Qアノンとドイツの極右「帝国市民」の繋がり コロナが加速する陰謀論の蔓延と分断

文=河内秀子

社会 2021.03.09 08:00

写真:ロイター/アフロ

 今年1月に起きたアメリカ合衆国議会襲撃事件は世界中を震撼させた。実は半年も前に、ドイツの首都ベルリンでも、似たような事件が起こっていた。2020年8月29日。ドイツ連邦議会議事堂に、陰謀論を支持する極右グループが雪崩れ込もうとしたのだ。その際ドイツ帝国旗とともに振られていたのは、アメリカの旗、そして陰謀論者のグループ「Qアノン」の旗だった。

 ナチス ドイツ という大きな負の歴史を経て、過去と向き合い歴史教育が徹底されているはずのドイツで、コロナに後押しをされるように極右、人種差別主義者や陰謀論者が勢力を伸ばしているという。

 いったい、ドイツに何が起こっているのだろうか。

ナチスの歴史が、「国に自由を迫害されること」に強い嫌悪と猜疑心を呼び起こす

 まず、8月29日までの経緯を振り返ってみよう。

 8月29日の事件は「シュトルム・アウフ・ベルリン(ベルリンに突撃せよ!)」というモットーのもと、約3万8千人が参加するドイツ政府の新型コロナウイルス感染拡大防止対策に反対するデモ(反コロナ対策措置デモ)で起こった。昨年3月23日、ドイツ全土で「ロックダウン」が始まると同時に起こった反対運動に端を発するものである。

 ドイツのロックダウン(外出・接触制限措置)は、EU他国と比べて緩やかなものであった。ジョギングなど一人で行うスポーツや散歩、買い物などは許されていて、首都ベルリンの公園は春の空気を楽しむ散歩客であふれていた。しかし感染者数が多かった南ドイツ、バイエルン州の街には、ドイツ全国区でのロックダウンに先駆けて外出制限が発令され、警察がパトロールする厳戒体勢に、政令の合法性や危険性が数多くの憲法学者によって論議された。

 基本法に定められた「移転の自由」の権利は、言論・表現の自由や信仰、集会の自由などと並んで大切な基本的人権である。1933年、「非常事態権限」が悪用され、ナチスが基本的人権を制限し、権力を掌握してしまったことなどの歴史的背景もあって、たとえ多少緩やかで一時的であっても、国による人権の制限を許すことは、市民にとっても非常に大きな決断だったのだ。

 3月18日のメルケル首相の演説も、この未曾有のパンデミックから人命を守るためとはいえ、国が市民の自由を制限することがいかに重大な介入であるか理解した上で、それでも制限をせざるを得ないのだと、東ドイツ出身の首相自身の個人的なエピソードを交えて、市民の理解を乞おうとするものだった。

自由を制限されることへの懸念や不安が、陰謀論者と極右と左派をつなぐ

 ロックダウンが始まると、予想通り「政府の新型コロナウイルス感染拡大防止対策は基本法に定められた行動の自由を制限するものだ」とする抗議デモが始まった。しかし、その運動に集まった人の顔ぶれは、通常のデモとは異なる、奇妙な多彩さを持っていた。

 4月4日、首都ベルリンではローザ・ルクセンブルク広場でデモが行われていたが、その中心にいたのは元ベルリン・ブランデンブルク放送のレポーター、ケン・イェブセンだった

 ホロコースト否定と陰謀論を展開して、2011年にベルリン・ブランデンブルク放送を解雇され、サイトとYouTubeチャンネル「KenFM」をスタートしたドイツの陰謀論シーンではよく知られる人物だ。イェブセンと近しい右派ポピュリストや反イスラーム愛国主義者らが基本法を手に「我々こそが人民だ!」と叫ぶ。しかし同じ広場には、環境保護団体のメンバーや、緑の党や左翼党の支持者などもいる。

 ドイツ政府のウイルス感染拡大防止対策に抗議する運動はあっという間にドイツ中で大きくなり、ロックダウン緩和後の5月9日、ベルリンで約1200人、ミュンヘンで約3000人、シュトゥットガルトでは約1万人が集まった

