ここ数週間ほど日本では音声会話をベースとしたSNSアプリ「Clubhouse」が爆発的な人気を得ている。
しかし米国では、Clubhouseには差別やヘイトスピーチを助長してしまう構図があることが昨年から大々的に問題視されている。新たな「ツール」としてのテクノロジーが社会にもたらす影響、そして逆にテクノロジーが社会から受ける影響について考える必要性が提起され続けているのだ。
Clubhouseでユーザーは、開設された「ルーム」に入り様々な話題に関する会話を聞きに行くことができる。セレブや有名起業家の「オフレコ話」を聞いたり、彼らと実際に話すことが可能な点も大きな魅力とされている。
誰でもアプリをダウンロードしてすぐに使えるわけではない。完全招待制であるため、まずは既に会員になっている人から招待される必要がある。また、トーク部屋で参加者が発言したい場合、挙手をしてモデレーターに許可をもらわなければならない。
チャット・コメント欄は存在しないトーク部屋の会話を録音して公開することは禁止されており、その「記録が残らない」仕様も特徴的だ。
差別などの問題が起きるのは「どのアプリだってそうでしょ」「そんなに文句言うことじゃない」と思う人もいるかもしれない。しかしクローズドなSNSであるClubhouseだからこそ起きることや深刻化させる問題がある。またテクノロジーを応用する際に、現代的な倫理やモラルを持って安全で公平な場を提供するのが「2021年的な価値観」であることも事実だ。他のアプリでも起きているのだから問題ない、というのは通用しないだろう。
Black Lives MatterやMeTooをきっかけにテクノロジーにおける差別、バイアス、倫理観の影響などが盛んに議論されているのにも関わらず、既存の権力構造は変わることなく、むしろ逆方向に進んでしまったのがClubhouseの問題だと指摘されている。インターネットを使って「誰とでも繋がれる」時代だからこそ、テクノロジーが生まれた社会的な背景や現在進行形で発生している問題に目を向ける必要があると考えられているのだ。
前編では米国で起きたClubhouseの事例をいくつか紹介していく。
1)人種差別やLGBTQ差別など、マイノリティに対する差別問題
例えば、Clubhouseで発生したマイノリティに対する差別の指摘は以下のようなものだ(すべて筆者による翻訳)。
「反ユダヤ人、ホモフォビア、トランスフォビア、ミソジニー、人種差別等々を目前にしてもなおClubhouseが何もアクションを起こさないことを受けて、私はポジティブなものを(アプリ内に)もたらし続けるわけにはいかない。」
I come as the bringer of bad news bears- I think trivia is over for the foreseeable future.
I can’t continue to bring positive things in wake of the continued lack of action by CH in the face of anti semitism, homophobia, transphobia, misogyny, racism ( etc etc).
— Rhian Beutler (@rhiankatie) December 21, 2020
「反ユダヤ的言論やハラスメント問題で注目を集めている招待制アプリClubhouseは、ユーザーが安心して利用できるようにすることに重点を置いているという。しかし、その性質上、ミソジニーや人種差別に媚びる権力者たちの避難所となっている。」
(“YOU BECOME HOSTAGE TO THEIR WORLDVIEW”: THE MURKY WORLD OF MODERATION ON CLUBHOUSE, A PLAYGROUND FOR THE ELITE)
米国では新型コロナウイルス拡大の時期と重なり、当初Clubhouseへの注目が集まった。しかし、ジャーナリストたちの利用が広がっていくうちに、クラブハウスで差別的な発言が横行していることが問題視されるようになった。
実際にルームのタイトルに差別的な言葉が掲げられていたり、有名人同士が差別的な話題を「ネタ」とした会話で盛り上がる場面、事実と異なる発言がされることがある。しかしモデレーターによって選定された人しか話せず、さらに音声の記録ができないため、指摘や反論、追求ができず放置される状況が続いた。実社会において差別を受けていたり、マイノリティとして声をあげづらいような生活をしている人たちが、「表現の自由」の名の下でアプリの中でも被害を受けやすいのだ。
アプリの規約上では差別的な発言やいじめと見られる行為は禁じられているものの、閉鎖的な空間であり、かつ「権力」や「知名度」が可視化されやすいようなアプリの構造上、実社会でも頻繁に起きる差別的な発言をなくすことは現実的には難しい。
「Clubhouseは黒人女性のための安全な空間であるはずだったが、実際は違った」というタイトルの記事では、ミソジノワール(特に黒人女性がミソジニーの標的にされる問題)について当事者の目線から詳しく書かれている。ドレイクやヴァージル・アブロー、オプラなどのセレブがClubhouseの初期ユーザーとして参加しており、イギリスではユーザーの過半数が有色人種の人たちだとされていたことによって、人種差別やヘイトスピーチが横行している他のSNSとは異なり、黒人女性にとって安全な場所であることが期待されていた。しかし残念なことに、アプリが普及していくうちに、特に黒人女性たちの安全が侵害されていったことについて綴っている。