森喜朗氏の辞任で終わりにならない、日本が抱えている課題

文=雪代すみれ
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Getty Imagesより

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長・森喜朗氏が、自身の女性蔑視発言の責任を取って、辞任する意向を正式に表明した。

 森氏の発言は、オリンピック憲章に反する性差別であり、4日に謝罪のために開かれた会見でも十分な説明をするどころか記者に逆ギレする姿も見られ、批判の声が収まらない状態だった。

 これは根深い問題で、「森氏が辞任すれば解決か」と問われたらそうではない。後任にはTwitter上ではJOCの山口香理事を望む声も見られたものの、森氏の要請により、日本サッカー協会相談役、組織委員会評議員会議長の川淵三郎氏(84)が浮上したが、12日になって政府が難色を示しており、白紙になったようだ。

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の定款には「会長は理事会の決議によって選定する」と書かれており、定款に沿わない形であるうえ、不適切発言で辞任する会長の推薦で決まるプロセスには疑問の声が大きかった。白紙は当然の流れと言える。

 一部報道によれば、川淵氏の希望で森氏が相談役として組織委員会に残る予定もあるという。川淵氏の就任が白紙となった今ではその点も見直されるかもしれないが、差別発言に「NO」を示せない組織の体制を問題視する声もあがっており、相談役という形で森氏が残れば、森氏の影響力も大きいままだろう。

川淵三郎氏は「森さんは気の毒」と発言

 そもそも、川淵氏が後任に浮上した2月11日時点で、メディアの取材に対する川淵氏の受け答えから、Twitter上では懸念の声があがっていた。

 森氏について川淵氏は「気の毒」とコメントしており、「女性蔑視は大したことではないと思っているのでは」「感覚がズレている」と指摘されている。「気の毒」というのは、本人に責任がないにもかかわらず、悪い事態になったり責められたりしているときにかける言葉であり、川淵氏もまた、森氏がなぜ批判されたのかを理解していないように見受けられた。

 続いて、毎日新聞の取材で川淵氏は下記のように話している。

<僕としては、男女平等の問題に関しては、森さん一人だけということじゃないなと。特に年齢の高い人には、そういう認識はあったと思う。普通は当たり前と思うことも、今はセクハラ、パワハラという時代だから。それが十分理解されないまま、ここまできている>

 「セクハラ」「パワハラ」と指摘される行為は、「叱られるからダメ」なわけではない。わかりやすい言葉で言えば、人の尊厳を傷つける行為だからしてはいけないのである。今までは傷ついている人が声をあげられなかったが、ようやく声をあげて認められるように社会が変化してきただけだ。「最近はうるさい人がいるから気を付けなくちゃ」という認識では、セクハラやパワハラが人権侵害行為であるという理解ができていない。

森氏の辞任で「日本は変わった」と言えるのか

 森氏の発言は国内外メディアの報道、抗議の署名活動、ボランティアの辞退、スポンサーの苦言など、様々なリアクションを呼んだ。この日本においても、「性差別を許さない」という空気は高まっているように感じる。

 しかし当初、森氏自身は不十分な説明かつ“逆ギレ会見”をし、IOCも今月9日に森氏の発言は「著しく不適切」と声明を発表したが、4日の声明では<森会長は謝罪した。この問題は決着したと考えている>としていた。また、7日に東京五輪・パラリンピック組織委員会が出した声明文には<会長自身も発言を撤回し、深くお詫びと反省の意を表明致しました>と表記。自民党の世耕弘成参院幹事長も森氏について<余人をもって代えがたい>と述べていた。

 抗議の声をあげれば変化が生じる可能性があると示された一方で、当初は森氏の発言は「大したことではない」と見られていたため、擁護の動きがあったのではないか。十分な説明もなく、森氏を続投させる方向でこの件を収束させる動きがあったことは、今後も忘れてはならない。

 組織委員会は12日に理事・評議員・監事を集めた臨時の合同懇談会を行い、その後記者会見を行うという。後任の会長は「性差別を許さない」という姿勢を示す必要があるだろう。誰が就任するとしても、組織委員会としての説明責任が求められるのではないか。

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