 ベルリンではマスク着用やソーシャルディスタンスを守らなかったために、警察が解散を呼び掛けたが配慮がみられず、最終的に逮捕者が出る騒ぎに。その中には数多くの陰謀論者や極右、フーリガンなどのグループも見受けられ、ジャーナリストは「嘘つきメディア」としてブーイングや脅しを受けた。この頃、ドイツでのパンデミックはおさまりつつあり、4月はじめに日に6000人ほどだった新規感染者数も600人前後となっていた。

 この後もドイツ各地で同様のデモが行われ、その動きは膨れ上がっていく。

制限が緩和されても、「自由を剥奪する政府と戦う勇者」という物語から離れられない人たち

 実は6月末には、接触制限は完全に解除されて飲食店なども再開し、デモなどの集会も州によっては人数制限があるもののほぼ全面的に許可されていた。その代わりに1,5mのソーシャルディスタンスをできるかぎり保つことや(病院、学校や公共交通、美容室などは例外)、公共交通でのマスクの着用義務などの措置が導入されていた。

 懸念されていた行動の自由の制限など、権利の侵害はなくなったように思えるが、反コロナ対策措置デモでは、「マスクは言論の自由を阻む口輪」、「コロナ感染者は思ったより少なかった。大して危険なウイルスじゃなかったのに、ドイツ政府は過剰な措置を行った」と批判の声が飛ぶ。保健相が再三ワクチンの強制はしないと発表、約束し、まだワクチンすら市場にないのに「ワクチン強制に反対」の声が上がるなど、デモ参加者の主張が、徐々に論理を逸してきたような印象を受ける。

 そして8月1日。

 ベルリンで開催された「パンデミックの終焉 ターク・デル・フライハイト(自由の日)」のデモにはドイツ中から、約2万人が集まった。主催者からは、マスクをせず抱き合おう、などと呼びかけがあり、コロナ対策措置は全く無視。そして8月29日の「シュトルム・アウフ・ベルリン(ベルリンに突撃せよ!)」が、準備されていったのだ。

 ちなみにこの2つのデモの名前は、レニ・リーフェンシュタールが監督したナチスのプロパガンダ映画「自由の日:我らの国防軍 Tag der Freiheit – Unsere Wehrmacht」や、1923年にヒトラーらが起こしたクーデター未遂事件の際のモットー「ベルリンへの行進 Marsch auf Berlin」との類似性が指摘されている。

 ホロコースト否定派、極右、陰謀論者、そして掲げられるモットー……いったい誰がこの運動の後ろにいるのかが、垣間見えてきた。

陰謀論者と極右、ヒッピー。彼らをつなぐものは何なのか?

プラカードには「コロナ独裁政権」と書かれている(撮影:河内秀子)

 筆者は、8月1日の「自由の日」デモを実際に目にしたが、一括りに「xxのデモ」と表現できない奇妙なカオスが広がっていた。

 反ビル・ゲイツ、反ワクチン、ティンホイルハットをかぶった陰謀論者がいるかと思えば、マハトマ・ガンジーの旗を振りながらピース!と叫ぶ人もいる。しかしその横には、ドイツ帝国の戦争旗がはためく。メルケル首相やウイルス学者を刑務所送りにしろ!コロナ独裁政権に反対!というプラカードの横に、平和の鳩とハートマークが描かれた看板が並ぶ。ドイツ連邦議会前の緑地には極右「帝国市民」が集まって、帝国復興を望む!という演説が始まっていた。取材を試みるレポーターや、警備の警察官にわざとマスクなしで近づいて唾を飛ばしたりと、挑発する人がいる。その後ろには「オルタナティブメディア」がカメラを構える。

 参加者に極右やQアノンといった陰謀論者が少なくないことは、デモに多くはためく旗のモチーフからも見て取れたが、ネオナチのデモとも様子が違う。誰もがマスクを外して、ソーシャルディスタンスを取らず、好き勝手に主張をする。「ベルリンの壁崩壊以来最大の、自由をのぞむデモ」だと感激して語る人もいた。

