男友達との“浮気禁止”ルール…選民意識と「男らしさ」への不安で揺れた男性の学生時代

文=清田隆之
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GettyImagesより

(※本稿の初出は『yomyom vol.66』(新潮社)です)

劣等感と権力欲から少しは自由になれてきた。けど、ある女性への執着が消えてくれない

 今回お話を伺ったのは、介護職のアルバイトをしながら作家を目指すアラサー男性・大宮康平さん(仮名)だ。旧七帝大に数えられる国立大学を卒業したエリートだが、幼少期から他者とコミュニケーションを取るのが苦手なことを自認しており、どこか人生に対して挫折感を抱いている。

 当連載で言う“一般男性”とは社会的多数派(マジョリティ)の男性を指す言葉だが、大宮さんは最初、「僕はそこに当てはまらないのではないか」と懸念していた。それはおそらく、自分は“男らしさ”のイメージに当てはまらず、むしろマイノリティに属する男性だという認識があるからだと想像する。

 彼はどんな人生を歩み、そのような自己像がどうできあがっていったか。「弱さ」と向き合うことで開けてくる男性性の新たな可能性を感じた一方、どこまでもつきまとうジェンダー規範の根深さについても考えさせられた大宮さんのお話。

特定の親密な友人に依存していた学生時代

 子どもの頃から身長が低く、またコミュニケーションが人よりかなりスローテンポというのもあり、対人関係にずっと恐怖と苦手意識を抱いてきました。幼稚園に上がるとき、抽選に落ちてみんなと同じ時期に入園できず、たまたま空きが出て入れたのが12月だったんですね。すでにクラスの輪みたいなものができあがっていて、そこに馴染むことがなかなかできなかった。これが思い出せる最初の挫折で、対人関係に苦手意識が芽生えたのもこのあたりからだったと思います。大学生のときに実家を出て暮らし始めたシェアハウスでも他の住人と打ち解けることができず、“ぼっち飯”を見られるのが怖くて共有のダイニングスペースを利用することができなかったくらいです。

 友達の輪に入っていけなかった僕は、小学校でも、中高6年間を過ごした男子校でも、それぞれ特定の親密な友人に依存するというのを基本スタイルにしていました。小学生のときは同じクラスだったSくんと仲良くしていて、彼も同じ大人しいタイプの男子でした。身体が小さくコミュニケーションが苦手な僕をイジったりからかったりしてくる他の男子とは違い、知的なSくんには差別的なところがなかった。一方で仲良くなってみると毒舌なところもあったりで、話していて楽しかったし、互いに勉強が得意だったこともあって「俺たちは他のやつらとは違う」という選民意識のようなものも共有していました。

 中高時代は、中1のときのクラスメイトだったYくんとずっと一緒にいました。彼は勉強家でプライドの高いタイプで、同じ鉄道という趣味を持ち、また政治や経済など社会問題を一緒に語り合ったりもして、彼とも選民的な意識を共有していたように思います。ただ、わりとさわやかだったSくんとの関係に比べ、思春期ということもあってYくんとの友情はドロドロした部分が少なからずありました。もちろんウマが合ったから仲良くなったわけですが、お互いひとりぼっちにならないため、他のクラスメイトから防衛し合うために結んだ同盟関係のような側面があったのも事実です。

 例えば僕は知らない人と話すのが極度に苦手なのですが、彼はそれを知った上で「大宮は普通の寿司屋より回転寿司のほうが好きでしょ(笑)」とか言ってくるんです。店員さんに注文する必要があるカウンターのお寿司屋さんより、コミュニケーションが不要な回転寿司のほうがお前には合ってるよねという意味だと思いますが、そういうことを小馬鹿にするような態度で言ってきたりする。またYくんは細身ながら僕より身長が高く、こちらを格下に見ていたんでしょうね。度々キレられたり、不機嫌をまき散らされたりすることが結構あったし、ケンカしたときは何度か殴られもしました。

男友達との“浮気禁止”ルールと権力欲

 彼との関係にはウェットな部分も多く、常に相互監視していて、“浮気禁止”のルール──つまり他に仲良しの男子を作ってはならないという掟もあったように思います。これは「暗黙の了解」という感じで明文化されたものではなかったのですが、例えば僕が隣の席になった男子とちょっと距離を縮めると、Yくんはその彼のことを悪く言うようになったりする。そういうのが少し鬱陶しく感じることも正直ありました。その一方、僕も僕で同じような気持ちになることが多々あって、とりわけ彼がリア充グループと接近している様子を目の当たりにしたときは強い焦燥感に駆られました。例えばクラスのリア充グループが鉄道を使った旅を計画していたとき、Yくんがそのプランを立ててあげていたことがあって、そのまま彼らと仲良くなって僕を見捨てるんじゃないかと焦ってしまいました。

