2020年の大晦日にスペシャルドラマが放送された『孤独のグルメ』(テレビ東京系)。主演の松重豊が自身のTwitterにて<日本中いや世界中の飲食店が大変なことになっている2020年。その最後を締めくくる『孤独のグルメ』。果たして井之頭五郎は今年どうしていたのだろうか? そして最後に何をしでかして、何を喰らうのか? 大晦日スペシャル、乞うご期待>とコメントしていたように、ひとり飯を愛する主人公・井之頭五郎の姿を描き続けてきた同作は、コロナ禍における食文化とそれを取り巻く個人の食哲学をも描き出し、いま“新しい外食様式の手本”と改めて評価する声が高まっている。
日本中いや世界中の飲食店が大変なことになっている2020年。その最後を締めくくる「孤独のグルメ」。果たして井之頭五郎は今年どうしていたのだろうか?そして最後に何をしでかして、何を喰らうのか?大晦日スペシャル、乞うご期待。
— 松重 豊 (@mattige19) November 26, 2020
『孤独のグルメ』をはじめ『深夜食堂』『ワカコ酒』『パンとスープとネコ日和』『かもめ食堂』『南極料理人』など、ここ日本には食と個人が向き合うことを題材とした作品が多いが、日本のグルメ作品は中国・韓国・台湾でも大きな人気を集めており、特に若者層からの支持が厚い。
たとえば、ドラマ『孤独のグルメ』は中国のソーシャルカルチャーサイトDouban(豆瓣)においてレビュースコア9/10の好評価を獲得(参照)。その人気から中国版として『孤独的美食家』が製作された。2015年に放送された『孤独のグルメ』台湾編では両作における主人公の競演が叶っている。
『深夜食堂』(TBS系、Netflix)もヒットを受け韓国版と中国版が製作されており、SNS上では深夜食堂に登場した“ポテトサラダ”などを自作した人々の投稿が多く見ることができる。(参照)
また、映画『リトル・フォレスト』シリーズは、橋本愛演じる主人公がつくる季節ならではの野菜や果物を使った料理が注目を集める。小ぢんまりとした作品ながら、1億6000万人以上のユーザーを抱えるDoubanの映画人気ランキングにおいて驚異の103位をマーク(なお『もののけ姫』は101位)。韓国で製作されたリメイク版では、主人公が作る料理がチヂミとなっているなど興味深いローカライズも生まれた。
なぜ、日本のグルメ作品が中・韓・台の人々の目を引き付けるのだろうか。まずその理由の一つとして挙げられるのが、これらの作品に家庭的な日本料理が描かれる点だろう。
近年、世界中に多くの日本料理店が開かれ人気を博している。しかし『孤独のグルメ』や『深夜食堂』の登場人物たちが美味しそうに口へ運ぶ“しょうが焼き目玉丼”や“タコさんウインナー”は、海外の日本料理店で提供されるような敷居の高さや華美さがなく、その親しみやすさがかえって新鮮に映るというのだ。
また、日本のグルメ作品の多くで調理シーンが丁寧に描かれていることも「リアルな日常」を表していると好評だ。
中・韓・台の若い世代の間では、村上春樹が生んだ「小確幸(しょうかっこう)」という言葉が大流行したことがある。これは、“小さいけれども確かな幸せ”という意味の造語だが、日常のなかで些細なことを幸せに感じようという価値観は、日本のグルメ作品に登場する一般的な家庭料理やその調理過程にも投影されている。
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