菅田将暉で『CUBE』リメイクに騒然。なぜいま24年前のカナダ映画が日本でよみがえるのか?

文=菅原史稀

カルチャー 2021.02.06 11:00

映画『CUBE』公式Twitterより

 菅田将暉、杏、岡田将生、斎藤工らの出演で、カナダのスリラー映画『CUBE』(1997年)日本版リメイク作品が公開される。豪華キャスティングにも視線が集まるが、このリメイク作に最も多く寄せられているのは“あの『CUBE』がなぜ、いま日本で?”という期待と不安が入り交じった声だ。

 ヴィンチェンゾ・ナタリ監督によって製作された『CUBE』は、当初カナダのB級映画館のみで上映されていたところ口コミで爆発的に公開規模を拡げ、ここ日本でも単館作品として異例の大ヒットを記録したカルト映画の名作。公開当時に映画ファンから熱狂的支持を集め、今でも語り継がれるのは、その斬新な設定だ。

 映画は、6人の男女が立方体の部屋で目を覚ます場面から幕を開ける。見知らぬ他人と共に見覚えのない場所に閉じ込められてしまった登場人物たちは、なぜここにいるかも分からぬまま出口を目指して探索を始めることとなった。各部屋の6面に設置された扉を開き、隣の部屋へ移動することが脱出する手立てと予測した彼ら。しかし数々のトラップが張り巡らされた立方体からの脱出劇は、命を懸けたサバイバルへと展開していく。

 2021年現在となってはありふれたようなストーリーラインにも聞こえるがそれもそのはず、この後に全世界で大ヒットを記録した『SAW』シリーズなど数多の映画作品に影響を与えたのは他でもない本作なのだ。

 同作で“発明”され大きなムーブメントをもたらしたこの様式について、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督はこう語っている。

<『CUBE』のアイデアは第二次世界大戦中に制作されたヒッチコックの『救命艇』(44)から発想を得ているから、完全にオリジナルなアイデアというわけではないとは思うけど、『CUBE』は全く新しい方式でそれを映像化したのかもしれない>

 確かに、海に漂流する一隻の船で繰り広げられる男女8人の心理戦を描く『救命艇』には、『CUBE』の特徴的な様式の源流が感じられる。

 ヒッチコック作品から着想された『CUBE』の設定は、製作上の事情を逆手にとった工夫によって画期性をなしていく。

 元々B級映画として企画された本作は、日本円にして約5000万円という超低予算で製作する必要があったため、限定的なシチュエーション、わずかな登場人物のみで進行するストーリーが編み出された。

 加えて、限られた製作費で作られた立方体のセットはたった一つのみ。作中では登場人物たちが複数の部屋を移動しているように見せかけるため、各部屋の室内照明を変えるなどの手法がとられた。

 シチュエーションスリラーの様式を、立方体の部屋という無機質なビジュアルで展開させる本作が観客に与えるのは、まるでゲームをプレイしているような没入感だ。部屋を移動するごとに変化する色彩も、TVゲームにおけるステージ進行のような感覚に通じる印象も受ける。

 実際に『ROOM25』など数々のゲーム作品にも影響をもたらしたことで知られているこの『CUBE』は、映画に“ゲーム性”を持ち込んだことにより、その後のハリウッドで一大ブームを巻き起こしたシチュエーションスリラーと呼ばれるジャンルのパイオニアとなったのだった。

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菅原史稀

2021.2.6 11:00

編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。

@podima_hattaya3

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