トランスジェンダーの子育てを応援できるような社会に

文=遠藤まめた
【この記事のキーワード】

トランスジェンダーの子育てを応援できるような社会にの画像1

 日本には、世界に類のない「子どものいるトランスジェンダーにペナルティを課す」ルールがある。法的な性別変更の要件を定めた法律である性同一性障害(GID)特例法にある「現に未成年の子がいないこと」という要件のことだ。

 結婚している人はダメとか、性別適合手術を受けないとダメだとか、GID特例法では戸籍の性別変更のための要件がいくつもあげられており、いわゆる「未成年子なし要件」もその一つだ。

 なぜこの要件があるのかというと、親の性別変更は「子の福祉に反する」とみなされているからだ。2003年に法律が制定されたとき、親が自分らしく生きようとすることを「子どもがかわいそう」とか「子どもに悪影響」などとみなす人たちがこの要件を作った。

 もとは子どものいる人は法的な性別変更ができないという厳しい要件だったが、それでは実子や養子のいる当事者は一生無理だという話になるので、法律ができたのちに「未成年の〜」という要件に緩和された。こんな要件を法律でさだめているのは世界中で日本だけだ。

 トランスが子どもをもうけたことに対する罰。子どもを育てていることに対する罰。すさまじい差別である。

 この「未成年子なし要件」をはずそうと長年努力している山本蘭さんと、ここのところ交流がある。蘭さんを知る人はお気づきだと思うが、彼女は「性同一性障害は病気」「LGBTの運動と、性同一性障害の運動を一緒にしないで」という立場で、私とはだいぶ考え方が異なる。むしろお互い180度ちがう主張を戦わせていた時間が長い。

 ただ私が20歳のときに、はじめて永田町でのロビイングを教えてくれたのも蘭さんで、以前から個人的な繋がりはあった。蘭さんは数年前から体調を崩し、余命宣告を受けている。何度かお見舞いに訪れているうち、考え方のちがいはあれど、蘭さんの悲願であるGID特例法の「現に未成年の子がいないこと」要件削除を、彼女の目の黒いうちに達成したいと思うようになった。それは3年後とか5年後では間に合わない。

 2003年に性同一性障害特例法ができたとき、世界に例のない「子なし要件」の登場に子どもがいる当事者たちは絶望し、自殺者も出た。そのときのことを忘れずに、自分が要件に該当するわけでもないのに闘ってきたという一点においては私は蘭さんをリスペクトしている。他のことでは意見はあわなかったけれど。

 特例法については課題がたくさんある。たとえば、本来は手術を希望しているわけではないのに「手術要件」を満たすために性別適合手術を受ける当事者がいることが問題になっている。「手術要件」のせいで、性別変更ができない当事者の人数は多い。

 このような要件を持つ国は世界中にあり、さまざまな国際機関やNGOがたびたびこの要件を問題視して、見直しを求めるキャンペーンを展開している。手術要件については、男女で異なる再婚禁止期間についてはどう考えるのか、公衆浴場の利用条件は事業者が決めるのか都道府県が決めるのかなど、見直しの際に検討しなくてはいけない関連の法制度がかなりある。

 それに対し「未成年の子がいないこと」要件は、外したところで他の法制度に対する影響はほとんどない。それにも関わらず、削除されないまま現在にいたる理由は、この要件を問題視してコミットメントする人が少なかったからだろう。

 他の要件と比較して「未成年の子がいないこと」のせいで性別変更できない当事者は人数が少ない。こんな法律を持つのは世界に日本だけで、あまりにオリジナルすぎるから、国際的な連帯キャンペーンの対象からも忘れられている。逆に言えば、国内外でたくさんの人が「未成年子なし要件」について知って、この要件のひどさについて話題にしたなら、この要件は見直されるんじゃないかと思っている。

 オンライン署名に賛同したり、SNSで「未成年子なし要件」について言及したり、子育てに性別は関係がないんだってことを自分の言葉で話してくれる人が増えたら、この要件はきっと外れる。

 そして、いつか子どもを持ちたい、子どもを育てたいと考えるトランスが罰せられるのではなく、あたりまえに周りから受け入れられて、応援されるような社会になってほしいと願う。

「トランスジェンダーの子育てを応援できるような社会に」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。