
写真:代表撮影/ロイター/アフロ
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗元会長の「女性は競争意識が強い」「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」といった発言が女性差別であるとして大きな話題になりました(発言の全文はこちら)。
この件を受けた経団連会長や自民党の二階俊博幹事長の発言も同様に批判の対象となり、ボンバーマンの連鎖でも見ているような気分になります。
森元会長の発言に限らず、社会ではいまだにあらゆる場面で女性差別が行われています。こうした状況を改善するためにすべきことは多数ありますが、『Oxford Review of Economic Policy』という学術雑誌の最新号で組まれていた「ジェンダーの経済学」という特集に、いま何をしなければならないのかがクリアに見えてくる論文がありました。「バイアスと差別:既知の事」と「ジェンダーと文化」の2本です。
今回は、女性差別の起源に迫る経済学分野の研究を簡潔にレビューしている2本の論文を紹介しながら、日本の女性差別の起源とどのようなアクションを取るとよいのかを考えたいと思います。
女性差別の3つの起源
「バイアスと差別:既知の事」は、女性差別について①好き嫌い、②統計的差別の二点からレビューをし、「ジェンダーと文化」は、③文化の点からレビューしています。この3つの起源から起きる女性差別の解消のためには、それぞれで採るべき対処策の方向性も違っています。順に見ていきましょう。
まず、①好き嫌いについてです。人間誰しも好き嫌いがあります。私も、大リーグのワシントン・ナショナルズの長年のライバルであり、チームの主砲を引き抜いたフィラデルフィア・フィリーズのファンが嫌いです。これが排除や制限に繋がっていない限りは個人の自由なのですが、就職や就学などと結びついてしまうと差別になります。
しかし、この好き嫌いに基づく差別は、非効率であるので、市場が機能していれば排除されていくことになります。
例えば、女性を不当に安く雇用したり、昇進から排除したりしていると、別の企業や組織Aが、男性より安くとも今の企業や組織よりも良い待遇をオファーすればその女性を引き抜けるでしょう。さらに別の企業や組織BがAよりも良い待遇をオファーすれば……を繰り返していきます。そうすると、結局のところ、女性を不当に安く雇用したり、昇進から排除したりしていると、その非効率さから市場から退場せざるを得なくなります。
しかし、教育経済学の研究の多くは、なぜ教育市場が機能しないのか、その解決策は何なのかに充てられています。というのも完璧に機能している市場というのはほとんど存在していないのです。
労働市場においても同様で、女性の教育水準が極端に男性よりも低い場合、差別が十分に非効率にならないので、期待した通りには女性差別をしている企業や組織が排除されなくなります。アメリカの黒人差別なんかはこれに近い状況に陥っているのではないかと私は考えます。
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