韓国の兵役と青春の終わり、その複雑な関係。ドラマ『青春の記録』ヘジュンの選択は

文=gojo
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 親に反対されても夢を追い続ける主人公、ライバルでありながら励まし合う仲間でもある親友。そんな若者たちが駆け出し中に出会った、似たような状況の異性と恋に落ちるも、片方の仕事が軌道に乗り忙しくなりだすことですれ違うふたりの想い……。

 大人気俳優パク・ボゴムの入隊前の最後の出演作として話題になったことを除けば、『青春の記録』というドラマは、飽きることなく何度も繰り返し語られてきたベタな青春ドラマと大きな違いはないように思える。しかし、パク・ボゴムの自伝ともいわれるこの作品を、現代の韓国における「青春」と「兵役」の関係について考察したドラマだということを意識しながら見てみると、どうだろうか。

 小学生からの幼馴染で、成人した今ではふたりともモデルとして活躍しつつ、いずれは俳優として成功したいという同じ夢を追いかけるサ・へジュン(パク・ボゴム)とウォン・へヒョ(ピョン・ウソク)。仕事ではライバル関係だが、プライベートでは幼少時代と変わらず仲のいい彼らの前に、駆け出し中のメイクアップアーティスト、アン・ジョンファ(パク・ソダム)が現れ、へジュンと彼女は恋に落ちる。微妙にへヒョとの三角関係がありつつも、お互いに切磋琢磨しながら、若々しく可愛らしい恋人関係を築いていく。

 しかし、へジュンの知名度が徐々に上がり、だんだんと人気俳優へと成長していく中で、そんな彼を妬む連中からのネットでの誹謗中傷と、ジョンファまで傷つけるような悪質なウワサ話が後を絶たなくなっていく。

 若い男女の純粋な気持ちに変わりはないにもかかわらず、勝手に周囲の見る目が変わってしまったのだ。

 親や世間という「大人」の存在、余裕のない時代の空気などが壁になる。本人たちが悪いわけではないのに、へジュンとジョンファの歯車はじりじりと噛み合わなくなっていく。それでも、このふたりは、「青春」を、真っ直ぐに生きる。

 「親や周囲を無視するほど僕らはまだ強くない」と、彼らは言う。そうした外野の存在を上手くあしらう術が身についた頃、「青春」は終わるのかもしれない。それは多少の違いはあれ、世界中の若者にとって普遍的なことだろう。

 若者らしくバカ正直なほど愚直に目の前の壁と戦ったヘジュンがその戦いに勝ったのか負けたのかはドラマを見て欲しいのだが、まさにその記録としか言いようのない『青春の記録』という韓国ドラマの中では、具体的な”青春の終わり”として、兵役が現れる。

韓国の青年たちにとっての「兵役」

 第二次世界大戦後にソ連とアメリカの介入によって北と南に強制的に分断された朝鮮民族は現在も戦争状態にある。1950年に始まった朝鮮戦争は、53年に朝鮮戦争休戦協定(武力行為の停止を保証するという協定)は結ばれたものの、「平和条約」の締結はされないまま2021年を迎えている。

 そのため、いつ再開するかわからない戦争に備え、現在の韓国では19歳から30歳までの男性国民全員(わずかだが免除される条件もある)に対して、最低約2年間軍隊に所属しなければならないという兵役義務があり、それは一般人でも芸能人でも同じである。

 自分たちが生活しているまさにその場所が戦争状態で、目視できるほど近い距離にある「敵」がいつ攻撃してくるかもわからない、その戦場に自分も備える義務がある。それまで夢だの恋だのと浮かれていた若者たちには酷なほどに強烈な現実。日本に住んでいる者からすると、想像することすら難しいほど緊迫した日常だ。

 大ヒットした南北の男女を描いた韓国ドラマ『愛の不時着』のような名作ドラマが生まれたのは、韓国にとって北朝鮮との緊張関係が現実だからこそ、必要なフィクションだったのだ。

 最近では、韓国政府の取り組みもあって、「とにかく過酷」という軍隊のイメージはだいぶ払拭されている。若者たちの間で兵役義務はそれほどの深刻さもなく受け止められているそうだが、20代の青年にとっての約2年間という時間は、人生の中で他の何にも代え難いものであることに変わりはない。

 「青春」を謳歌していた若者が「兵役」に行く覚悟をした場合、その2年という時間で軍隊生活などかつては知らなかったものを知ることになる。その経験をする前と同じではいられない。

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