投資している人の7割が損を出しているという、金融庁の驚くべき調査結果

文=加谷珪一

マネー 2021.02.12 10:00

GettyImagesより

 投資というのは参加した人の8割が損をすると言われるほど厳しい世界である。あてずっぽうに投資をしても損益は半々に思えるかもしれないが、投資判断は心理状態に大きく左右されるので、特に相場が下落すると、損失を拡大するような行動を取りがちだ。

金融庁が長期投資を推奨している理由

 筆者は20年以上にわたって株式投資を続けており、それなりの成功を収めているが、8割の個人投資が損をするというのは、筆者の実感としても理解できる。証券会社は平均2年で顧客が入れ代わるとも言われており、多くの投資家が損を出しては投資から撤退し、新しい投資家が市場に入ってくる。

 金融庁は近年、個人投資家が健全な資産形成を図れるよう、環境整備を積極的に行っている。金融庁は個人投資家が安定的に資産形成するためには、長期の積み立て分散投資を行うことが有効としており、そのためには資産形成に適した事業者を選択する必要があると主張している。

 金融庁が投資環境整備にこれだけ躍起になっている背景には、公的年金の財政悪化によって、今後、年金給付が大幅に減る可能性が高いという現実があるので、何とも微妙な話ではあるが、金融庁が主張している内容そのものはまったくもって正しい。

 資産形成を成功させるには、長期的スパンで資産残高を積み上げることが重要であり、これを着実に実行できれば、成功する確率は上昇する。だが冒頭でも説明したように、現実には不安心理から投資を継続できないどころか、損失を拡大させるような判断をしてしまう人も多く、個人投資家の成績は良くない。

 金融庁は投資家が金融事業者を適性に選択できるよう、定期的に調査を行っており、その中には、顧客がどのくらい利益を出しているのかという注目すべき情報も含まれている。だが、この調査結果はなかなかショッキングだ。一般的に言われている通り、顧客の8割が損失を抱える事業者が結構な割合で存在しているからである。

 調査は2020年3月末を基準として、何割の顧客が利益を出しているか(運用損益率が0%以上なのか)について分析したものである。ただしこの結果は金融庁にデータを提出した金融機関のみが対象なので、データを提出しなかった金融機関の場合、投資家の損益状況は分からない。

▼金融庁調査
「安定的な資産形成に向けた金融事業者の取組み状況」

平均すると7割の顧客が損している

 2020年3月末というのは、コロナショックで株式市場が下落し、反転上昇したタイミングである。したがってコロナ直前に投資を開始した人はかなりの割合で損失を抱えていることが推察される。一方、日経平均株価について長期的に見れば、日銀が量的緩和策をスタートして以降、基本的に一本調子で上がっていたので、1年以上投資を続けていれば、それなりに儲かっているのではないかとも思える。

 だが、結果はまったく違っている。

 調査は金融機関の種類別に行われており、具体的には、主要銀行の投資信託、地域銀行(地銀など)の投資信託、信用金庫の投資信託、証券会社など(対面およびネット)の投資信託などがある。

 2020年3月時点で顧客の損益がプラスになっている割合の全体平均値は30%だった。つまり3割の顧客に利益が出ていて、7割の顧客が損しているという状況である。冒頭で紹介した「8割」ではなかったが、かなりの顧客が損を出していることが分かる。

 ただ、金融機関によってそのバラツキには幅がある。主要行の投資信託では、トップだった新生銀行は53%の顧客が利益を出しており、下位の銀行は85%が損失を出している。地域銀行ではトップのスルガ銀行は65%の顧客が利益を出し、下位銀行は85%が損失を抱える。主要行と地域銀行の区分においては、上位では5〜6割の顧客が利益を出し、下位では8割以上が損している図式と考えてよい。

 信用金庫の場合、少し様子が異なる。トップだったしまなみ信用金庫は9割の顧客が利益を出しているが、下位の信用金庫は97%の顧客が損失を抱える。信用金庫の場合、上位と下位の差が激しいことが分かる。

証券会社の成績があまり良くない理由

 では証券会社はどうだろうか。対面証券の場合、全般的に成績があまり良くない。2位だった野村證券でも損益がプラスになっている割合は43%となっており、多くの証券会社が平均値である30%を下回っている。一方、ネット証券、投資運用事業者のカテゴリーでは、トップのありがとう投信は78%の顧客がプラス、下位は90%がマイナスだったが、著名なネット証券会社は8割から9割が損失を出しており総じて結果がよくない。

 全体を通して見ると、銀行の成績は平均的で、信用金庫が高く、証券会社が悪いという図式である。商品を購入する金融機関によって成績が異なる理由は、おそらく推奨する商品の違いに起因していると考えられる。

 最終的に投資というのは自己責任であり、投資判断は自分で行わなければならない。しかしながら、証券会社や銀行は、顧客の求めに応じて、ある程度までなら金融商品を推奨することができる。「絶対に儲かる」などと説明するのはNGだが、顧客の知識や経験、目的などをヒアリングし、適切な商品を選択して提示するところまでは許されている(適合性の原則)。

 だが、こうした原則に準拠した上で、具体的にどのような商品を選択するのかで、投資家の最終的な損益は大きく変わってくる。ここで注意する必要があるのは、成績が良好な金融機関だからといって、常に投資家の損益状況が良いとは限らないということである。実際、以前に行われた同様の調査では、成績優良な金融機関の顔ぶれはまったく違っていた。

今の成績が今後も継続するとは限らない

 投資というのはいつ投資をスタートするのかで損益が大きく変わってくる。新規の顧客が多い金融機関の場合は、損益はあまり良くない可能性がある。また相場の状況が変わり、その相場環境に合致しない商品を推奨すれば、成績良好だった金融機関もランキングが下がる可能性は十分にある。

 投資で成功するためには、最初に立てた戦略を忠実に実行する胆力が必要となる。もしその戦略が完全に間違っていると判断された時には、損失を出してでも撤退すべきである。だが、十分に判断できない段階で、相場が下がったという理由だけで銘柄を売却してしまうと、その後に株価が急激に戻して、損失だけが残るという事態にもなりかねない。

 特に長期投資の場合、毎年一定額を着実に積み立てていけば、10〜20年という期間ではたいていの場合、大幅なプラスに転じているケースが多い。ストレートに言ってしまうと、周囲の意見に左右されやすい人や、すぐに動揺する人、過剰な思い込みがある人は、あまり投資には向かない。金融機関や証券会社に進められるまま、商品を買ってしまう人も十分に注意した方がよい。結局のところ、投資の成果を生み出すのは、金融機関ではなく自分自身の判断である。

加谷珪一

2021.2.12 10:00

経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社などを経て独立。経済、金融、ビジネスなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。

関連記事

INFORMATION
HOT WORD
RANKING

人気記事ランキングをもっと見る