高嶋ちさ子がダウン症の姉や息子たちを絶対「過保護にしない」理由

文=小林直美
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 やたらと炎上しがちなヴァイオリニスト・高嶋ちさ子。息子のゲーム機を壊した“DSバキバキ事件”をはじめ、つい最近も、テレビ番組で「息子はハズレ、娘はアタリ」「妹は小さいうちから兄の世話をしてくれる」等々と発言したことに対し、ネットで批判が飛び交った。

 そんな高嶋ちさ子が、自伝的エッセイ『ダーリンの進化論 わが家の仁義ある戦い』(小学館)を1月7日にリリース。彼女のいう“わが家”は、表紙を見れば一目瞭然だが、こんなふうになっている。

・打たれ強い ちさ子 52才
・究極のかまってちゃん 父 86才
・“性悪女”の娘 母 享年81
・スーパーライトダウン症 姉 58才
・現在ブロック中 兄 53才
・ヘヴィメタ好き 夫 55才
・平和主義 長男 中2
・人たらし 次男 小5

 家族、とりわけ夫や息子たちとのエピソードはこれまで何度も炎上してきたが、この本を読むと実際のところは外野がああだこうだ心配する必要もないのかもしれない、と思う。今回は「障害者と家族」という観点で、高嶋家の“仁義なき戦い”をレビュー。レビュアーは、ブラインドライターの小林直美さんだ。

 小林さんは先天性緑内障で20歳を過ぎた頃から少しずつ視力が下がり、現在はロービジョン、視野の中心から下が欠損していて半分以上見えない。この本は、Kindleの自動読み上げで音を聴いて読了したという。

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高嶋ちさ子がダウン症の姉や息子たちを絶対「過保護にしない」理由の画像2

小林直美さん(撮影:鈴木智哉)

 高嶋ちさ子さんといえば、日本を代表するヴァイオリニストです。それと同時に、テレビなどでの超辛口のイメージが強い方も多いのではないでしょうか。その強烈なキャラクターゆえに、物議を醸しやすい人でもあります。

 その高嶋ちさ子さんの半生を描いた書籍が発売されました。『ダーリンの進化論』というタイトルですが、ご主人だけではなく、ご家族の皆さんのことがおもしろ&強烈エピソードとともに書かれています。とにかく派手なエピソード満載で、最後まで驚きと笑いの連続でした。

 特に印象的なのは子どもに対して容赦ない高嶋家のエピソードの数々です。ざっくりご紹介したいと思います。

 まず、ちさ子さんの子どもの教育に対する考え方が、とてもステキなんです。

 そりゃあ、もちろん子どもはかわいいし一緒にいたい気持ちもあるけれど、そんな私の感情よりもあの子の成長とか将来のほうが心配。手放したくないという親の一時的な思いで、過保護にしたり可能性を狭めたりして、その子の人生を棒に振らせたくないんです。ただかわいがったって、いいことは一つもないと思うし、ろくでもない子になるだけ。

「留学したのに、こいつ英語ができない」って言われるのもつらいでしょうし、甘やかすとあとで子ども自身が苦労することになるから。一生、親が面倒をみられるならまだしも、そうじゃないから、自分の力で生きていける子になってほしいんです。」 (P150-151)

 私は視覚に障害があるため、母から過保護気味に育てられました。私の外出を心配して、近所に行くときでも母がついてくるのです。40歳を過ぎているのに、大好きな福山雅治のライブに行こうとすると、それもガッツリ反対されました。母が心配しないように安全に移動できる情報をかき集め、当日は逐一連絡をして安心してもらいました。その数年後に母は他界。もしあのとき素直に母の言うことを聞いていたら、今のように1人で外出することができなかったかもしれない。怖いですね。

 親が子供を心配するあまり、子供の可能性を狭めてしまうことはよくあります。子どもに障害があればなおさら。そうやってなにもできない子に育てて、親は嬉しいのでしょうか。ずっと自分を頼って欲しいのでしょうか、親の方が先に亡くなってしまうのに? 亡くなったあとはどうするのでしょう?

 高嶋さんの言い方ややり方はかなり独特だけれど、根本的な考え方には納得させられます。障害を持ったお姉さまについても、こんな感じです。

「姉のみっちゃんを家の中でいくら大事に大事にかわいがっても、一歩、家の外に出れば障がいを持っていることでいじめられたり差別に合うだろう。そのギャップですごく傷つくよりは、家の中から厳しい現実に免疫をつけておいたほうがいいって。だから高嶋家では、家族で『バーカ、バーカ』って言い合ってました。 」(P109)

 ……本当に口が悪い。でもそのおかげで、みっちゃんはすごく自立していて、社会に負けることなくたくましく生きているようなのです。

 私の家族は、私が見えにくいことを特別意識して特別扱いすることはありません。でも、姉も姉の息子も、必要な時にはサッと手を差し伸べてくれます。それが絶妙で、決して手を出しすぎないんです。姉がうちに来たとき、ものが出ていても勝手に片付けることはしません。私のやり方があるのを知っているし、ものを探すのが大変なのがわかるからだと思います。でも、包丁など危険な物が出ているときは「どこどこに片付けておいたよ」と教えてくれるんです。

 「特別扱い」って、優遇するってことですよね。でも、見えにくいことや障害があることは、平均以下、マイナスの状態なのです。そのサポートをしてもらっても、それは優遇ではない。手を差し伸べてもらってようやく「人並み」なんです。だからといって、必要以上のサポートは、その人の自立心やプライドをへし折ってしまいます。

 高嶋家の平等精神は徹底しています。お姉さんを過保護に扱ったりすることはなく、ほかの家族と同じ。おばあさまに対しても、お父様に対しても、子どもたちに対しても、みな平等に暴言を吐く(笑)。「おばあさんが死んじゃった」なんてウソ、本人が目の前にいなくても私は言えないです(笑)。

 普段、家族で軽口たたき合ってるのに、みっちゃんに対してだけ言わなかったら、それは特別扱いですよね。障害について言及しづらい日本で、誰に対しても同じように接するって、実はなかなか難しいですよね。

 いつもケンカばかりしている高嶋家ですが、それでも毎月旅行に行くくらい仲がよいのですって。家族全員がお互いを尊敬していて大切に思い、愛しているんですよね。みんなそれがわかっているから、暴言が飛び交ってもへこたれることなく受け止めることができるのかも。

 スーパー毒舌でありながら、その言動に嫌悪感を抱かず、私が高嶋さんのことを好きなのは、ちさ子さんのまっすぐな人柄や強い絆、根本にある愛情や気遣いを自然に感じていたからかもしれません。

 高嶋ちさ子さんが好きな人はもちろん、苦手と感じる人にも読んでほしい1冊です。もしこの本を読んで、それでも嫌い! というなら……ごめんなさい。

 「障害がある人を特別扱いしない」ことは、うちの家族と同じなのに、その中身がまったく違うのが興味深かったです。家族と本音でぶつかりながらも楽しく生きる参考になりそうです。

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