ネット上のヘイトスピーチ対応はどう変わったのか~国と地方のネット上の誹謗中傷対策は今

文=雪代すみれ
【この記事のキーワード】

「個人への誹謗中傷」と「ヘイトスピーチ」の違い

※ここからは一部具体的な差別言動内容の記載が含まれます。

 ヘイトスピーチ被害の実態とはどのようなものなのだろうか。

 たとえば、川崎市に住む崔江以子(チェカンイヂャ)さんの場合、差別の被害を国会において実名で証言したことをきっかけに「ネットリンチ」の標的にされ、長男の名前まで晒され、ついには職場に「朝鮮人は朝鮮へ帰れ」と電話がかかってきたり、ゴキブリや蛾の死骸が入った手紙が届いたりと加害行為はネット上だけに留まらなくなった。在日朝鮮人への差別問題の取材を行っている神奈川新聞の石橋学さんは「ネット上の匿名性に隠れ、平穏な日常が送れなくなる卑劣な差別が表現の自由の名のもとに野放しにされています」と話す。

 ヘイトスピーチに傷つけられているのは名指しで攻撃されている特定の個人だけではない。2016年に法務省が調査した「外国人住民調査報告書」によると、外国籍住民のうち約8割が日頃からインターネットを使っており、外国人を排除するような差別的な書き込みを見た人が約4割、差別的な書き込みが目に入るのが嫌でインターネットの利用を控えた人は約2割。インターネットの利用を控えた人は中国籍・韓国籍・朝鮮籍の人に多く、マイノリティが表現の自由や知る権利を一方的に奪われているというヘイトスピーチの実害を物語る結果となっている。

 なお、川崎市では2019年12月に「差別のない人権尊重のまちづくり条例」が制定された。崔さんは条例に基づく被害救済を求めて、昨年5、6月に計340件の書き込みについて人権侵害を申し立てたものの、11月時点で47件しか削除要請されておらず、石橋さんは「ヘイトスピーチと認定する範囲が余りに狭く、時間もかかりすぎている。実効性はまだ不十分です」と指摘。背景としては、担当職員の専門的な研修が行われておらず、被害の深刻さが十分に理解されていないとのことだ。

 個人への誹謗中傷も深刻であるものの、ヘイトスピーチは生まれながらの属性を攻撃するもので、存在を否定されるという一生の傷をマイノリティに刻みつける。この点について、石橋さんも「ネット対策も誹謗中傷一般ではなく、差別として行われ、より深刻な被害を生じさせているヘイトスピーチこそ真っ先に対策されるべきです」と話す。

 また、新型コロナウイルス陽性者への誹謗中傷問題に注目が集まっており、報道によると11月には自民党議員による感染者や医療従事者への差別を禁止する法案提出に向けた動きがあった。師岡康子弁護士は「コロナ差別禁止法制定が進むのは良いことだが、国会がここまで迅速に対応できるならば、ヘイトスピーチを含む民族・国籍差別も以前より毎日非常に苦しんでいる人がいる問題なので早急に禁止法を制定してほしい」と述べた。

 政府による発信者情報開示請求の根拠となっている「プロバイダ責任制限法」改正の動きに課題が残るという。ヘイトスピーチをはじめとするネット上の人権侵害救済のため最も求められているのは迅速な削除だが、その点の改善策が含まれていない。また、何が削除対象となるのか定義規定がなく、特に「朝鮮人」「部落」などの属性にもとづく不特定の集団に対する差別書き込みは現行法では対象外となっている。また、同法は自治体からの削除要請を想定しておらず、被害者本人のみがIT事業者に開示請求できる規定となっており、本人の負担が大きく、川崎市などの自治体に広がるネットモニタリング制度による削除要請に対応できていない。

 師岡弁護士は「国が、ネット上の人権侵害に対し包括的に対応するための基本法を制定し、何が削除対象となる違法な投稿なのかを明確にする定義規定を法律で定めることが必要です」「削除や発信者情報を迅速に行い、かつ、濫用にならないよう、専門的な第三者機関を設置することも重要」と指摘している。

 これらの点について、「ネットと人権法研究会」が2019年12月に発表した「インターネット上の人権侵害情報対策法モデル案」を参考にしてほしいと紹介された。

ネットに溢れるヘイトスピーチや誹謗中傷、差別する側の「表現の自由」が、差別される側の自由を奪っている

 インターネットはもはや生活必需品。スマホやパソコンは生活を便利にするツールだが、ネットの掲示板やSNSには悪意ある言葉が溢れ返っており、個人への誹謗中…

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ネット上のヘイトスピーチ対応はどう変わったのか~国と地方のネット上の誹謗中傷対策は今の画像2 ウェジー 2020.01.20

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