スペインで開催されるサンセバスチャン国際映画祭は、2019年から上映作品と製作者の男女比率を調査したジェンダー・アイデンティティ・レポートを発表している。ここ数年のレポート結果を受けた同映画祭は「映画業界に女性が参入しやすくなったものの、そこに留まってキャリアを築いていくことの難しさがある環境なのではないだろうか」と分析した。
アメリカで行われた調査では、2007~2016年に製作された1000作品のうち女性監督の80%が10年内で1本限りの製作となっており(男性の場合は55%)、女性主導の作品は男性と比べて予算獲得が困難であることや、製作に関わるチャンスそのものが不均衡であることが明らかにされている。(参照)
ジェンダーに基づいた機会格差を解消すべく、女性の監督が手がける作品を積極的に世へ届けようとする動きも見られている。韓国では、女性の監督や女性が主体的に描かれるインディペンデント作品に特化した映画配信サービス“Purplay”が発足された。
同サービスが誕生した背景には、国際映画祭で高い評価を受けながら、インディペンデント映画という理由で公開や配信機会が得られない女性の監督による作品が多い状況がある。
Purplay代表によると「韓国のクィア映画祭で働いていたときは女性監督による作品が多くあったのに、いざシネコンに行ってみるとそこで上映されているのは男性監督の作品ばかり。(中略)最も重要なのは、女性の映画を誰でも簡単に観賞できるようにすることで、そこから自然とストリーミングサービスという考えに行き着いた」といい、そこから商業映画製作のチャンスをつかむクリエイターが増えればと語った。(参照)
特にここ数年の韓国映画界では、女性の監督による活躍が目立つ。2018年の釜山国際映画祭では上映作品の半数を女性の監督作品が占めた。
昨年にはキム・ボラ監督作品『はちどり』が日本でも多くの動員数を記録。今年もキム・チョヒ監督の『チャンシルさんには福が多いね』や、ユン・ダンビ監督『夏時間』が公開されている。単館上映から人気に火がつき、観客の声によって上映館数を拡げた韓国の女性監督作品の多さからは、インディペンデント作の発信を推し進めるPurplayの試みがいかに重要かがうかがえる。
では、日本の映画業界における実態はどうか。昨年末に行われた東京国際映画祭においては、プログラム作品138本のうち女性の監督作品はわずか16.7%にとどまっており、また先述の“5050 by 2020”については「(運動の署名について)検討を進めている」と賛同の意志表明に至っていない。(参照)
この状況に、同映画祭で観客賞を獲得した『私をくいとめて』の大九明子監督は「商業映画の世界に入って13年。当初はもっと女性のスタッフも監督も少なかった」と語った上で、自身の現場で「この組は女性が多いな」と言われても「地球のバランスからいったらまだまだです」と返し続けていたことを明かした。(2020年11月22日付朝日新聞デジタルより)
日本ではメジャー会社4社がこの20年間で製作・配給した実写の作品のうち、公開された女性の監督作品はわずか3%にとどまっている。この割合は、アメリカの興業収入トップ100作のうち女性の監督作品が4%だった2018年のデータとさほど変わらないように思えるが、先述した様々な取り組みによりその数字は年々増加傾向にあり、昨年には16%と過去最高の記録を残した。
各国の映画シーンでジェンダーバランス改善の声が高まる近年、(少しずつではあるが)実際に変化の兆候がみられているだけに、ここ日本の映画業界でも育成環境や製作といった現場レベルの改革がよりいっそう望まれる。
(菅原史稀)
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