未だ謎の多い「パク大統領暗殺事件」をエンタメに昇華した韓国映画の凄み/『KCIA 南山の部長たち』

文=くれい響
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(C) 2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.

 今度は真正面からパク政権を描くなか、史実を基にしたポリティカル・サスペンスながら、あえて政治的メッセージは入れていない。また、映画の空気を全編韓国ノワールタッチに仕上げたのは、かなり興味深いところだ。

 組織に対する忠誠心や裏切りという「これはマフィア・ファミリーの物語?」と思わせる展開だけでなく、独特な構図や照明、そして重厚な演出が繰り出される。それもそのはず。ミンホ監督が本作を手掛けるうえで参考にしたのは、フランシス・フォード・コッポラ監督作『ゴッドファーザー』(1972年)だったのである。

 そんな『KCIA』では、パク大統領の不正を告発し、アメリカに亡命した4代目部長・キム・ヒョンウクの描かれ方が面白いことになっている。彼はシン・サンオク監督による『蒸発〜VANISHED〜』(1994年)では主人公として描かれていた(劇中ではパク・ヨンガクに改名)。

 ふてぶてしいクァク・ドウォンの怪演もさることながら、一時は組織のNo.2まで登りつめながら、さんざん使われた挙句、最後には捨てられるしかない運命を辿るキムとパク。2人が先輩・後輩ではなく、同年代の親友という設定に脚色されているのである。キムと過去や思い出を共有し、後にフランス・パリで暗殺されてしまったパクへの思いが募っていくことで、「10・26事件」へと踏み出すドラマティックな効果が醸し出されている。

 とはいえ、なんだかんだ言っても日本では「10・26事件」よりも、1973年当時“民主主義の活動家”として、パク大統領のライバルあった金大中氏が拉致された「金大中事件」(2002年に、阪本順治監督により『KT』として映画化)の方が有名なのは否定できないだろう。ただ、事件の主犯格が「KCIA」であったことなど、その周辺の出来事や人物を踏まえることによって、本作の面白さをより堪能できるはずだ。

(くれい響)

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『KCIA 南山の部長たち』
2021年1月22日(金)シネマート新宿ほか 全国ロードショー
配給:クロックワークス

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