 それはYくんがカースト上位に足を踏み入れることへの嫉妬でもあったと思います。というのも、僕も彼も非常に権力欲が強く、にもかかわらず自分たちに権力がないことにフラストレーションを溜めている人間だったからです。

 僕の中に根深く存在する権力欲に関しては、振り返ると父親と祖父の影響が大きかったように思います。祖父からは昔から「いい大学に行け」と口酸っぱく言われていて、有名大学を出ている親戚の話なども引き合いに出しながら「社会には地位というものがある」と繰り返し聞かされました。一方、父は地元のホームセンターで働いているのですが、そのことにコンプレックスを感じているようで、度々僕に「自分はつまらない仕事をしている」「こんな人間になったらダメだぞ」と言ってきた。そんな風に育てられる中で、自分の中に「偉くならねば」という感覚が根づいていったように思います。

 結局Yくんと僕のカーストがアップすることはありませんでしたが、勉強を頑張ったり、中高生が読まないような難しい本をシェアしたり、社会問題を語り合ったりといろいろ切磋琢磨し合い、選民意識でプライドを守りながら思春期を乗り切りました。通っていた中高一貫校にはお金持ちの子どもが多かったのですが、互いに庶民的な家庭に育ったこともあり、「俺らはボンボンたちとは違う」というハングリー精神を共有していたことも選民意識に拍車をかけていたように思います。

 Yくんは猛勉強して東京の難関大学に進学しました。僕は現役の受験では第一志望に落ちてしまい、一瞬はすべり止めの私立大学に入ろうかと迷ったのですが、「自分はこんなところにいる人間ではない」という思いで浪人し、その翌年、旧七帝大の国立大学に入学することができました。Yくんとは孤立しないための同盟関係であり、良きライバル関係でもあり、感謝している部分は多々あります。でもそれと同じくらい、傷つけられたことや馬鹿にされたことへの恨みも蓄積していて、一回くらい殴っておけばよかったと思うし、「いつか復讐したい」という気持ちを今でも抱えています。

キャンパスライフでも友達づくりに挫折

 晴れて国立大学に進学したときは、「ここからが青春の本番だ!」という思いでした。友達をたくさん作り、恋愛もして、人生を充実させるぞと張り切っていました。ところがいざキャンパスライフが始まってみると、ここでも友達が全然できないことに愕然としました。しかも、これまでの「特定の親密な友人に依存する」という戦略もうまく行かず、あっさり行き詰まってしまった。

 小中高とは異なり、大学にはいわゆる「クラス」がありません。強いて言えば第2外国語のクラスがそれに当たるかと思いますが、週に数回の授業を共にするだけの関係だと「一緒にいる必然性」のようなものが発生せず、自分から積極的に行動するより他はなかった。それで頑張って話しかけたり昼ご飯に誘ってみたりしたわけですが、大人数のコミュニケーションはペースが合わないからとても疲れたし、いきなり一対一で遊びに誘い、気持ち悪がられてしまったこともありました。

 関係性のベースができあがっていない人たちと焦って親密になろうとしても、やはり無理がありますよね。前述のようにシェアハウスでもまったく友達ができず、当時は孤独のあまりしょっちゅう実家に帰っていました。

 小学生の頃は、これでも女子と良好な関係を築けていたんです。自分で言うのもなんですが上品で紳士的な男子だったと思います。女子は僕のことをからかったりしてこないので、安心して接することができていて、そういう点で女子に対して信頼感を持ったまま大学生になったような感覚があります。

 女子との接点が皆無な男子校の6年間を経て久しぶりに共学になったわけですが、大学生になってコミュニケーションのやり方が変わってしまったのか、小学生のときのような感覚で女子に話しかけたらことごとく引かれてしまい、戸惑いました。そのことに挫折感があったし、裏切られたような思いもありました。同じような感覚は男子にも抱いていて、僕は身長が低いことはコンプレックスであったものの、男子校ではそれがかわいがられる方向に作用して、ひとつのキャラとしてポジションを確保できていたんですね。しかし女子のいる環境になると、男子にとって僕よりも女子のほうが当然かわいいため、そういう扱いすらしてもらえなくなった。

 女子に受け入れてもらえず、かわいいポジションも奪われ、男子に対しても裏切られた感を募らせ……僕はどんどん孤独を深めていきました。そんな中で唯一ちゃんと話を聞いてくれ、精神的な支えにもなってくれたのが、僕が心の中で「女神」と呼んでいるRさんの存在でした。

▼後編へ続く

未だに払拭できない「女神」への執着…コミュニケーションに困難を抱える男性が解放されたきっかけ

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男友達との浮気禁止ルール…選民意識と「男らしさ」への不安で揺れた男性の学生時代の画像3 ウェジー 2021.02.14

(※本稿の初出は『yomyom vol.66』(新潮社)です)

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