
(C)みたらし加奈
——LGBTQ+、フェミニズム、家族・友人・同僚との人間関係etc.…悩める若者たちの心にSNSを通して寄り添う臨床心理士が伝えたい、こころの話。
_____
私たちが日常的に摂取している砂糖には、実は強い依存性が隠されていることをご存知だろうか。砂糖は「マイルドドラッグ」と呼ばれることもあり、薬物やアルコール同様に強い依存性を持つ。適量を摂取する分には問題はないものの、その依存性については意識されることが少ないために、知らない間につい摂りすぎてしまったり、気がつかないうちに“砂糖依存症”になってしまったりしている人もいるかもしれない。
なぜこのような話をするかというと、それは私自身が無類の甘い物好きだからである。1日3食甘いものだけで生活することも厭わないし、数時間おきにスイーツを食べたい衝動に駆られている。食事のあとにデザートを食べなければ、なんとなく食事が終わった気にならない。
この自他ともに認める「甘党」っぷりは、年々加速してきた。面白いことに私の家族も皆甘党で、小さい頃から「砂糖」に囲まれて生きてきた。そしてなぜだか親族には糖尿病の罹患者がひとりもおらず、その事実は私の中の「危機感」を完全に取り払ってしまった。
しかし、そんな私が「もしかして砂糖って結構”ヤバイ”ものなのか……?」と意識するようになったのは、『あまくない砂糖の話』というドキュメンタリー映画を観てからだ。映画の中では、デイモン・ガモー監督本人が、ティースプーン40杯分の砂糖を60日間摂り続けるという人体実験を行う。ネタバレになってしまうので詳細は省くが、結果的に身体だけではなく、メンタルヘルスにも大きな影響を及ぼすことがわかった(イラストを交えたわかりやすいドキュメンタリーなので、ぜひとも多くの方に観て欲しい)。
その映画を観終わったあと、私はあまりのショックに呆然としてしまった。もしかすると私の精神的不調の理由には、「砂糖の過剰摂取」という要素も加わっていたのでは……? という思いが、その時初めて頭をよぎったのだ。
なぜ砂糖の摂りすぎが怖いのか

(C)みたらし加奈
私たちは日々、何かを摂取しながら生きている。当然のように、口から入った物質は身体の中で分解されていき、自らの血肉となっていく。また血肉になるだけではなく、時にはそれが脳内物質の分泌を促し、感情のコントロールと直結することもある。心と身体はつながっているため、「何を食べているか」「どんな食生活を送っているか」がその人のメンタルヘルスとも密接に関係しているのだ。
ここで少し、身体の仕組みについても説明をしておきたいと思う。糖質が体に入ると消化酵素によって分解され、ブドウ糖に変化する。それが血に溶け込んで全身をまわり、血糖値を上昇させる。糖質といえば炭水化物なども挙げられるが、糖の中でも砂糖は特に分子が小さいため、体の中で分解されやすい。そのため吸収率が高い空腹時に砂糖を摂取すると、血糖値が急上昇してしまう傾向にある。
血糖値が急上昇すると、今度は血糖値を下げる働きのある「インスリン」と呼ばれるホルモンが分泌され始める。インスリンの影響で血糖値が急低下することで一転、「低血糖」を引き起こす。低血糖になると、脳は「お腹が空いている」と勘違いをして、<糖分を摂取して血糖値を上げて!>と指令を出してくるため、私たちはまた、「炭水化物や甘いものが食べたいな〜」と何も疑わずに糖質を摂取する。こうして血糖値の波が急激に上がったり下がったりを繰り返していく。
意図的にそのサイクルと向き合っていかない限り、このループは引き起こされ続け、心身ともに大きな影響を及ぼしてしまう可能性もあるのだ。
実はこの「低血糖」の状態の時にアドレナリンやノルアドレナリンなどの脳内ホルモンが分泌され、イライラを感じて怒りっぽくなることや、不安感が増大することがある。また砂糖には、“幸福感”や“癒やし”を感じさせるドーパミンやセロトニンなどの分泌を促す働きがあり、一時的な摂取によって大きな満足感が得られてしまうのだ。そして「糖質を食べると、なんだか幸せに感じる」という状態が頻繁に繰り返されることで、やがて脳は快感がクセになり、上記のサイクルを繰り返しやすくなってしまう。
以上の話からも、砂糖がなぜ「マイルドドラッグ」と呼ばれるのか、なんとなく想像がついたと思う。ただ、「砂糖」自体が悪いという話ではなく、用法・用量を考えながら摂取すればいいのだ(と、甘党の私は思いたい)。もしもあなたが以下の症状に悩まされているときは、砂糖依存症の可能性があるため、食生活について見直す必要があるのかもしれない。
・甘いものを摂取しないとイライラしたり、不安定になる
・甘いものを摂取しないとぼんやりしてしまう
・ストレスを感じると甘いものが食べたくなってしまう
・飴や甘いジュースなどを常に持ち歩いている
・喉が渇くと甘い飲み物を摂取してしまう
・疲れやすく、甘いものを食べると元気が出る
・甘いものを食べないと目眩や立ちくらみがする
栄養価の高いものを安価で、気軽に摂取できる今、「何がなんでも甘いものから糖質を取らなければいけない」という状況ではない。だからこそ、ケーキやスイーツなどはあくまで「最高の娯楽」の一部であることを知っておくことも必要だ。私の経験上、案外「砂糖を取らない日々が続くと、それに体が慣れていく」のも事実だと思う。なぜなら、体に必要な「糖質」という物質は、砂糖以外からも摂れるからだ。自分の心と身体の健康のために、大好きなスイーツを日常化せず、ご褒美としてとっておく。それもまた、頑張る楽しみができてよいのではないだろうか。
_____
▼『デジタルネイティブ時代のこころの処方箋』では、皆様からみたらし加奈さんへのお悩みを募集します!
みたらしさんに相談したい方、誰かに悩みを打ち明けたい方、なんだか気分が晴れない日が続いている方は、ぜひ、ご応募ください。
▽応募フォーム
https://forms.gle/hp5hUrPspwBCxCsr6