鉛筆はどんなときでも故障知らずで書ける、究極の筆記具だと思っています。
たいていの筆記具にはメカニカルな部分があり、そこが故障する可能性があります。ガラスペンやつけペンや筆は別途インクや墨を持ち歩く必要があります。内部にインクを持つ筆記具はインク切れが起こったりインク詰まりがあったら書けません。その他の筆記具も、インク部分が経年劣化するものがほとんどです。
でも、鉛筆は黒鉛が劣化して書けなくなることはないですし、芯が折れたとしても周りの木軸を削ることさえできれば、必ず書ける筆記具です。エマージェンシーペンとして、「絶対に書ける筆記具」である鉛筆は簡単にはなくならないと信じています。
ただ、弱点はあります。前述の通り、鉛筆は削らないと次の芯が露出しません。そして削ることによって、どんどん短くなっていきます。最後、握れない数センチは「書けるのに使えない鉛筆」になってしまいます。
鉛筆補助軸によって延命を計ることもできますが、残念ながら補助軸でも掴めない長さになってしまえば、最終的には「書けるのに捨てざるをえない」部分が残ります。これがもったいない、という発想はとても重要です。
今回ご紹介する北星鉛筆の「0waste(ゼロ・ウェイスト)」は、この「書けるのに使えない鉛筆」がゼロになる画期的な製品です。
パッケージに「短くなった鉛筆を、つないで使うecoな鉛筆」とあるとおり、本製品には2本の鉛筆をつなぐための構造が内在されています。
紙箱を開けてみると、やや短めの、削られた状態の鉛筆が4本収められています。一般的な鉛筆の全長はだいたい18センチほどありますが、本製品は削られた状態で12センチです。削られた先も、あまり見覚えのない段差がついています。
実は、本製品は使用前に鉛筆削りで先端を削る必要があります。この段差削りは、筆記のために削られているわけではないのです。
鉛筆の後端、おしりの部分を見てください。穴が開けられているのが判ると思います。ここに、段差削りが施された先端を差し込むのです。使い方はこんな感じです。
1)まずは1本取り出し、手持ちの鉛筆削りで先端を書きやすい形に削る
2)通常の鉛筆と同様に筆記する
3)何度か削って短くなり、握りにくい長さになったら2本目の0wasteを取り出す
4)別途木工用接着剤を用意し、2本目の段差削りになった先端に適量塗布する
5)既に短くなった1本目の後端穴に、接着剤を塗布した2本目の先端を挿入する
6)はみ出した接着剤を拭いて取り除く
7)乾燥させる
本製品の全長が12センチと短いのは、短くなった鉛筆をつないだあとにその全長が18センチを超えないよう配慮された長さだからでしょう。パッケージには「まだ長い鉛筆をつなぐと長くなり危険です。つないだ時に18センチ程度以下になるようにして下さい」と記載があります。市販品を超える長さになることは、メーカーとしても想定外です。目安としては、先端を削った際に鉛筆本体に印刷された0wasteのロゴ近くまで塗装が削られたら、だいたい残り6センチです。つなぐ先端部分が1センチ重なりますので、全長は18センチを割り込みます。
パッケージに印刷された鉛筆は、つないだ状態で18センチ原寸になっています。これを超えないようにしてください。
つないだ部分がうまく書けないのではないか、と疑問に思われる方もいらっしゃるかと思います。つないだ部分の芯は周りが木で覆われている間は書けますし、削った際に芯だけ剥き出しになったら落ちますから、ほとんど気になりません。
書き心地はもちろん市販の鉛筆となんら変わるところはありません。濃さはBと2Bの2種類ですが、どちらもたいへんなめらかに筆記できます。
この鉛筆を買い続けている限り、まさにゼロ・ウェイスト──捨てる部分なしで延々と鉛筆を使い続けることができます。
では、いま手許にある短い鉛筆はどうすればいいのでしょうか。これは捨てるしかないのでしょうか。
実は、本製品と同じ削り方のできる鉛筆削り(正確には「先端を尖らせるためではない、鉛筆をつなぐために削る専用道具」です)が市販されています。中島重久堂の「TSUNAGO」です。
これは短くなった鉛筆の先端を段差削りにし、そして後端に挿入用の穴を開けることができる製品です。このTSUNAGOを使えば、市販の鉛筆も0wasteにつなぐことが可能です。
ただしTSUNAGOは力と根気と慎重さのいる作業をしないといけない製品で、文房具と言うよりは「作業のための道具」です。削られた黒鉛で手も汚れますし、後端の穴開けは慎重に行わないと鉛筆本体が破断してしまうこともあります。
北星鉛筆の0wasteはこの後端穴開けをすでにを施してある、という意味でたいへんユーザーに優しい製品であると言えます。
4本で280円(税抜)ですから、1本あたり70円。全長を考えるとやや割高に見えます。しかし18センチのうち6センチを「書けるのに使えない鉛筆」として捨てていたと考えると、その差はゼロに等しくなります。エコでもあり、SDGsの提唱されている現在ではたいへん有意義な製品だと思います。鉛筆を使われるお子様のいらっしゃるご家庭や、エコロジーに関心がある方、そして何より鉛筆がお好きな方にぜひお使いいただきたい画期的な製品です。
(他故壁氏)