低すぎる日本の性交同意年齢。13歳の子どもがセックスのリスクを理解できるのか/弁護士・らめーんさんインタビュー

文=三浦ゆえ
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GettyImagesより

 13歳の誕生日を1週間後に迎える中学1年生が、通っている塾の講師とセックスをした。中学生は講師から「好きだ」といわれて交際がはじまり、「付き合ったら、するものだ」といわれ、セックスが何かよくわからなかったし本当は怖くて嫌だったけど、何度も説き伏せられたので応じた。

 12歳の子どもとセックスをしたという事実があれば、強制性交等罪が成立し、講師は5年以上の懲役刑を受ける……のだが、もしセックスが行われたのがこの1週間後、子どもが13歳になっていたときだとしたら、事情はガラリと変わる。

 被害者である子どもはセックスを望んでいなかったが、暴行や脅迫を受けたわけでもなかった。ゆえに、これは強制性交等罪にはならない。

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 なぜこんなことになるのか。強制性交等罪は次のように定められている。

「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする」

 13歳以上と未満のあいだに、区切りがある。自分が受けた性行為が強制性交等罪に当たると認められるには、暴行や脅迫を受けたことを示さなければならない。これは大人にとっても簡単に越えられるハードルでなく、それゆえ日本ではたくさんの性暴力が性犯罪として裁かれていない。しかもそのハードルは、13歳になったその日から目の前に置かれている。大人と同様に、セックスするかどうかを自分で決めることができるとされている年齢をもって、「性的同意年齢は13歳」といわれる。

 はたして、この年齢は適切なのだろうか。性被害者の弁護に尽力し、SNS等での発信にも注目が集まる弁護士の「らめーん @shouwarame」さんに、性交同意年齢の現状と問題点をうかがった。

■らめーん弁護士
2006年司法試験合格。2008年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会・委員。犯罪被害者支援弁護士フォーラム(略称VSフォーラム)会員。性暴力救援センター東京(SARC東京)支援弁護士・運営委員。一般社団法人Spring法律家チーム。著書(共著)に『ケーススタディ 被害者参加制度 損害賠償命令制度』(東京法令出版)、『犯罪被害者支援実務ハンドブック』(同)

らめーん:性交同意年齢とは、「その年齢に満たない場合、たとえ子どもがセックスを望んでしたとしても、その相手は強制性交等罪で有罪になって、懲役5年以上の刑を受ける」年齢のことです。極端な例をいうと、12歳の子どもにセックスしたいと言われ、相手が「君みたいに幼い子とはできない」と言ったにもかかわらず懇願されたので仕方なく応じたとしても、セックスしたという事実があれば強制性交等罪が成立するというものです。

ーーそれが13歳になった途端に、変わってしまうのですね。

らめーん:はい、セックスをすることに同意するかどうかを自分で判断できる年齢になったとみなされます。性についての知識量だけでなく、力関係にも大きな差がある大人が相手でも、自分で判断できるという意味です。

ーーそれは年齢がかなり上にならないとむずかしいように思います。

らめーん:子どもにとって大人は絶対的な存在で、親や学校の教師などは「言うことを聞かなければならない」人たちです。「言うことを聞かないと部活を辞めさせるぞ」「退学させるぞ」と言えば中学生や高校生は従うしかないので、あからさまな暴力はいらないのです。

そこまで強く言わなくても、“忖度”して応じる子はいます。子どもって、大人が言わんとすることを常に読もうとしますよね。大人からすれば「そんな部活や学校は辞めても問題ない」と思いますが、子どもはまだ世界が狭く、辞めるとなると自分の生きがいも友だちも全部失ってしまうと考えます。そうすると大人が一言もいわなくても圧力を感じて、性的な誘いに応じてしまう。加害する側はこんなふうに空気を読む子を狙うんです。

子どもは大人に対してNOが言えるか

らめーん:だから、13歳が性交同意年齢として適当かどうかを考えるときに、この「NOが言えないYESには意味がない」ことを前提としてほしいです。

ーーそれがないと「YESって言っちゃった私が悪いんだ」と自分を責める子もいそうです。

らめーん:子どもにとってもっとも身近な大人といえば、まずは親です。2017年に刑法が改正されたとき「監護者性交等罪」ができて、“監護者=実親、養親、そして養護施設の施設職員など”が、18歳未満の者と性交すれば、暴行または脅迫がなくても犯罪とみなされ、懲役5年以上の処罰の対象となりました。しかしそこには、学校の教師や塾講師、スポーツや音楽などの指導者、雇用主は入っていません。いずれも子どもに強い影響力を及ぼす存在です。現在、被害当事者らの団体を中心に、監護者の範囲を広げてほしいという要望が出ています。

ーー最近、教師から児童生徒への性暴力のニュースを毎日のように目にします。件数が増えたというより、“なかったこと”にされていたのがそうではないとわかり、報道も増えたのだと思いますが。

らめーん:ただ、範囲を広げることを危惧する意見もあります。担任や進路指導主事、校長や副校長、教頭が子どもに与える影響力は強いですが、学校には通常たくさんの教師がいて、ほかの学年の担任をしている教師とはあまり接点がないですよね。子どもがそういう教師とたまたま校外で会い、そこから恋がはじまって、セックスをした、ということもありえるわけです。この場合、その教師は子どもに対して、どれほどの影響力を持っているのか? 私は、担任でないからといって、自分の学校の生徒と”恋愛”する教師はどうかと思います。ですが、担任をはじめとする影響力の強い教師も、こうした接点も影響力も少ない教師も、一緒くたにして強制性交等罪の成立を認め、懲役5年以上というわけにもいかないと感じています。

ーー子どもがどれだけ「NO」を言いやすいかを考慮しなければならない、ということですね。

らめーん:難しいものに、「友だちのお父さん」があります。いつも遊びに行ってる友だちの家で、その子のお父さんから触られていて、それがエスカレートしていく。気持ち悪くて嫌なんだけど、友だちとの関係から言い出せずセックスに至ってしまう……すごくよく聞くパターンですが、これで立件された例を私は見たことがありません。

ーー日本では「性行為をするには、相手の同意が必要だ」という考えが、大人の間でも根づいていないと感じます。

らめーん:いまEU諸国を中心に「不同意で行った性交は、犯罪である」という法律に変わりつつあります。日本では現在、法務省で「性犯罪に関する刑事法検討会(以下、検討会)」が開かれ、刑法を変えるべきかこのままにするべきかが専門家らによって話し合われています。そこでは性犯罪かどうかを暴行や脅迫の有無ではなく、同意の有無で判断する「不同意性交等罪」の新設が提案されています。さらに、性交同意年齢を現在の13歳から引き上げることや、監護者の範囲を広げることも話し合われています。

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