世界中の「わきまえない女」たちが連帯する『One Billion Rising』

文=原宿なつき
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 五輪組織委員会の森喜朗前会長の言葉は、教科書に載せても恥ずかしくない典型的なミソジニー発言だった。

 ミソジニーとは、女性に対し、女性らしさという名のもとに一定の役割(媚び、母性、ケア役割、補助的役割など)を与え、その枠に収まる女性を褒め称え、枠からはみ出る女性を嫌悪、蔑視するというものだ。「枠の中から出ようとするなんて、けしからん。枠の中に収まっている方は、わきまえていらっしゃるので素晴らしい」というわけだ。

 「わきまえない女は、けしからん」と心の中だけで思っているだけで済むなら問題はないようにも思える。が、実際には、思想は行動に滲み出てくるものだ。ミソジニストがトップにいる企業では、女性は萎縮し、発言の機会を奪われるだろう。

 「女性は男性をケアしてしかるべきものだ」という思いが加速すると、アイラ・ビスタ銃乱射事件や江南駅殺人事件のように、女性が自分に振り向いてくれないことに腹を立てて殺人を犯す人物も出てくる。アイラ・ビスタ銃乱射事件も江南駅殺人事件も、「女性から無視されている」という怒りから発生したものだ。

 「女性は自分に〇〇すべきなのに、そうではなかった」ために沸く怒りや、そこから発生する暴力は、ミソジニーと切っても切れない結びつきがある。

 女性への暴力について公の場で語られることは少ない。しかし、ミソジニーが語られずともしぶとく生き残っているのと同様に、女性への暴力は現在も大きな問題だ。WHOの統計によると、世界中の女性の3人に1人にあたる10億人が、殴打、またはレイプの被害にあっているという。

 わきまえた女なら、「暴力をふるわれたり、発言を規制されたりするのは自分のせいだ。当然だ」と反省し、黙っておくべきだろう。一方、わきまえない女は、脈々と続いてきた女性への暴力を断ち切るために声を上げる。

 『One Billion Rising』(OBR)も、わきまえない女によって立ち上げられた活動のひとつだ。

あらゆる女性への暴力根絶を目指す『One Billion Rising』

 『One Billion Rising』は、アメリカのベストセラー作家V(旧イブ・エンスラー)が、「あらゆる女性への暴力の根絶」を目指し、「10億人で立ち上がろう」と提唱したことから始まったムーブメントだ。

▼One Billion Rising

 世界各地でこのムーブメントは広まっており、バレンタインデーを中心に各国でイベントが実施されているなか、 日本では 2013年以来、NPO 法人『青い空ー子ども・人権・非暴力』が毎年動画を発信している。

 2021年2月14日(日)には、豊島区後援、『青い空ー子ども・人権・非暴力』主催で、『One Billion Rising』のイベント(トーク&ダンス)が中池袋公園にて開催された。

暴力の鎖を断ち切るダンス『Break The Chain』

 『One Billion Rising』の特徴は、暴力根絶を、ダンス『Break The Chain』(鎖を断ち切れ)で訴えていくという点だ。

 『One Billion Rising』の歌詞は、「もうレイプや近親姦、暴力はさせない。女性は所有物ではない。私は誰にも所有されない」など、ドキッとするほどストレートに、暴力、性差別の根絶を訴える。

 2月14日も、『One Billion Rising』の理念に賛同する人々によるダンスが行われた。ゲストスピーカーでアクティビストの石川優実によると、このダンスにはふたつの意味があるという。ひとつは、「女性への暴力の抗議」。もうひとつは、「女性への暴力に負けなかったことに対するお祝い」だ。暴力があると指摘し、暴力の鎖を断ち切ろうと立ち上がれること、性差別や暴力に負けない自分でいられることを寿ぐダンスでもあるのだ。

 石川は言う。「わきまえないで生きていくことは、勇気がいることだと思います。でも、黙っていたときよりも、わきまえない女でいられる自分の方が大好きです」。

「わきまえない女」のつながりが、あらゆる形の暴力を根絶する

 「わきまえろ」「わきまえているから素晴らしい」という言葉は、個人の性質を枠の中に閉じ込めるものだ。枠の中にとどまっている限り賞賛されるのなら、その方がいい、と自分を枠のなかにねじ込んだままでいる人もいるだろう。しかし、わきまえている限り、女性蔑視も暴力とも無縁の世界に生きることはできない。

 押し付けられた枠をとっぱらって生きることは、自分らしく生きることであり、祝福すべきことだ。しかし、森の発言に対し、海外メディアがこぞって「女性蔑視発言」「性差別」と報道するなか、日本では、かたくなに「女性蔑視ともとれる発言」と報道し続ける大手メディアも散見された。このような、女性蔑視的言動が軽視されがちな環境において、わきまえない女であることは、ときに勇気を必要とする。勇気を得るために助けとなるのが、「つながる」ことなのだろう。

 森氏の発言を受け、各国の在日大使館の職員が、「#dontbesilent」や「#gender equality」というハッシュタグとともに、連帯し、抗議の意を示したことは記憶に新しい。

 連帯には様々な形がある。『Break The Chain』のようなダンスで繋がる場合もあれば、ハッシュタグを使って意見を表明する方法もある。「黙れ」という言葉の暴力や、肉体的暴力、あらゆる暴力を根絶するためには、様々な形の連帯が不可欠だ。

(原宿なつき)

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