週5日1日8時間働く“普通”も見直せばいい。テレワーク先進国が実践する「楽しい在宅勤務のコツ」

文=中村木春
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GettyImagesより

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、今まで日本ではあまり馴染みがなかったテレワーク(リモートワーク)を導入する企業が増え始めた。私の周りでも週に何回かはテレワークの日がある、という人がちらほら、コロナ以前には考えられなかったことである。

 わざわざ満員電車に揺られて会社に行かなくてもいい。家族と過ごす時間が増える。ギリギリまで寝れる。無駄な付き合いがなくなる――など、いいことづくめのようなテレワークだが、実際のところどうなのだろうか。

 イギリスでコロナ禍を迎えた私の場合は、こうだった。週に6日職場に通い朝から晩まで働いていた私の人生は、去年の3月に一変した。コロナによってその仕事を失い、ひょんなことから在宅で働ける仕事を得ていきなりのテレワーカーデビューを果たす。

 家から働けるなんて最高じゃないかと浮足立ち、最初こそ嬉々として家でPCカチカチやっていたのだが、だんだんとその理想と現実の差に打ちのめされていった。

 仕事着に着替えて通勤し出社する、という行動によってしっかりと隔てられていた仕事とプライベートという線がひどく曖昧になり、いま仕事をしているのかプライベートなのか、全てが溶けて一緒になってしまってオンとオフの切り替えが本当に難しい。

 気がつけば、ずっとなんとなく仕事をしているような気がする。家にいてもなんだか気が休まらない。家でオシャレにコーヒーを飲みながらバリバリ仕事をしている人たちのSNSを見て呆然とし、そしてなぜかBTSの動画をクリックしてしまい気づけば数時間が経過していた。

 だめだ。

 こんなことではだめだ、と私はGoogleの検索バーに『Working From Home Tips(在宅勤務のためのコツ)』と打ち込む。欧米は企業におけるテレワークの導入率が高く(厚生労働省の資料によるとアメリカ85%、イギリス38.2%、日本19.1%)、すでにテレワークのプロがコツをまとめているのではないか、と思ったのだった。

 すると出るわ出るわ、BBCや英ガーディアン紙に至ってはテレワークについての記事を集めた専用のページまで存在し、今すぐに使えそうなモノから「とにかく部屋をあったかくしろ」などといったよくわからないものまで玉石混合、欧米の主要メディアはありとあらゆるテレワークの記事で溢れかえっていた。

 それらの記事を日々読み漁り続け、約一年かけてなんとか家でも働けるようになった私が、数多の記事の中から特によく目にしたTips(コツ)を、自身の体験談を交えながら紹介していきたい。

狭い家なら「ワーク・ボックス」を試してみる

 ほとんどの海外主要メディアの記事にまず間違いなく書かれていたテレワークTipsナンバーワンは、“仕事ができる環境を整えよう”だった。

 「家の中に自分の仕事場を作る」「ベッドやテレビなどがある部屋で仕事をしない」「同居している家族に自分の仕事のスケジュールを知らせる」など、とにかく「ここは仕事する場所なんだ!」と自分に思い込ませるための空間を新たに家の中に作り出すことが大切なようだ。

 しかしこれらは、日本の住宅事情を考えると少し難しいのではないかと思った。仕事部屋を持っている人や、生活感のない空間を作れるほど家の広さに余裕がある人の方が少数派だと思う。

 そこで、 “ワーク・ボックス”を使う方法が、現実的に役に立ちそうだったのでオススメしたい。

“他に部屋がない場合でも、自分用のスペースを持つことは可能です。台所のテーブルで作業をしている場合、いちばん簡単なのは大きな箱―ワーク・ボックスを持つことです。その箱の中に、仕事に必要な道具を全て詰め込んでおいて、一日の始まりに全て取り出して使い、終わりにすべてを押し込みます。次の日もその繰り返しです。―英ガーディアン紙

 この方法なら、家の中に仕事のための場所を新たに作れなくても、箱の中身を出せば「仕事するぞ」モードに入ることができ、しまえば仕事が終わった気分になる。

 これとほぼ同じ方法を私も取り入れており、効果を上げている気がする。

 私の場合は、仕事道具にプラスして、以前オフィスで働いていたときに机の上に置いていた小さな柴犬の置物をワーク・ボックス(箱ではなくリュックだが)に入れている。

 狭い家の台所の隅でPCとノートを引っ張り出し、小さな芝犬をそっと添える私の行動は家族から奇怪にうつっていると思うのだけど、この柴犬に見守られている間は仕事をしなければという気持ちになる。

 私の事例はあまり参考にならないかもしれないが、“自分をハッピーにするものに囲まれながら仕事をしよう。―シカゴ・トリビューン紙というTipsもあったので、あながち間違いではなさそうだ。

孤独をなだめる新たなコミュニケーションの方法を考える

 テレワークが始まった当初のウキウキ感が過ぎた頃から、「テレワークはさみしい」「なんだか味気ない」といった声が聞こえるようになった。

 会社で同僚と交わしていた「部長の髪型変わったね」とか「あそこのランチ美味しいよ」などといったわざわざメールに書いて送るほどでもない“どうでもいい世間話”が、恋しいと感じる人も一定数いるようだ。

