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新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化していることから、感染を過度に心配する人が増える一方で、感染をあまり気にしない人との分断が顕著になっている。
もっとも、本心から「自分だけは感染しない」と思い込んでいる人はおそらく少数派であり、たいていは「ちゃんと気をつけているから大丈夫」と考えているものの、その行動は慎重な人から見ると危険に見えるというパターンだろう。こうした乖離が生じてしまう最大の理由は、マニュアル思考と政府による無責任な説明にある。
午後8時前であれば感染しない、という話ではない
「午後8時以降の外出自粛」はその典型だが、マニュアル思考に支配されている人は、午後8時前であれば何をしても大丈夫だと考えてしまう。だが政府や自治体が午後8時以降の外出を自粛して欲しいと要請しているのは、当たり前のことだが、8時以降になると感染し、8時前であれば感染しないという理由からではない。
8時以降の外出を自由にするとお酒を飲む機会が多くなり、深夜まで「密」の状態で食事をする人や、キャバクラや風俗に行く人、踊りに行く人などが増えてしまい、結果として感染するリスクが高まるからである。したがって8時前だからといって同じことをすれば、当然のことながら感染リスクは増大するので、時間そのものが問題なわけではない。
要するに「8時以降の外出自粛」という話は、できるだけ他人と食事をしたり、近い距離で会話をしたり、あるいは直接接触するような行動は避けて下さいという意味であり、それが顕著になるのが夜8時以降なので、8時という時間が設定されただけの話だ。8時前だからといって3密状態でお酒を飲んだり食事をすれば、感染リスクは増える。
ところが政府は「8時以降の外出は控えてください」としか説明しないので、マニュアル思考の人は8時前なら安全だと思ってしまう。
「会食の自粛」も同じようなものだろう。会食の自粛が呼びかけられていることから、多くの企業において、社内の飲み会や顧客との会食が中止になっているが、いわゆる会食さえしなければよいというわけではない。基本的に多くの人が集まって食事をするのはリスクが高いので避けた方よいという意味であり、場合によっては家族と外食に行くケースにもあてはまる。
もちろん、家族は毎日一緒に住んでいるので、他人と食事をすることとはワケが違う。だが飲食店に出かけた場合、感染対策から席間を広く取ってあったとしても、ここまで市中感染が広がると、店内で感染者と遭遇する可能性はそれなりに高くなる。すべての店において換気が100%完全とは限らないし、同じ店に大声でしゃべる集団客がいればその分だけ感染リスクは増える。不特定多数の人が同じ空間にいる時間はできるだけ短い方がよいので、家族と外食にいく場合でも、あまり長居はしない方がよいだろう。
それを言ってしまえば、街中でのスレ違いや電車の社内、エレベーターなどキリがなくなってしまうが、もし感染を強く心配しているのであれば、店に行くよりは、その店からデリバリーを頼んで家で食べた方がリスクは低くなる。このあたりは個人の価値観なので自身で判断するしかないが、他人と会食をしなければ絶対に大丈夫という話ではない。
政府の説明は常に誤解を生じさせる
このような説明をすると「風評被害を発生させる」「不安を煽る」といった批判を受けるがそうではない。米国のCDC(疾病対策センター)のガイドラインでは、明確に他人との距離を1.8メートル以上を確保することを求めている。ここで大事なのは、1回でも近づいたらダメということではなく、感染の確率が高くなるという意味であり、後は各自が判断するしかないのだ。
ランチを食べることの是非も同じである。夜にお酒を飲んで、長時間騒ぐことと比べればランチは短時間で済むのでリスクは低いだろう。だが、ランチであったとしても夜の会食と同じことをすれば当然のことながら感染の確率は高くなってしまう。
世の中では「何が良くて何が悪いのか分からない」といった声も聞かれるが、その原因の多くは政府の説明にある。
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