「不安を抱える一般市民」にしのびよる、極右と陰謀論の影

 「極右は、新たに「反コロナ対策措置デモ」に標的を定め、デモをする人たちの怒りや不安を利用して、自分たちの人種差別的な思想やシンボルを広めようとしています」と言うのは、ミヒャエル・ブルーメ氏だ。南ドイツ、バーデン=ヴュルテンベルク州で反ユダヤ主義担当官を勤める人物で、昨年3月からは陰謀論についての疑問や歴史を解説するPodcast「陰謀論についての質問」をスタートしている。2021年2月、メールにてインタビューに答えてもらった。

(c)die arge lola

 よりによって、歴史教育が徹底されているはずのドイツで、なぜ極右、人種差別主義者や陰謀論者が勢力を伸ばしているのか。人々の抱える不安、また新しいメディアがそれを可能にしたと、ブルーメ氏は分析する。

「ドイツはたしかに、ナチスという過去にしっかり取り組んできたと思います。反ユダヤ主義は減少しつつあるのですが、ヒトラーとナチスは、ユダヤ人がイスラエルを建国するためにホロコーストと戦争を始めることを強制させられた、というような陰謀論を主張する人も少なくありません。インターネットによって、このような危険な陰謀神話ー私は“陰謀論“は科学的な理論ではなく、悪者は誰で誰の責任なのかという神話のような単純な説明だけを求めていると思うので、“陰謀神話“という言葉を使うのですがー を広め、人々の目を現実からそらし、外界から遮られた陰謀神話のカプセルの中に誘い込むことは、とても簡単になりました」

 Facebook、WhatsApp、Telegramなど、陰謀神話が流布されているSNSに登録すると、一日中ずっと「自分が信じる世界(陰謀論)」が正しいのだという証明が手元に届き続ける。ハマるのは簡単だ。

 ウイルスという目に見えず、わかりにくいものを説明するために、神話が必要なのだろうとブルーメさんは言う。神話そのものは悪いものではなく、時には神や愛といった数字で説明できないものを理解する手がかりとなるが、陰謀論の場合は、自分が抱えている不安を架空の敵に責任に押しつけることで気持ちを軽くする、もやもやと形のない不安から目を逸らし、敵と定めたグループを実際に攻撃することで不安が解消したような気になるのだと。

 4月から国内各地で始まった反コロナ対策措置のデモで広がった団体が、ブルーメさんが拠点を置くバーデン・ヴュルテンベルク州の州都、シュトゥットガルトで始まった「QUERDENKEN-711(斜めに考える)」だ。人とはちょっと違う考え方をする人のことを、ドイツ語でQuerdenkerと言い、メインストリームとは異なる視点で考えようと、団体名にしている。711はシュトゥットガルトの郵便番号だ。

 「QUERDENKEN-711」創立者のミヒャエル・バルヴェークは、4月からシュトゥットガルトで、ドイツ政府のコロナ対策措置と基本法の侵害に反対するデモを行っている。

 2020年8月、陰謀論者を支持する極右グループがドイツ連邦議会議事堂に押しかけた事件の後、バルヴェークは南ドイツテレビSWRのインタビューで、極右とのつながりを否定している。

「我々は民主主義的な運動であり、極右とも極左とも関係がありません」

 しかし、そのインタビューを横で撮影していた「QUERDENKEN-711」のスポークスマン、ステファン・ベルクマンは、自分の動画で中東からの移民や難民について「ヨーロッパに明るい茶色の種族が増えることによって、白色人種の知能指数が下がる」などの人種差別主義発言をしており、また陰謀論や反イスラーム主義を広める雑誌「Compact」の編集長、ユルゲン・エルゼッサーや、「人民の教師」ニコライ・ネーリングとも繋がりがある。ベルクマンのFacebookサイトは、極右や人種主義者のポストで埋まっていると、独Tagesspiegel紙が調査している。

 同じく南ドイツテレビSWRのインタビューで、ブルーメ氏はこう答えている。

「バルヴェークの発言は、よくあるトリックです。彼は政府のコロナ対策措置は守る必要がないものだと言って人々の心に忍び込み、だから民主主義的に選ばれた政府を倒すべきだと呼びかけ、帝国旗を振り回す極右と繋がってそれを実現しようとしたんです」

