【シリーズ黒人史2】Black Lives Matterへと続くアメリカ黒人の歴史~リンチ

文=堂本かおる

連載 2021.02.25 11:30

1918年:黒人女性へのリンチ~メアリ・ターナー 

 男性に比べると少数ながら女性へのリンチも行われた。最も凄惨な例として今も語り継がれているのが、1918年のメアリ・ターナー事件だ。

 ジョージア州の農園主ハンプトン・スミスは軽罪で刑務所に入れられた黒人たちの保釈金を支払っては出所させ、それを借金として農園で働かせていた。そのうちの1人、シドニー・ジョンソンは借金についてスミスと揉め、さらに殴られたことからスミスを射殺する。

 これに激怒した地元の白人、数百人がジョンソンを残虐なリンチによって殺害しただけでなく、他に10人の黒人男性をジョンソンと共謀したとして殺害した。この件で夫を亡くしたメアリ・ターナーは夫を殺害した者たちを公に非難した。これは当時の黒人には許されない言動であり、白人たちはメアリをもリンチにかけた。

 当時、妊娠8カ月だったメアリは足首を縛られて逆さに吊るされた。暴徒はガソリンをかけてメアリの衣服を焼いた後、メアリの腹部を裂き、胎児を取り出した。地面に落ちた胎児は踏み付けられたとされている。その後、メアリの体は銃弾で蜂の巣状態とされた。

 この件で分かるのは、黒人による白人批判や糾弾は白人殺害と同等か、もしくはそれ以上に許されない行為だったということだ。

 現在、メアリがリンチを受けた橋の近くに事件を説明する標識が立てられている。事件からちょうど100年目の2018年、標識に13発の弾痕が残された。「13」はこの事件でリンチ殺害された犠牲者の総数だ。農園主を射殺してリンチを受けたジョンソン、メアリの夫を含む10人の黒人男性、メアリ、そして生まれる前に殺された赤ん坊……。

 1911年、オクラホマ州。14歳の息子が保安官と揉み合いになった際に銃を発射してしまい、保安官は死亡。母親のローラ・ネルソンと息子は留置所に入れられたが暴徒にさらわれ、橋から吊るされた。リンチ前、ローラは強姦されていた。息子はズボンを引きずり降ろされ、性器をむき出しで吊るされている。

写真:Laura_and_L._D._Nelson.jpg(wikipediaより)

1955年:子供へのリンチ~エメット・ティル

 メアリ・ターナーがリンチされた1918年は全米で60人の黒人がリンチの犠牲となっている。その後の数年間は年間の犠牲者数50~70人台、1923~35年は10~20人台、1936年以後は一桁と徐々に減っていく。1950年代にようやく犠牲者0の年が続いたが、1955年にエメット・ティル事件が起きた。

 犠牲者のエメットは当時14歳の黒人少年だった。都市部シカゴの育ちだが、夏にミシシッピ州の親戚宅を訪ねていた。そこで商店の店番をしていた若い白人女性に「口笛を吹いた」とされ、女性の夫と、その兄に誘拐され、惨殺された。

 犯人2人は銃を持って深夜にエメットの親戚宅を襲い、エメットを車に乗せて連れ去った。納屋でエメットを殴打し、目をくり抜き、頭を撃って殺害した。遺体は金属部品の重しを有刺鉄線で括り付けた上で川に捨てられた。数日後に発見された遺体は痛み切っており、母親でさえ識別できない様となっていた。

 遺体をシカゴに持ち運ばせた母親は、葬儀であえて棺の蓋を開け、参列者とメディアにエメットの変わり果てた姿を公開した。母親にできる精一杯の抗議行動であった。

生前のエメット・ティル。撮影は母親。
wikipediaより)

Netflix『マッドバウンド 哀しき友情』(2017)予告編
第二次世界大戦で兵士として活躍した黒人も、南部ミシシッピ州に戻るとリンチの対象となった。

1964年:白人の “裏切り者” へのリンチ~公民権活動家

 エメットの事件後も年間のリンチ犠牲者数は1人もしくは0人を繰り返したが、1964年に「白人2人、黒人1人」となっている。公民権活動家の3人の青年がリンチされたのだった。白人であっても黒人に加担する者は裏切り者としてリンチの対象となったのである。ただし白人の2人は黒人同様に白人至上主義者の攻撃対象となるユダヤ系だった。

 同年7月2日に歴史的な公民権法施行がなされているが、そのわずか11日前の6月21日、ジェームズ・チェイニー(黒人)、アンドリュー・グッドマン(白人)、マイケル・シュワーナー(白人)は車に乗り、ミシシッピ州の放火された黒人教会での話し合いに向かっていた

 途中、車はスピード違反でパトカーに停められ、3人は地域の留置場に留め置かれる。夜中に釈放された3人の車は何者かに後を付けられ、青年たちは消息を断つ。

 3日後、車だけが焼け爛れた姿で発見される。3人の捜索にFBIも乗り出すが捜査は難航。2カ月後にようやく地中に埋められた遺体が発見される。解剖によると殴打の上、射殺されていたが、1人は埋められた時点でまだ生存していたとされている。

 KKK、地元の保安官事務所と警察が関わっていたことが明かされ、10人が起訴された。

行方不明となった3人の公民権活動家の捜索ポスター
写真:FBI_Poster.jpg(wikipediaより)

 上記の事件をもとに制作された映画『ミシシッピー・バーニング Mississippi Burning』(1988)予告編。映画は高評価を得たが、主人公が架空のFBI捜査官であることも含め、実際の事件にフィクションを加えたことが批判もされた。

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