マイナンバーカードと成績の紐付けは、教育政策の質を高める?

文=畠山勝太
【この記事のキーワード】

教育データを蓄積してやらなければならないこと

 報道ではほとんど論点になっていなかったのですが、①のマイナンバーないしはマイナンバーカードを活用して、教育セクター外のデータを教育セクター内に取り込む重要性はかなり高いです。その理由は二つあります。

 一つ目は、フェアに教員や学校を評価するために、教育セクター外のデータが必須になるからです。

 具体例を出しましょう。メディアでよく見かける学校の教育成功談は、某有名男子中高一貫校の元校長先生や、伝統のある某有名公立中学校のエピソードです。しかし、そこでの教育実践は本当に優れたものなのでしょうか? もちろんそうである可能性もありますが、ただ単純にそこに通っている生徒の家庭環境が非常に恵まれているので、それに引っ張られているにすぎない可能性もあります。

 そうした可能性を考慮するために、マイナンバーを利用するというのはひとつの手だろうと思います。マイナンバーには社会保障や税務のデータが蓄積されているので、それを活用できれば、生徒の家庭環境を考慮した上で、素晴らしい教育実践をしている教員・学校・校長はどこにいるのかを特定できるようになります。

 そこから効果のある教育実践から学び、新たな教育政策を生み出せれば、少なくとも現状のメディアが取り上げるような、根拠が薄い「良い」教育よりは、より有意義なものを作り出せるはずですし、教員や学校もフェアに評価されるので、特に不利な背景を持つ生徒が多い学校で頑張っている教員達のモチベーションが上がることも期待できます。

 二つ目は、教育政策上で貧困を可視化することが必要だからです。「日本人がノーベル賞を取得した」「世界大学ランキングで東大の順位がどうだった」といった超トップ層の教育に関することは政策やメディア上で話題になることがよくあります。その一方で、「国際学力調査で、貧困層の学力が世界でトップクラスだった」「貧困層と富裕層の学力格差の小ささが世界でトップクラスだった」といったような貧困や格差の問題が大々的に話題となることはあまりありません。

 私が国連職員だった時もそのような実感があったのですが、色んな国の教育関係者は、メディアも官僚も政治家も、基本的にはエリートが揃っているので、「我が国のエリートは他国のエリートよりも優れているかどうか」に注意が向く傾向があり、生まれ育ってから交わることが無かったような貧困層の子供達のことは悪気も無く無意識に注意が外れがちです。

 今の日本では、いくつかの社会保障に関するデータは学校と結びつけられています。しかし、基本的にはどこの学校が厳しい環境にあり支援を必要としているのか、どの子供が支援を必要としているのか、ということがぼんやりとしか分かりません。これを、マイナンバーに紐づいた社会保障や税務のデータを教育セクター内に取り込むことで明確にして、教育政策の効率を上げるだけでなく、貧困や格差を見える化することで、特にエリート層の教育政策関係者に教育政策を通じた貧困・格差対策を迫っていくことが出来るようになります。

まとめ

 学習データが蓄積されることや、それがマイナンバーないしはマイナンバーカードと紐づけられることは何となく怖いなと思う読者も多かったと思います。

 整理してみると分かるように、学習データの蓄積や、それをマイナンバーないしはマイナンバーカードに紐づけることは、それが教育セクター内で閉じている、ないしは教育セクター外から教育セクター内へ流れ込むだけであれば、むしろ推進した方が良く、教育セクター内から教育セクター外へ出ていくのが怖いという問題です。

 何となく怖いからと反対したり、何となく良いから賛成したりするのではなく、具体的な制度設計の議論が行われるように、ここの部分は良いけど、ここから先はダメだ、という意見を持ってもらえると良いなと思います。

 もちろん、この記事の内容はあくまでも教育政策を専門とする私の見解なので、専門分野が異なる人はまた異なる見解になるでしょうし、特に専門分野が無くても、ある事故が起こった時のリスクの受け取り方や望ましいと思う社会の在り方によって見解は異なってくるはずなので、是非一度、この問題について何は良くて、何はダメなのか、考えてみてもらえると嬉しいなと思います。

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