wezzyなど各サイトで行われた対談や語りおろしの対談、そして評論やコラム、エッセイを収録した西森路代とハン・トンヒョンによる書籍『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(駒草出版)が3月1日に刊行された。
同書は世界の映画賞を独占した『パラサイト 半地下の家族』『はちどり』そして韓国ドラマブームを再燃させた『愛の不時着』などで勢いづく韓国映画・ドラマの魅力を、2014年から語り合ってきたふたりの、ウェブ媒体や雑誌でのテキストに新録分を追加した対談&評論集。
このほか、『82 年生まれ、キム・ジヨン』『タクシー運転手 約束は海を越えて』『ベテラン』『チャンシルさんには福が多いね』『愛の不時着』『梨泰院クラス』『秘密の森』シリーズ『サイコだけど大丈夫』『椿の花咲く頃』『私のおじさん~マイ・ディア・ミスター』『保健教師アン・ウニョン』などの作品についてが語られている。
映画・ドラマとシンクロして昨今盛り上がりを⾒せる韓国⽂学やそこから派⽣したフェミニズム議論などについての話も。ふたりのおしゃべりを、存分に堪能できる一冊となっている。
筆者コメント
本書には、wezzyで行った対談記事も収録されています。wezzy読者に向けて、著者のお二人にコメントをいただきました。
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映画の大学で教えることにはなったけど映画の先生ではなく、でも試写会などに行く機会はあったりして、たまに会う顔見知りの西森さんと感想などおしゃべりしていたらインタビューを受けることになったのが2014年。本当に私でいいのかと思っていたのですが、いつも話しているようなことでいいですと言われて引き受けたことをきっかけに、断続的に映画やテレビドラマについて対談したり、個別にも書く機会が増えてきました。そして2020年、再び西森さんに声をかけられて、この間の記録をまとめたのがこの本です。
今でもまったく自信はありませんが、7年間を振り返ると、私たちはともに女性であり、でも生まれや職業などはまったく異なっていて、そういう2人の関係や考え方の変化が見え隠れしていたりするし、またそこから浮かびあがる日本社会のこの間の空気も感じ取ってもらえたりするのではないかと思います。
面白い作品に出会うと、誰かと話したくなるもの。そのようなおしゃべりをするにもかつてより困難がともなう昨今、韓国映画やドラマを網羅的、通時的に見ているわけでもない私がこんな本を出せることになるなんて畏れ多い気持ちしかありませんが、こんな私という存在をフィルターにしたその見え方が、そして西森さんとのおしゃべりが、読者のみなさんのおしゃべりへのモチベーションを高めるきっかけになるのだとしたら、とてもうれしいです。もちろん、読みながらどんどんツッコミ入れつつ1人であれこれと考える材料としても。(ハン・トンヒョン)
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ハンさんが書かれている通り、2014年にハンさんに話を聞きたい、というところからスタートした私たちの「おしゃべり」ですが、その後も一年に一回はハンさんとしゃべりたい作品が現われ、気づいたら『はちどり』と『パラサイト』『愛の不時着』が日本でも注目された2020年の新録も加え、こうして一冊の本になっていました。これは、7年前の自分にとっては予想もしていなかったことでした。
韓国映画や韓国ドラマというと、どういう人が見るのか、そしてどんなことが語られるのか、わりと固定したイメージがあると思います。例えば、韓国映画は男性が見るノワールものが多く、女性が劇場にいると、「韓流ドラマを見てる人にはちょっと慣れない内容では?」と思われてしまったり、また反対に韓国ドラマを見ているのは、ラブストーリーが好きな女性が多く、男性にはハードルが高いと思われていたりとかか……。しかし、当たり前のことですが、映画もドラマも多様な作品があります。
そして本書は、よく言われる「女性ならではの感性」で語られた本では決してありませんが、女性ふたりが韓国映画や韓国ドラマを見るときに、それぞれによって異なり、ときに重なる世界について語っていて、つまりそれはフェミニズムの視線を持って語っているということでもあります。韓国映画や韓国ドラマが好きな人だけでなく、『82年生まれ、キム・ジヨン』などの韓国文学に興味を持っている人にも届いたらいいなと思っています。(西森路代)

西森路代
1972年、愛媛県生まれのライター。大学卒業後は地元テレビ局に勤め、30 歳で上京。東京では派遣社員や編集プロダクション勤務、ラジオディレクターなどを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国、日本のエンターテインメントについて執筆している。数々のドラマ評などを執筆していた実績から、2016 年から4 年間、ギャラクシー賞の委員を務めた。著書に『K-POP がアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK 出版)など。Twitter:@mijiyooon

ハン・トンヒョン
1968年、東京生まれ。日本映画大学准教授(社会学)。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンを中心とした日本の多文化状況。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006)、『ジェンダーとセクシュアリティで見る東アジア』(共著,勁草書房,2017)、『平成史【完全版】』(共著,河出書房新社,2019)など。Twitter:@h_hyonee