韓国映画界はなぜ日本人作家の小説に注目しているのか? 日韓で違う「小説」のジャンル

文=くれい響
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 『シークレット・サンシャイン』(07年)のチョン・ドヨンや『私の頭の中の消しゴム』(04年)のチョン・ウソンといったトップスターに加え、『スウィンダラーズ』(17年)などで好演し“千の顔を持つ”とまで言われるペ・ソンウ、『王宮の夜鬼』(18年)の顔面凶器チョン・マンシク、『MINARI』(20年)の国民的女優ユン・ヨジョンといった、いい顔の名バイプレイヤーが激突! 彼らが大金の入った一個のバッグをめぐって、欲望をむき出しにした男女を演じているのが、韓国映画『藁にもすがる獣たち』(20年)である。

 この作品は初期タランティーノ作品ばりにバイオレンス描写がたっぷりで、さらに時間軸を交錯させたクライム・サスペンス。自国では昨年2月に公開されるやいなや、週末興行収入ランキング第1位を記録した。

 『藁にもすがる獣たち』の原作者は曽根圭介。第14回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した『鼻』(KADOKAWA)や、第53回江戸川乱歩賞を受賞した『沈底魚』(講談社)などで知られている小説家だが、意外にもこれまで日本で映像化されたことはない。

 そんな曽根圭介が2011年に発表した本作が韓国で映画化された。そこには、韓国社会と日本文学の関係性が大きく関係しているといえる。

池井戸潤『半沢直樹』シリーズは韓国でもベストセラー

 韓国の書店に足を踏み入れて一番驚かされることは、韓国語に翻訳された日本文学の多さとともに、日本の大型書店並みともいえる作家やジャンルの充実さだろう。

 それもそのはず。国別の翻訳文学書の数は、アメリカやイギリス、フランスなどのヨーロッパ諸国を大きく引き離し、堂々の第1位。18年には韓国で発刊された韓国人作家による小説を日本人作家の割合が上回るほどだ。

 翌19年に日本による対韓輸出規制強化を受け、日本製品の不買運動が起こっても、池井戸潤の『半沢直樹』(文藝春秋、講談社)シリーズがベストセラーになっている。

 なかでもいちばんの人気作家は、村上春樹と東野圭吾だろう。

 その人気ぶりは、村上の絵日記風エッセイ集『うずまき猫のみつけかた―村上朝日堂ジャーナル』(新潮社)に記された「小確幸(小さいけれど、確かな幸せ)」というワードが、「ソファッケン」として流行語になったほど。

 村上作品は近年にも、短編『納屋を焼く』(新潮社『螢・納屋を焼く・その他の短編』収録)が『バーニング 劇場版』(18年)として映画化されたばかりだ。

 一方、東野作品は『容疑者Xの献身』(文藝春秋)が『容疑者X天才数学者のアリバイ』(12年)として韓国でも映画化されている。

 ちなみに、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(KADOKAWA)は現在までに120万部を突破し(電子書籍版含む)、過去最高の売り上げを記録した日本小説になっている。韓国の人口は約5000万人である。この数字を見ると、どれほどのヒットか分かる。

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