バイデン大統領就任式〜マイノリティはアメリカを「完成」に導くか

文=堂本かおる
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ジェニファー・ロペス~スペイン語の「忠誠の誓い」

 国歌を見事に堂々と歌いきったレディー・ガガに続いて、ジェニファー・ロペスが登場した。シャネルの純白のパンツスーツに身を包んだJ.Loは、共に愛国の歌であるウディ・ガスリーの『我が祖国』と、『アメリカ・ザ・ビューティフル』をメドレーにして歌った。『我が祖国』は原題を『This Land Is Your Land』と言い、歌詞も「この国はあなたの国、この国は私の国」から始まる。

 続いてジェニファーは「忠誠の誓い」の一部をスペイン語で高らかに唱えた。

「万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる、いち国家!」
One Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all!

 そして、自身のヒット曲のタイトル部分を叫んだ。

「Let’s get loud!」(さぁ、派手に行こう!)

 ジェニファー・ロペスもソーニャ・ソトマイヨールと同じく、ニューヨークはブロンクス出身のプエルトリコ系だ。近年、全米各地でラティーノがスペイン語で会話をしていると見知らぬ通行人が「英語で喋れ!」「ここはアメリカだ!」と怒鳴るシーンが報告されている。ラティーノの人口は急増中で、やがては白人の人口に追い付くとされている。自身をアメリカの主人と捉える白人には大変な脅威となっているのだ。

 そうした時勢の中、ジェニファーはアメリカ人として愛国の歌を歌い、ラティーナとしてスペイン語で「忠誠の誓い」を唱え、「ラティーノだから、スペイン語だからと気兼ねして大人しくする必要はない」という意味を込めて「さぁ、派手に行こう!」と叫んだのだった。

 ちなみにアメリカは公用語を制定しておらず、英語は習慣的に使われているに過ぎないとも解釈できる。

ジェニファー・ロペス:『我が祖国~アメリカ・ザ・ビューティフル』

ガース・ブルックス『アメージング・グレイス』

 パフォーマンスのトリは、大物カントリー・シンガーのガース・ブルックスによる『アメージング・グレイス』だった。

 カントリー・ミュージックはアメリカ白人文化の象徴とも言えるジャンルであり、そのシーンを代表するシンガーの民主党大統領の就任式登場には両党の支持者が共に驚いた。さらに名曲『アメージング・グレイス』は、18世紀にイギリスの奴隷船船長であったジョン・ニュートンが後にキリスト教徒となり、さらに奴隷解放論者となって歌詞を書いた曲だ。教会で歌われるだけでなく、ポピュラー・ソングとしても永遠の人気を保っている。

 2015年、サウスカロライナ州の黒人教会で白人至上主義者が乱射し、9人が亡くなる事件があった。教会での追悼式に参列したオバマ大統領 は壇上でこの歌を歌い、自身の黒人性と同時に一国のリーダーとしての資質を見せた。

 このようにアフリカン・アメリカンにとって深い意味を持つ曲を、白人のカントリー・シンガーが歌うことは、まさに「団結」「融和」の象徴であった。

ガース・ブルックス『アメージング・グレイス』

デヴィッド・ジョー(シークレット・サーヴィス)

 上記のガース・ブルックスのヴィデオの37秒目あたりに写っている黒いスーツのアジア系の男性は、バイデン大統領付きシークレット・サーヴィスのトップ、David Choだ。このポジションにアジア系が就くのは初として話題となった。Choは韓国系アメリカ人であり、Choは「ジョー」と発音されることから、韓国系アメリカ人の間では「2人は親戚」「デヴィッド・ジョー・バイデン」など、プライドを込めたジョークが飛び交った。

バイデン就任演説「団結」

 多くのマイノリティがフィーチャーされた就任式だったが、ジョー・バイデンの就任演説にも人種問題は盛り込まれていた。何度も繰り返された「Unity(団結)」と共に、「人種差別」「白人至上主義」「人種の平等」「制度的差別」といった言葉が使われた。リンカーンによる「奴隷解放宣言」、「キング牧師」、米国黒人「400年」の歴史にも触れている。

 就任式前の暴動はバイデンを大統領として最終的に認定する議員投票の最中に起こったが、その背景に人種問題があったことは、暴徒のほぼ全員が白人であったことからも明白だ。全ての事象を人種問題に結び付けることに異論もあるが、アメリカは人種差別の上に成り立った国だ。ネイティヴ・アメリカンを虐殺し、アフリカ黒人を奴隷として酷使した結果、繁栄した国だ。国の土台が人種差別である以上、すべてはそこに行き着く。

 米国初の黒人大統領の誕生や増え続ける移民が白人たちを脅かしている。人種差別は優位にある側がその優位性や既得権を無くすと気付いた時に激しくなる。優位にあった側にすれば死に物狂いのサヴァイヴァルだ。だからこそ手段を選ばず、陰謀論にも染まり、なんとしてでも自身の優位性を守ろうとする。

 したがってトランプという人種差別主義者を崇拝対象として頂き、歯止めの効かなくなった者たちが崇拝対象を無くした今、どのように振る舞うかの予測ができない。暴動に参加した暴徒は次々と逮捕されているが、軍歴のあったものが異様に多い。警官、消防士、政治家もいる。トランプ当選直後に言われた「貧しい白人」の怒りなどではないのだ。就任式で歌ったのち、ガース・ブルックスの人気は共和党支持者の間で落ちたとする記事もあった。結束、団結を訴えたブルックスは人種差別主義者から拒否されたのだ。

 アメリカの人種問題の解決法は、まだ誰も見つけることができずにいる。しかし、詩人のアマンダ・ゴーマンは言った。

「この国は壊れてはいない」
「ただ未完なだけだ」

 未完の国を完成に近づける道を模索するのは、今、生きている者、全員の役目だ。「見つからない」と嘆いている時間はない。模索を続けるのみなのだ。
(堂本かおる)

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