【シリーズ黒人史2】Black Lives Matterへと続くアメリカ黒人の歴史~リンチ

文=堂本かおる
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 アメリカ黒人史シリーズ初回の『奴隷制』では、奴隷は奴隷主によって激しく鞭打たれたと書いた。鞭打ちが行われた理由は、奴隷としての労働の質や量が十分でなかった、奴隷にあるまじき言動を取った(「奴隷のくせに、黒人のくせに」と思われる言動)、逃亡を試みたなどで、つまり罰としてだった。ただし奴隷は家畜以上に高価な資産であったため、奴隷主は奴隷を激しく罰しても殺すことは極力避けた。

 しかし1865年に奴隷制が終わり、黒人が自由人になると今度はリンチが始まった。リンチは「私刑」と訳されるように、警察や司法を介さず、一般市民が犯罪者(と疑われた)者を暴力によって罰し、多くの場合、殺害することを指す。白人から黒人へのリンチは正視できないほど残虐な方法で行われ、違法行為であるにも関わらず、時には警官や保安官も参加し、現代も含めて長年にわたって行われてきた。

リンチの歴史

 以下は米国黒人史に関わるタイムラインである。

1619:奴隷制開始
1861 – 1865:南北戦争
1865:奴隷制終了
1865 – 1877:南部再建期
1876 – 1964:ジム・クロウ法(有色人種隔離政策)
1954 – 1968:公民権運動(1964:公民権法制定)

・1619年にアフリカからの黒人が連行され、以後、約250年間にわたってアメリカで奴隷制度が続く
・南北戦争中の1863年にリンカーン大統領が奴隷解放宣言を発する
・奴隷制後の12年間は「南部再建期」と呼ばれ、黒人も政治家となるなど人種の平等が進められる
・黒人の台頭を拒否する南部諸州によって再建期は短期で終了し、白人と黒人を分離するジム・クロウ法(水飲み場、バスの乗車位置を分ける、異人種婚を禁ずるなど)の時代に突入
・これを覆すために公民権運動が起こり、1964年に公民権法が制定される。これにより米国では一切の人種差別が “法律上” は禁止され、現在に至る

 黒人へのリンチはどの時代にも行われたが、特に南部再建期が終了し、ジム・クロウ法が蔓延した時代に大量に行われた。後に黒人への平等の権利を求める公民権運動が起こると、公民権運動家に対しても行われた。

 この歴史を鑑み、タスキーギ・インスティテュートはジム・クロウ法時代~公民権運動時代前後の(1882~1968年)のリンチ数の統計を発表している。それによると86年間に4,742人に対してリンチが行われ、うち3,445人が黒人であった。リンチが行われたのは主に南部諸州。なお、これらの数字は何らかの記録が残っているものであり、実際にはさらに多くのリンチがあったと思われる。

 ちなみに黒人へのリンチが本格化する前は白人が白人に対して行なっていたが、黒人リンチの増加と共に白人へのリンチは減った。1884年のリンチ犠牲者は「白人160人/黒人51人」だが、わずか8年後には「白人69人/黒人161人」と逆転している。1900年代初期になると白人犠牲者は毎年ほぼ一桁となるが、黒人は50~100人となっている。

※2ページ目以降、リンチについての非常に残酷な描写を含みます

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