「QUERDENKEN」と極右「帝国市民」の不穏なつながり。

 「QUERDENKEN-711」とは、どのような団体なのだろうか。

「以前から、Querdenkenという名前で、スピリチュアル的な商品を販売する団体やYouTubeチャンネルなどは存在していましたが、コロナで、左派のヒッピーのような人たちから、不安を抱える経営者たち、そして極右団体の「帝国市民」までが客層になり、巨大なビジネスになりました。
 「QUERDENKEN-711」創立者のミヒャエル・バルヴェークは、IT系のビジネスマンで、これまで特に極右や陰謀論者のシーンにいた人物ではありません。しかし、人々のパンデミックへの不安がお金になり、注目も集められるとすぐ気づいたんでしょうね。4月の時点で、”陰謀論者ビジネスマン”として既に活躍していた、ケン・イェブセン(前述)やマックス・オッテ(右派ポピュリストに近しい経済学者)といった有名人をスピーカーとして招いています」

 「QUERDENKEN」のQは、Qアノンにも通じる。

「8月29日のデモ「ベルリンへの行進」では、Qアノンがトランプのために使っていたスローガンWWG1WGA(Where we go one, we go all)を使っているんですよ」

 さらに、バルヴェークは11月29日に開催されたシュトゥットガルト市長選にも参加。わずか1.2%の票を集めただけではあったが、その影響はこの街だけにとどまらない、またドイツの中でも裕福な州を拠点にしているため、彼らの資金は潤沢だとブルーメさんは警告する。

 バルヴェークは2020年クリスマスイブに、いったん大規模なデモは休止すると発表。彼は表舞台から引退し、「QUERDENKEN」の運動は収縮するのだろうか?

「多くの陰謀論信者は、ドナルド・トランプ氏が、世界の陰謀を倒してくれると望みをかけていました。しかし彼が選挙に敗れた後、運動はどうなりましたか?規模は小さくなりましたが、過激化しました。11月、バルヴェークらは、自称「ドイツの王様」ー詐欺罪で訴えられている極右、帝国市民のペーター・フィチェックに招待され、彼の「王国」で会ったことがわかっています。」

「陰謀神話」への今後の対策

 「QUERDENKEN」を支持する人の多くが、左派のスピリチュアル系の人であろうと、極右であろうと、同じように二元論的な陰謀神話を信じています。自分たちは「善」つまり、世界の陰謀が見えている”開眼した”人であり、その反対側には「悪」、ユダヤ人だのなんだの、世界中にはびこる団体がいるわけです。
 いま、陰謀論の中で流行っているのは、世界経済フォーラムを主催するクラウス・シュワブの著書「グレート・リセット」という本です。
 これ自体は、世界はいま根本的な変化の瀬戸際にあり、環境・社会問題にすぐ対処し始めなければという内容の本なのですが、陰謀を信じる人たちは、この本を、コロナの助けを得て経済界のエリートたちが世界征服を企んでいる証拠だとしています。“強制ワクチン接種”もその計画の中にあると。残念ですが、今後数カ月の間、彼らはさらに過激化していくことが予想されます」(ブルーメ氏)(注:3月10日、「グレート・リセット」についての説明を加えました)

 いまだ収束の兆しが見えないコロナ禍の中にあって、長く続くロックダウンに疲れ切っている市民の中に根を広げようとする陰謀神話と、どう戦っていくのかは、ドイツ社会や政治にとって、非常に重要な問題だ。

 なによりも教育が大切だとブルーメ氏は言う。

「Podcast「陰謀についての質問」はその対策でしたが、これは、一度陰謀論にハマってしまった人には効果のないものでした。ファクトだけでは届かない。逆に私も陰謀の一部と見なされてしまい、ますます距離を置かれてしまう。そこで直接的な交流を深めて、もっと感情について話したり、彼や彼女が何に不安を感じているのかに耳を傾けることにしました。国や社会は、法治国家を守り、違法な発言や行動に対してはっきりと明確な態度を取る必要があります」

 バーデン=ヴュルテンベルク州では、陰謀神話の信者やその家族のためのカウンセリングセンターZEBRAをスタートした。

 ドイツはいま、様々な岐路に立たされているようだ。

河内秀子

2021.3.9 08:00

ベルリン在住ライター。現在は取材・執筆のほか、ドイツ語圏でのテレビのコーディネートにも携わっている。

berlinbau.net

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