窮地に立たされているからこそ、これまでにない施策を打ち出すことで変化を遂げるK-POPシーン。その変革を今後も見届けたい。

(菅原史稀)

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