性犯罪・セクハラ被害者を「うそつき」と罵るカルト集団の実態と、バラエティ番組の少なからぬ共通点

文=原宿なつき
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GettyImagesより

 アマゾンプライムで配信中のドキュメンタリーシリーズ『カルト集団と過激な信仰』を見た。シリーズ1では7つのカルト集団にスポットを当て、その内実に迫っている。カルト集団内で繰り返し見られるのは、性犯罪と、その隠蔽だ。

 エホバの証人を取り上げたエピソード2では、性犯罪者の標的になった女性の証言が収録されている。女性は、同じく性犯罪の被害にあった信者と共に、敬愛する長老たちに被害を訴えに行く。教団内の犯罪は、長老に訴え、長老による判断を仰ぐ必要があると決められているからだ。しかし長老のポジションには女性はつくことはできない。必然的に女性たちは、年の離れた男性数名に囲まれて性犯罪の実情を訴えることになる。女性は勇気を出して訴え、結果、「うそをつくな」と罵られたという。性犯罪を軽視し、犯罪を隠蔽するカルト集団のおぞましい実態が、そこにはある。

 福田淳一事務次官によるテレビ朝日記者へのセクハラが明らかにしたこと

 2018年、当時財務省の事務次官だった福田淳一氏による、テレビ朝日記者へのセクハラが発覚した。テレビ朝日記者が、福田淳一氏のセクハラ発言を録音していたことにより、「胸触っていい?」「抱きしめていい?」という生々しい音声が公開されることとなった。

 さて、セクハラや性犯罪に関して、証拠がない、または強固な証拠がない場合、被害者が嘘をついているのではないか、ハニートラップではないか、といったセカンドレイプにさらされることがあるが、上記のように「証拠」がある場合はどうだっただろうか。

 それでも麻生太郎財務大臣は「セクハラ罪って罪はない」と発言し、当初、これを特別な問題としない姿勢を見せた。しかし福田氏は結果的に辞任した。

 お笑い芸人・松本人志氏が看板の、時事問題を扱うバラエティ番組では、福田氏の辞任を伝えたあと、以下のような会話が交わされた。

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石原良純「あの発言が福田次官の発言だとしても、セクハラじゃないと思う人間はいると思う」

佐藤仁美「1年半の期間どうしてたんだろうなと思って。本当に何も言えない女子だったら、1年半ずっと我慢してたわけじゃないですか。もっと早く言って、解決する方法もあったと思うんですけど」

松本人志「セクハラはセクハラだと思いますよ。でもこんなエロのかたまりのようなおっちゃんに女性記者ひとりを1年半に渡ってなぜ(担当に)させたんだ。させた側の責任はどうなっていくんだと思うんですよ。いやいや、それはセクハラがすべてだ、というんですけど、そこに行かすんだったらこれはパワハラじゃないのか、ということになってくると僕は思うんですよ」

東野幸治「わかります」

松本人志「パワハラじゃないっていうのであれば、この女性は、自ら前のめりに1年半取材をしてたんかって、話になってくるんですよ。そうなったら、これはハニトラじゃないのかって話になってくるんですよ」

東野幸治「うんうんうん」

松本人志「ですので、私の見解としましては、セクハラ6、パワハラ3、ハニトラ1でどうですか」

スタジオ、笑い。

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 松本氏の発言は「面白いもの」とされ、スタジオは笑いに包まれた。つまり、証拠があっても、女性側が仕掛けたも同然だ、と笑い飛ばされるような現状が、2018年には明らかにあったということだ。

 性犯罪者やセクハラ加害者を責めるのではなく、被害者側の落ち度を責め、「自衛がたりなかった」という言説を、レイプカルチャーという。2018年時点においては、日本のマスコミには、レイプカルチャーが浸透しきっており、それを放送することにためらいがなかったのだ。

記者相手のセクハラ加害者で、一番多いのは警察関係者

 しかし当然、メディアで働く人すべてが、レイプカルチャーやセカンドレイプ発言を傍観していたわけではない。

 2018年5月1日、全国の新聞、通信、放送、出版、フリーランスで働く、セクハラ軽視に問題意識をもった人々により、「メディアで働く女性ネットワーク(WiMN)」が結成された。『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋)は、WiMNメンバーによって書かれた一冊だ。

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『マスコミ・セクハラ白書』(文藝春秋)

 本書では、メディア業界で働く女性たちの体験、本音があふれている。あまりのセクハラの多さ、酷さに、目を覆いたくなるほどだ。記者相手のセクハラ加害者で、一番多いのは警察関係者だ、ということにも驚かされた。

 日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)女性連絡会が実施した2018年のアンケートによると、メディアで働く女性のうち74パーセントがセクハラの被害や性暴力にあったという。そのうち、誰かに被害について相談した人は、わずか26パーセントだ。多くは、仕事に支障が出たり、人事上の不利益を被ることを恐れて、沈黙を貫いた。加害者は、職場の上司、同僚、警察、検察、地方・国家公務員が主だ。被害を誰かに相談しても、仕事を減らされたり、二次加害をされるなど9割以上の確率で不適切な対応をされたという。

 このままでいいはずはない。本書では、これまで透明化されてきたセクハラの実態を克明に記している。問題がある、と明確に示すことこそ、問題解決の第一歩だろう。さらに、主要メディアにアンケートを実施し、どのメディアが現状どれほどセクハラを認識しており、問題意識を持って取り組んでいるのかがわかるようになっている。このアンケートは、これからメディア業界を志望する人たちの組織選びのひとつの指針になるだろう。

被害者を責め、嘲笑う文化は変わりつつある

 2018年6月、日本新聞協会や日本民間放送連盟が、業界団体としてセクハラには毅然と対応していくとともに、被害者がすみやかに会社に報告できる環境を整備し、被害者を守り、再発防止に注視すること、また、自らも加害者にならないように律することを宣言した。勇気ある記者が声を挙げたことによって、確実に何かが変わったのだ。

 2021年になった今、前述したバラエティ放送でのセカンドレイプ発言が平然と流されることはあるだろうか?

 もし未だにああいった発言が許されるとしたら、日本のバラエティ番組は、いや、それを許す日本社会は、カルト集団の長老となんら変わらないということだ。アマプラには、シーズン2で特集してほしい。

(原宿なつき)

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