本当はこわい「控えさせていただく」という詭弁。強者と弱者を固定化するマジック

文=山崎雅弘
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Getty Imagesより

●山崎雅弘の「詭弁ハンター」(第3回)

 第二次安倍晋三政権で次々と安倍首相がらみのスキャンダルが発覚した時、当時の安倍首相や菅義偉官房長官、そして不正疑惑への関与を疑われた官僚たちが、揃って口にした台詞がありました。

 それは「何々が何々なので、お答え/説明を控えさせていただく」というものです。

 野党議員や記者の質問が、問題の核心に近づけば近づくほど、この台詞が語られる頻度が増えました。そして、この台詞が発せられると、野党議員や記者は、まるで行く手にバリケードを置かれたように立ち止まり、それ以上相手を追及するのをやめてしまいました。

 この台詞は、相手の質問を封じる効果という点では、今までのところ万能に近い「キラーワード」ですが、これも実は詭弁です。そして、これは単なる「はぐらかし」に留まらず、発する者とその相手との関係を上下の構造に固定化してしまう、きわめて危険でおそろしい詭弁なのです。

「その質問には答えたくないのでパス」が許されるか

 2021年1月4日、京都新聞は「『お答え控える』80倍以上に 国会で説明拒否 1970年比で、2018年は580回に」という見出しの記事を掲載しました(参照)。

 立命館大の桜井啓太准教授(社会福祉学)が、国会会議録検索システムを活用して、「答えを控え」「答えについて差し控え」など類似の16パターンについて、国会で発せられた回数を集計したところ、1970年は7回だったものが、その後に少しずつ増加し、2012年12月にスタートした第二次安倍政権下で頻度が激増して、2017年〜2019年にはいずれも毎年500回を超えていた、という内容でした。

 発言者別では、安倍前首相が165回と断トツで多く、二位の森雅子前法相の94回を大きく引き離しています。菅首相も、官房長官時代からこの台詞を頻繁に使用しており、このまま使い続けたなら、安倍前首相の記録に追いつくか、または追い越すことも十分に考えられます。

 けれども、われわれが考えなくてはいけないのは、こんな詭弁に慣れてしまってはいけない、ということです。首相や大臣、および内閣の指示を受けて公務を行う公務員は、国政に関わる問題や不正疑惑の追及に対し、本当のことを説明する義務を負っています。「その質問には答えたくないのでパス」という返事は許されませんし、国会でそんなことを言えば、まず間違いなく非難囂々でしょう。

 政治家や官僚が、見た目は謙虚な態度で言う「お答え/説明を控えさせていただく」という台詞は、論理的に考えれば、「その質問には答えたくないのでパス」という返事と、まったく同じです。何が違うかと言えば、「控えさせていただく」という言い回しが持つ、謙虚で奥ゆかしいような雰囲気ですが、実際にやっていることは高圧的な「返答の拒否」であり、謙虚どころか、きわめて傲慢な振る舞いです。

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