
Getty Imagesより
●“すべての人”にとって働きやすい職場をつくるために(第1回)
「部長はPCにレインボーのステッカー貼っているけど、そもそもすぐ怒鳴ったりハラスメントをする人だから、私は絶対カミングアウトしないと思う」
「確かにうちの本社は対外的にLGBT施策をアピールしているけど、全然現場に落ちてきていないし、恩恵を感じることはないかも」
働く性的マイノリティの当事者の中には、こうした“実感”を持っている人も少なくない。
2012年に電通総研が「LGBT調査」を実施し、その年には「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)と「週刊東洋経済」(東洋経済新報社)が「LGBT特集」を掲載した。
2015年に渋谷区、世田谷区の「パートナーシップ認定制度」が注目を集めて以降は、企業が同性パートナーへの福利厚生を適用するなど、いわゆる「LGBT施策」についてのニュースも大きく報じられるようになった。
ただ、社会から排除されてきたマイノリティを一義的に“LGBT市場”と捉える視点には疑問の声も多く、その後は、職場のダイバーシティ&インクルージョンの視点からの取り組みが広がっていった。
こうした動きに後押しされる形で法整備も進み、一つのマイルストーンとして、2019年5月にパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が成立、SOGIハラとアウティングの防止が企業に義務づけられた。
確かにこの約10年間で「LGBT」に関する報道は飛躍的に増え、企業の取り組みも進んでいる。では、働く性的マイノリティを取り巻く環境は、実感としても変わったのだろうか。
取り組み実施率のギャップ
2019年5月に成立した「パワハラ防止法」。パワーハラスメントの中に、性的指向や性自認に関する侮蔑的な言動「SOGIハラスメント」や、本人の性的指向・性自認に関する情報を同意なく第三者に暴露する「アウティング」も含まれ、企業に防止対策の義務が課されることになった。
パワハラ防止法は2020年6月から大企業で施行され、中小企業は2022年の4月から義務化される。
厚生労働省の委託調査を見てみると、いわゆる「LGBT施策」を一つでも実施している企業の割合は、大企業に絞ると4割にまで上ってきている。まさにこの間のLGBTをめぐる注目の高まりが影響していると言えるだろう。
その一方で、中小企業まで含めると取り組みの実施率は1割にとどまる。9割の企業はまだ何も実施していないのが現状だ。
確かにこの10年間で企業のポジティブな変化を感じている性的マイノリティも少なくないだろう。しかし、大企業だからといって、現場で働く当事者にとっては「“やってる風”だけで現場は何も変わっていない」と感じる人もいる。
一方、中小企業では、いわゆる「LGBT施策」は何も実施していないものの、会社のトップや同僚の認識がフラットで心地よく働けていると感じている当事者もいる。
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