Qアノンとドイツの極右「帝国市民」の繋がり コロナが加速する陰謀論の蔓延と分断

文=河内秀子
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写真:ロイター/アフロ

 今年1月に起きたアメリカ合衆国議会襲撃事件は世界中を震撼させた。実は半年も前に、ドイツの首都ベルリンでも、似たような事件が起こっていた。2020年8月29日。ドイツ連邦議会議事堂に、陰謀論を支持する極右グループが雪崩れ込もうとしたのだ。その際ドイツ帝国旗とともに振られていたのは、アメリカの旗、そして陰謀論者のグループ「Qアノン」の旗だった。

 ナチス ドイツ という大きな負の歴史を経て、過去と向き合い歴史教育が徹底されているはずのドイツで、コロナに後押しをされるように極右、人種差別主義者や陰謀論者が勢力を伸ばしているという。

 いったい、ドイツに何が起こっているのだろうか。

ナチスの歴史が、「国に自由を迫害されること」に強い嫌悪と猜疑心を呼び起こす

 まず、8月29日までの経緯を振り返ってみよう。

 8月29日の事件は「シュトルム・アウフ・ベルリン(ベルリンに突撃せよ!)」というモットーのもと、約3万8千人が参加するドイツ政府の新型コロナウイルス感染拡大防止対策に反対するデモ(反コロナ対策措置デモ)で起こった。昨年3月23日、ドイツ全土で「ロックダウン」が始まると同時に起こった反対運動に端を発するものである。

 ドイツのロックダウン(外出・接触制限措置)は、EU他国と比べて緩やかなものであった。ジョギングなど一人で行うスポーツや散歩、買い物などは許されていて、首都ベルリンの公園は春の空気を楽しむ散歩客であふれていた。しかし感染者数が多かった南ドイツ、バイエルン州の街には、ドイツ全国区でのロックダウンに先駆けて外出制限が発令され、警察がパトロールする厳戒体勢に、政令の合法性や危険性が数多くの憲法学者によって論議された。

 基本法に定められた「移転の自由」の権利は、言論・表現の自由や信仰、集会の自由などと並んで大切な基本的人権である。1933年、「非常事態権限」が悪用され、ナチスが基本的人権を制限し、権力を掌握してしまったことなどの歴史的背景もあって、たとえ多少緩やかで一時的であっても、国による人権の制限を許すことは、市民にとっても非常に大きな決断だったのだ。

 3月18日のメルケル首相の演説も、この未曾有のパンデミックから人命を守るためとはいえ、国が市民の自由を制限することがいかに重大な介入であるか理解した上で、それでも制限をせざるを得ないのだと、東ドイツ出身の首相自身の個人的なエピソードを交えて、市民の理解を乞おうとするものだった。

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