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「なぜ抵抗しなかったの」「逃げられたのでは」——性暴力被害者にこういった言葉を投げかけることはセカンドレイプであるが、このような考えはまだまだ社会に蔓延っている。
刑法第176条の「強制わいせつ罪」、刑法第177条の「強制性交等罪」には<暴行又は脅迫を用いて>という文言がある。しかし、性暴力被害当事者及び支援者団体である一般社団法人Spring(以下、Spring)が性暴力被害者に行ったアンケート調査によると、明確な脅迫や暴力がない場合でも、被害者は恐怖で動けなかったり、年齢が低く性暴力であることを認識できなかったケースが多いという。
Springの調査では、「被害を被害と認識できるまでの年数」「被害後、記憶をなくしていた場合で記憶が戻るまでの年数」「警察に相談できなかった件数」などの実態も明らかになった。
Springは2020年11月20日に橋本聖子男女共同参画担当大臣に「5899件の性被害当事者実態アンケート調査結果に基づく性犯罪に関する刑事法の改正及び内閣府への要望書」を提出し、同日、アンケート調査の結果の報告を衆議院第一議員会館にて行った。今回は報告会の様子を一部レポートする。
※性暴力被害者の方は被害を思い出してしまう可能性があるため、無理せず体調と相談しながらお読みください。
暴行・脅迫がなくても被害者は恐怖を感じ抵抗できない
調査は2020年8月~9月に実施し、有効回答は5899件。これだけ多くの回答が集まったことについて、Spring代表の山本潤さんは「被害当事者を中心とした団体であるSpringなら私たちの声を聞いてくれる、被害を信じてくれる、そんな思いがあったのではないでしょうか」と話す。なお、今回の調査で初めて被害について打ち明けたと回答した人もいたとのこと。
被害時の平均年齢は15.39歳であり、未成年と20代の被害が多い。回答の約半数が継続した被害で、数年継続したケースも少なくない。
加害者の人数は「一人」の回答が最も多かったが、「複数人」「不明」の回答もあった。加害者の性別は「男性」が多かったものの、「女性」「不明」「男女両方」のケースも見られた。
被害時の状態については、被害時年齢が0~12歳の場合、「自分に行われていることが何か、良く分からない状態だった」という回答が8割以上に見られた。また、13歳以上では「加害者に合わせないと、あるいは加害者を受け入れないと、安全が守られない/ひどい目に遭うと思った」「予想していない言動があって驚いた/どう反応してよいか分からなかった/身体が動かなかった」「怖くて身体が動かなかった」という回答が多く、その傾向は20代以上でも共通していた。
一方、加害者の言動からは、明確な脅しや暴力を伴う被害よりもそうでない被害の方が多いことが見えてくる。0~12歳までの回答では「加害者はだんだんと身体を触る/触らせる行為を増やしていった」「何も言わず、突然あなたに性加害をした」「あなたをだまして、人から見えない場所/人のいない場所に連れ込んだ」の回答が多く、加えて13~19歳では「加害者は、こちらが予想していない言動をした」の回答が多かった。
30歳以上ではパートナーや顔見知りからの被害が多いためか、「加害者はその行為を愛情表現だと言っていた」が多数。なお、すべての年齢で「加害者はだんだんと身体を触る/触らせる行為を増やしていった」の回答が多い結果となっている。
発表を行ったSpringの西田なつみさんは「被害者は多くの場合、明確な暴力や脅迫・凶器の使用がなくとも恐怖を感じていたり、戸惑っていたり、体が動かない状態になっていると考えられます。また、加害者の言動から徐々に身体接触を増やすグルーミング的手法、予想外の行動をし騙し、自分の行為を正当化するなど被害者の戸惑いを利用し、被害者を追い詰め被害者の抵抗を抑圧。加害後には自分の行為を正当化するエントラップメントが推察されます」と分析する。
加害者と被害者の関係はどうか。データ全体では見知らぬ人からの被害が多く見られたが、挿入を伴う被害では「配偶者/恋人/パートナー」「知人」など見知った人からの被害が多く、親族などの割合も多い。
挿入を伴う場合、12歳までの被害では、親、親の恋人、親族、あるいは見知らぬ人の回答件数が多く、13歳以上では徐々に見知った人の割合が増え、20歳以上は大半が見知った人であった。
20代以上の見知った人とはパートナーや知人、上司や取引先の人など力関係のある相手が多い。見知った人が相手の場合には「加害者に合わせないと、あるいは加害者を受け入れないと、安全が守られない/ひどい目に遭うと思った」と何らかの力関係を窺わせる回答が最も多く見られた。
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