韓国映画界はなぜ日本人作家の小説に注目しているのか? 日韓で違う「小説」のジャンル

文=くれい響
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 日本文学が愛されているいちばんの理由として挙げられるのは、韓国小説の特徴として、人間の生き方を問うシリアスなテーマが描かれることが多いことにある。つまり、サスペンスやミステリーなど、エンタメ系の作家や作品が極端に少ないのである。

 また、それに関連して、日本文学は恋愛や趣味を通した若者ならではの悩みや関心事などをテーマにした作品が多く、読者が主人公に感情移入しやすい。それだけに、日本文学が80年代から90年代にかけ、軍事独裁国家から民主主義国家へと、大きな変化を遂げた韓国社会における生活習慣の参考にもなった、と言われているのも頷けるところだ。

 一方、韓国では130万部を突破する社会現象を起こし、映画化もされた『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)を機に、日本人の韓国文学に対する捉え方も大きく変わってきた。『キム・ジヨン』は日本でも22万部を超えている。

 『キム・ジヨン』のチョ・ナムジュのほか、『アンダー、サンダー、テンダー』(クオン)や『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)のチョン・セランなど、若い女性作家の作品に注目が集まる。

 しかし当初は若い女性が中心だった日本の読者層も、今や50代にまでに広がっており、今後はフェミニズム文学の枠を超えた大きなムーブメントが起こる予感もする。

 さて、オール讀物新人賞を受賞した平安寿子原作の短編を、チョン・ドヨンとハ・ジョンウ共演で映画化した『素晴らしい一日』(08年)など、韓国映画界では日本で映画化された原作のリメイクとしてではなく、韓国映画界によって初めて映像化される作品は少なくない。

 そんななか、『犯罪都市』(17年)、『悪人伝』(19年)の製作陣が、日本のプロデューサーより早く発掘した感もある『藁にもすがる獣たち』。

 本作がデビュー作となったキム・ヨンフン監督による意外な脚色に加え、ドヨンの究極の悪女っぷり、キャラクターにハマったウソンの無様な姿、実質上の主人公を演じるソンウの小市民感など、キャスティングの面白さも肝となっている。

 エンタメ性の高い日本文学と韓国映画のコラボレーションは、ますます面白くなっていく韓国映画界の武器のひとつといえるだろう。

(くれい響)

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