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13歳になったばかりの中学生が性暴力被害を受け、警察に被害届を出す。ある国ではすぐに被害を受けた子どもとして支援につなげられ、加害者は確実に処罰される。また別の国では、「あなたは暴行や脅迫を受けたのか」と問われる。たとえ恐怖心から動けなかったのだとしても、暴行や脅迫を受けなかったと答えれば、「強制性交等罪は成立しない」と言われてしまう。
日本は、後者の国にあたる。13未満であれば「その子が望んでセックスしたとしても、強制性交等罪が成立して加害者は5年以上の懲役刑を受ける」が、13歳になったその日から「性行為に対して”同意”ができる」年齢とみなされる。ゆえに性暴力被害に遭っても、そのとき暴行や脅迫を受けたと証明できなければ、加害者が起訴すらされない可能性がある。
これをもってして性交同意年齢は13歳未満というが、日本は世界においてもこれが際立って低い。韓国は、2020年に13歳から16歳へと引き上げた。フィリピンも12歳と低いが、近々16歳に引き上げる法案が承認されるだろうとの報道がある。
性被害者の弁護に尽力し、SNS等での発信にも注目が集まる弁護士の「らめーん @shouwarame」さんに、その現状と問題点をうかがったインタビューの後篇。13歳が低すぎるのは当然だとして、では何歳なら適当なのだろう。
低すぎる日本の性交同意年齢。13歳の子どもがセックスのリスクを理解できるのか/弁護士・らめーんさんインタビュー
13歳の誕生日を1週間後に迎える中学1年生が、通っている塾の講師とセックスをした。中学生は講師から「好きだ」といわれて交際がはじまり、「付き合ったら、…
■らめーん弁護士
2006年司法試験合格。2008年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会・委員。犯罪被害者支援弁護士フォーラム(略称VSフォーラム)会員。性暴力救援センター東京(SARC東京)支援弁護士・運営委員。一般社団法人Spring法律家チーム。著書(共著)に『ケーススタディ 被害者参加制度 損害賠償命令制度』(東京法令出版)、『犯罪被害者支援実務ハンドブック』(同)
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ーー現在、法務省で「性犯罪に関する刑事法検討会(以下、検討会)」が開かれ、刑法を変えるべきかこのままにするべきかが専門家らによって話し合われ、性交同意年齢の引き上げもたびたび議題に出ています。どのようなことを考慮して、年齢を決めるべきだと思われますか?
らめーん:まず今ある法律の説明をしますと、13歳未満なら、セックスの事実があったとわかれば、立件することが可能です。しかし、13歳になっていれば、「すごく嫌だったけどセックスさせられた」だけでは、強制性交等罪は成立しません。強制性交等罪が成立するには、「被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行・脅迫」があることが必要です。
ーー13歳になると、大人へのレイプと同じ程度の暴行脅迫が必要なのですか?
らめーん:暴行・脅迫の程度を判断する際には、被害者の年齢や、暴行脅迫がなされた時間、場所などの環境、その他具体的事情を考慮するのが、最高裁の判例です。現在でも、中学生ぐらいの被害者には、大人と比べると軽度の暴行や脅迫でも強制性交等罪を成立させている裁判例はあります。
ーーそれにもかかわらず、現行法の問題点が指摘されているのはなぜですか?
らめーん:被害者の特性に着目して「著しく抵抗が困難」かどうか、を個別に判断することが難しいのです。刑法の条文は、ある行為が犯罪か否かを分ける機能があります。裁判所が判決を書く時点では、証拠は出そろっています。ある被害者が若年であるため脆弱であり、「成人に対するものより軽い暴行脅迫であっても、著しく抵抗が困難になってしまったこと」を立証するのに必要であれば、若年者の脆弱性に関する専門家の意見をうかがうこともできます。しかし、警察が、ある事件を立件するか否かを判断する時点では、そうした専門家から意見を得るシステムはありません。その結果、立件される暴行脅迫の程度に、非常に大きなバラツキが生じているのが現状です。
ーー実際、検討会ではどのような議論がされているのでしょうか?
らめーん:検討会には、性犯罪被害者の心理支援に携わってきた精神科医・臨床心理士などがおり、若年者は大人よりも(さまざまな意味で)弱い存在なので、成人とは異なる規定を設けて保護するべきかどうかを検討しています。たとえば、高校1年生などは、性交同意年齢は越えているけれど、成人に比べると脆弱な年齢ですよね。このような年齢層について、強制性交等罪の暴行脅迫より程度の軽い影響力であっても性犯罪を成立させる犯罪を作るか、作るとして、どのような要件にするのが適切か、が議論されています。
ーー子どもとの性行為を処罰対象とするものに、児童福祉法や青少年保護育成条例の児童淫行罪もありますね。児童福祉法違反は、18歳未満に「淫行させた」場合、つまり「事実上の影響力を行使して性交等を行った場合」、10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金という罰則が定められています。また、事実上の影響力の立証が難しい場合でも、青少年育成条例違反は多くの場合に成立します。強制性交等罪は無理でも、児童福祉法や条例違反で立件できるという指摘もあります。
らめーん:それだと守られる対象が18歳未満までに広がりますし、「事実上の影響力を行使して」となるので学校の教師や塾講師、スポーツや音楽の指導者も網羅されているように見えます。ですがここにも大きな問題があって、一定のパターンの上下関係がない場合は、児童福祉法では非常に立件されにくい。また、公訴時効が短いのも問題です。公訴時効とは、「犯罪が行われたとわかっても、この期間が経過すればもう犯人を処罰することはできなくなる期間」のことで、強制性交等罪は10年、強制わいせつ罪は7年……これも被害者の立場からしても、諸外国と比べても短すぎるので、検討会で議論されています。児童福祉法は7年、条例はさらに短くて3年です。
ーーたった3年!?
らめーん:子どもにとっては特に、あっという間ですよね。
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