
Youtubeチャンネル「ハマの料理と日常」のハマさん
YouTubeは、いまや子供や若者たちだけのものではないのは周知の通り。それは見る側だけでなく、発信する側も例外ではない。スマートフォンでも動画編集が可能になり、とくにVLOG(ビデオ+ブログの造語。主に日常を綴る動画を指す)ブーム以降、様々な世代、立場の人間が各々の日常を動画にし、全世界へ公開している。
YouTuberの日常動画といえば、おしゃれなモーニングルーティンやルームツアー、旅行の記録というイメージがあるだろう。しかし、実際には多種多様なVLOGが存在し、金持ちインフルエンサーのセレブな生活だけでなく、一般の会社員らが自身の収入を詳らかに公開し、やりくりする様を公開する「節約系」VLOGチャンネルも近年数字を伸ばしている。
そして目下のコロナ禍もあってか、生活苦を赤裸々に伝えてコンテンツ化する人も出現し始めた。たとえば、ブラック企業での窮状を訴える20代男性や、時給が上がらないと嘆く30代派遣社員女性らのチャンネルも増えており、中には100万回以上再生されている動画も存在し、コメント欄には心配や共感の声が集まっている。
また、新型コロナウイルスの影響によって、業績悪化を理由にした解雇や、派遣社員の契約が更新されない、いわゆる「雇い止め」も増加しており、コロナ禍で失業した人は7万人を超えるという。その氷山の一角がYouTubeという場所に現れており、YouTubeを検索すると、「コロナで派遣切り」「コロナを理由に解雇されました」という内容の動画も散見される。なぜ彼らは自身の窮状をコンテンツにするのだろうか? 昨年リストラ動画が200万回再生を記録した、会社員のハマさん(31)に話を伺った。
YouTubeチャンネル「ハマの料理と日常」を運営するハマさんは、昨年5月に勤め先からリストラを宣告され、それを家族に伝える様子を隠し撮りする動画(国内YouTubeの世界ではこうした動画を、人気テレビ番組の名前をとって「モニタリング動画」と呼び、人気ジャンルのひとつとなっている)を自身のYouTubeチャンネルにアップしたところ、200万回を超える再生数を獲得した。
「もともとYouTubeを見るのが好きで、趣味で動画を上げていました。当時は“年内に1000人行けたらいいな〜”くらいの感覚でやっていたんですが、急にリストラ動画がバズって。あの動画を作るのに明け方までかかっていたので、完成して公開したらそのまま寝てしまったんです。それが朝起きたら見たことない再生回数になっていて、登録者も600人くらいから2万人になりました」(ハマさん)
この動画がきっかけで、昨年末にはテレビ番組『 超ポジティブシンキングのススメ ピンチはチャンス!?』(テレビ東京系)にも、2020年にピンチをチャンスに変えた人として出演した。一躍注目を浴びることになったハマさんだが、なぜ自身のピンチを動画にしようと考えたのだろうか?
「職場から“仕事がなくなりますよ”という通告が来た時点で、“これを動画にしたら絶対おもしろいな”って思っていました。話を聞いている間も、頭の中で動画の構成を作っているくらいで(笑)。気持ちの上では“これからどうしよう”が1割で、残りの9割は動画のことを考えていました」
動画制作がある意味「心の支え」となっていたといえる。また、動画の拡散のされかたも、著名なインフルエンサーなどがきっかけではなく、オススメ動画や検索からの流入が多かったそうだ。
「“コロナ”で検索してる人は多かったと思います。あとは“リストラ”、“コロナ失業”、“無職”、“解雇”とか……。コメント欄でも“私も職を失った”、“給料が減った”という人がたくさんいて、“そんなにおるんや”と、驚きました」
YouTubeの収益化には、登録者数1000人、視聴時間4000時間という基準がある。クリアしたその月から3カ月は十数万円程度の広告収入がハマさんの元に入ったそうだ。
「当時の給料くらいの収入はありました。(PRの)案件もいくつか来たんですが、受けたものは今のところ家計簿アプリのマネーフォワードと、時計のnordgreenの2つですね。なんでも受けてしまうと、自分も視聴者も面白くない動画になってしまうと思うので」
さすがに今は再生数も最盛期よりは減っているとのことだが、安定した副収入になっているようだ。専業になる道は考えているのだろうか?
「今でも3、4万円くらいの収入にはなっています。このコロナ禍でも運良く再就職もできたので、今の給料とYouTubeの収入をあわせたら、以前の仕事の倍くらいにはなっています、とはいえ、専業になろうとは思わないですね。YouTubeって規約違反一つで広告剥がされるとかよくあるらしいじゃないですか。それは危険ですよね。日常というか、人生に関わることをコンテンツにしていくのが面白いんだなと、今回の件で思いました」
YouTuberというと、一攫千金的な夢を掴んだ者ばかりが脚光を浴びるが、ハマさんがいうように専業YouTuberになるには、様々なリスクがある。「好きなことで生きていく」は有名なキャッチフレーズだが、好きなこと「だけ」で生きていくだけがYouTuberの正解ではなく、金銭面でも精神面でも日々の生活において、ちょっとしたプラスになっているという彼のスタイルもひとつの正解なのかもしれない。
もちろん、今回のケースがかなり幸運な事例であるということは否めない。You Tubeは世の中の状況を反映している鏡のようなもの。リストラ動画や貧困動画が共感を集めているということは、社会の経済状況が悪化していることは間違いなく、この種の動画が「バズ」を生んだりしなくて住む世の中になることを願ってやまない。