【シリーズ黒人史2】Black Lives Matterへと続くアメリカ黒人の歴史~リンチ

文=堂本かおる

連載 2021.02.25 11:30

木に吊るされるリンチの遺体

 リンチの手法はさまざまだった。

・殴る、蹴る
・銃で撃つ
・熱した鉄を肌に押し付ける
・縄や鎖で馬車や馬に括り付け、引きずり回す
・生きたまま火を点ける
・目をくり抜く、指、舌、男性器などを切り取る
・切り取った部分を「土産」として売る
・遺体の首に縄を巻き、木や橋から吊るす
・遺体を撮影し、絵葉書として売る
・女性はリンチの前に強姦、輪姦

 遺体が木に吊るされる様はリンチの象徴となり、そこからジャズ歌手ビリー・ホリデー(1915 – 1959)の名曲『奇妙な果実 Strange Fruit』が生まれた。歌詞は木に吊るされた遺体を果実に例えている。

南部の木は奇妙な果実が生る
葉には血、根にも血
黒い遺体が南部のそよ風に揺れる

 遺体を吊るすために「ヌース noose」と呼ばれる、縛り首用に結った縄が使われた。ヌースも黒人リンチを象徴するものとなり、リンチがほぼ行われなくなった現在も黒人への人種差別、嫌がらせの小道具として使われる。黒人の従業員や学生がいる職場や大学構内などに置かれることがあり、近年は犯人が判明すれば多くの場合、解雇や退学となっている。

 1892年、ジョージア州。リンチ殺害された3人の黒人男性(Jim Redmond, Gus Roberson, Bob Addison)の吊るされた遺体。背後に見物する白人男性が立っている。

写真:Lynching_of_Redmond,_Roberson_and_Addison.jpg(wikipediaより)

Hulu『The United States vs. Billie Holiday』予告編(米国2/26公開)
『奇妙な果実』によりFBIに目を付けられたビリー・ホリデーの葛藤を描く。

「白人女性を強姦した」とリンチされる黒人の男

 リンチは白人に対する犯罪行為を犯した(多くの冤罪を含む)黒人を公開処刑し、見せしめとするものだった。同時に白人の権威、優位性、全能性の誇示でもあった。そのため遺体は吊るされて写真撮影されただけでなく、リンチ開始前に場所や日時が告知されることもあった。当日は白人男性だけでなく、女性や子供もイヴェント見物として押し寄せた。

 リンチ犠牲者の多くは男性だった。嫌疑は白人を殺害した、白人の所有物を盗んだなどに加え、白人女性を強姦した(もしくは襲おうとした)だった。濡れ衣であってもいったん「あの黒人がXXXをした」と噂が立つと群衆が押し寄せて当人をさらい、リンチにかけた。容疑者としてすでに逮捕され留置場にいる場合も暴徒が留置場からさらい、リンチすることがあった。

 1915年の無声映画『國民の創生 The Birth of a Nation』は、南北戦争~南部再建期の南部を舞台とした大河作品として大ヒットした。劇中、黒人男性(白人俳優によるブラックフェイス/黒塗り)が白人女性に求婚し、女性は黒人に犯されるくらいならと崖から飛び降りて死ぬ。白い頭巾を被り、馬にまたがったKKK(クー・クラックス・クラン、白人至上主義者団体)の一団が黒人男性をリンチし、英雄となる。時代の描写、映画技術の面から高く評価されると共に、人種差別作品として強く批判もされた作品だ。

 1920年頃、シカゴでのKKKの集会。奴隷制終了直後に組織されたKKKは後にいったん衰退するが、映画『國民の創生』により復活した。

写真:KKK.jpg(wikipediaより)

 1930年代の南部を舞台とした小説『アラバマ物語 To Kill a Mockingbird』の同名映画化作品(1962)予告編。白人女性を襲った容疑で逮捕された黒人男性の弁護を引き受けた白人弁護士とその幼い娘の物語。2018年にブロードウェイで舞台化され、小説、映画に続いてヒットした。

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