日常で頻繁に使うわけではないから出番は少ないけど、いざ使おうとなると手許にない文房具って、どんなものが思いつきますか。
わたしの場合は「液体糊」でした。子供から「糊貸して、学校に持っていくんだ」と言われてテープのりを渡そうとすると「違う、糊」と突っ返される──そんな経験のある親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
液体糊と言えば、ベストセラーの製品があります。1975年発売の「アラビックヤマト」です。
1899年、日本で初めて保存できる「でんぷん糊」をビン容器に入れ発売したヤマトは、糊の専門メーカーとして日本の糊事情を牽引してきました。1952年にはチューブ容器入りを発売、1958年にはガラス製ビン容器をプラスチック製ボトル容器に変更し、さらに使い勝手を向上させていきます。
アラビア糊からヒントを得て、でんぷん糊とは異なる使い勝手の良さを追求したのがアラビックヤマトでした。従来の糊はヘラで出したり手で塗ったりする必要があり、手が汚れるのが通例でした。アラビックヤマトは特殊スポンジキャップを通して糊をダイレクトに塗るので手を汚さず、それでいて接着力も強くてでんぷん糊よりも速乾性が高い製品でした。当初はでんぷん糊に較べれば高価な製品だったのですが、次第に受け入れられ、ベストセラーとなったのです。
また2019年には、白血病の骨髄移植で重要な造血幹細胞を培養する際に、培養液としてアラビックヤマトの主成分（ポリビニルアルコール：PVAL）が大量培養に適していることを東京大学とスタンフォード大学の共同研究チームが発表し、再びその存在がクローズアップされました。この実験では市販されているアラビックヤマトでも検証が行われ、実際に培養できることが確認されています。
現在でも封緘や工作などでは欠かせないアラビックヤマトですが、大人になってからの事務作業では糊を使うシーンは減っていますよね。確かにテープのりで済ませられる作業も増えました。
でも、それって、糊が不要になったと言うことではありません。紙を強力に、大量に、そして安価に接着したいというニーズがなくならない限り、アラビックヤマトもまた不滅なのです。
今回ご紹介するアラビックヤマトの限定品「パステルカラー」も、事務用品然としたパッケージでは飽き足らない貴方に贈る、糊の新提案です。
大きさ、内容量は一般販売されているアラビックヤマトのスタンダードサイズ（NA-150/50mlタイプ）と同寸同容量です。希望小売価格は170円＋消費税、スタンダードと同価格です。色替えされた限定品は定価が上がる例が多いのですが、これはかなり良心的で嬉しいですよね。
カラーは5色。パステルブルー、パステルイエロー、パステルピンク、パステルグリーン、パステルパープルがあります。
通常のアラビックヤマトは特殊スポンジキャップの基部がオレンジ色ですが、パステルカラーは基部がホワイトになっており、コンセプトとの調和が保たれています。
使い方は通常のものと同じです。最初に外キャップを外し、特殊スポンジキャップを外して中栓を取り出します。後は特殊スポンジキャップを元に戻し、逆さにしてスポンジに糊が染みてくるのを待つだけ。
塗ってみると、小学生の頃に味わった、あの何と言えない懐かしい感じが蘇ってきます。でんぷん糊にもスティック糊にもない、奥深い味わいです。
たくさん出し過ぎてはいけません。アラビックヤマトは少量でも強力です。薄くのばしたら貼り合わせて下さい。接着力は46年前からお墨つきです。
残念ながら白い特殊スポンジキャップのスペアは発売されていないのですが、通常のアラビックヤマトのスペアを流用することが可能です。糊じたいも補充用から詰替が可能ですので、気に入ったパステルボディを永く使うことができます。
ノスタルジックな昭和風味のボディですが、色合いは現代。見た目がかわいく、そして実用的。ご家庭にも、オフィスにも、どちらにも似合う製品です。
もともとアラビックヤマトは、事務で糊を使われている女性ユーザーの不満から生まれた製品でした。そういう意味では、パステルカラーのアラビックヤマトも、女性の視点から生まれた21世紀スタイルの製品と言えます。
かわいくて実用的なアラビックを、ぜひお手元にどうぞ。
（他故壁氏）