 テレワーク先進国ではどのようにしてその孤独を紛らわしているのか、社内のコミュニケーションをオンラインでどうやってとっているのか。いくつか紹介する。

“週に一度、チームのみんなでピザパーティーをしながらビデオ会議をします。同じ時間に同じピザがそれぞれのメンバーの元に届くよう手配し、離れていてもみんなで同じものを食べることでチームとしての絆を深めています。これは、仕事の未来なのです。昔と全く同じような方法で働くことはできません。私たちは新しい方法を作り出さなければなりません。―米タイム誌

 “仕事の中でも外でも、人とのコミュニケーションは重要です。テキストやメールの代わりに、ビデオ通話や電話をしてみてください。もしあなたが在宅勤務に悩んでいるなら、同僚や上司に相談してみてください。同僚も、実はあなたと同じように感じているかもしれません。また、ビデオ通話しながら一緒にコーヒーを飲んだり、金曜日にオンラインで集まる時間を設けるなど、コミュニケーションを心がけましょう。―NHS(イギリスの国民保健サービス)

 LINEやメールなど文章だけのやりとりではなく、ビデオで顔をみて話したり、離れた場所にいても同じ経験を共有したりといったことで孤独感を感じにくくなるようだ。

 オフィスで働いていた頃、業務連絡で送ったメールに対して、違うフロアからわざわざエレベーターを乗り継いで直接返事をしにやってくる人がおり毎回面食らっていたのだが、あの人は元気にしているだろうか(元気でいて欲しい)。

夜型の人もいる。自分のことをよく知ろう

“オフィスで働いていたときと同じように、早起きして、ランニングをします。家に帰ったらコーヒーを入れたりポッドキャストを聞いたり、犬の散歩をします。それからシャワーを浴びて、薄化粧をして、カジュアルだけどプロフェッショナルな服(スウェットなんかは絶対にダメ)に着替えます。私にとって、これらの“儀式”は一日を始めるために役立っています。―カナダ・CBCニュース

 仕事を始める前にランニングしてポッドキャスト聞いて犬の散歩――このような朝早く起きることの素晴らしさを語る朝活至上主義者による記事は一時のブームにのって巷に溢れかえり、完全に夜型の私はどんどん自分がダメな奴認定されていく気がしてしんどくなった。

 そしてしばらくの間、無理やり早起きして朝活に励んでみたのだがその後一日中集中力が散漫で結局夜中まで仕事をだらだらとする羽目になり毎日寝不足という本末転倒の状態だった。

 朝から輝いている人々への憧れ、そして失敗に次ぐ失敗。救いを求めてライフハック記事を読んでいるのにどんどん不安になっていく負のスパイラル。

 どうやら私と同じように朝活ブームに乗り切れなかった人は少なくなかったようで、だんだんと以下のようなTipsを見かけるようになっていった。

“在宅勤務の大きな利点は、朝型の人でも夜型の人でも、自分にとって最も作業効率が上がる時間に仕事ができる点です。深夜0時からでも、日の出前からでも、自分がいちばん集中できる時間に最大限仕事を行えばいいのです。自分に割り当てられた仕事の期限を守り、出席必須の会議などにさえでていれば、朝からでも夜からでも勤務スケジュールは調整可能なのです。―米ライフハッカー

 業種や会社の方針によってはなかなか難しいかもしれないが、もし自分である程度決められる仕事の場合は、世の中の流れなどに縛られずに、自分がいちばん集中できる時間帯はいつなのか、じっくりと見つめ直してスケジュールを組んでみるのもいい。

 もちろん朝に活動したい人は朝から、夜の方が元気な人はもう夜型として開き直って生きていく方が当人の心の健康にとってよっぽどいいと私は思う。

 朝でも夜でも、自分が本当に心地よく働ければそれでいいのだ。

本当は働きたい曜日や時間も、人それぞれ違うかもしれない

 「ニューノーマル(新常態)」という言葉が聞かれるようになって久しい。

 今まで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなり、多くの人が自分に合った働き方を模索し始めている。

 かつてのように決まった時間に決まった場所に集う勤務スタイルに戻りたい人もいれば、これを機に地方への移住を決めた人や、この流れをみてテレワークを導入している企業に転職する人など様々だ。

 働く場所もそうだが、本当は働きたい曜日や時間も、人それぞれ違うのではないか。

 子供がいる人も朝が弱い人も家で親の介護をしている人でも誰でも関係なく、月曜から金曜までの9時から5時の勤務が基本、もしこれに合わせられないようならパートや派遣の道へどうぞというのがある種社会の常識だったが、もしかしたら本当は、絶対にそうでなければならない理由などないのかもしれない。

 “普通”に週5日1日8時間働けないからやりたい仕事やキャリア形成を諦めなければならないような、そんな時代はもう嫌だと思う。

 人それぞれが自分に合った働き方を選べるようになれば、もっと多様な人材が活躍できるようになり、社会全体の幸福度が上がるのではないかと考える。

 このテレワーク普及の波は、今までの画一的な“理想的な働き方”の常識を疑い、多様な働き方を受容するという新たな常識を築いていく絶好のチャンスだ。

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