「うそ、コロナ陽性?」――自宅でできる簡易コロナ検査キットを使ってみた

文=中村木春
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 高齢で一人暮らしの祖母から「もう一年も誰もきてくれないから寂しくてダメになりそうだ、せめて顔だけでも見せにきてくれ」と電話があった。

 「春になってばあちゃんがワクチン受けてからにしよう」と説得を試みるも、「今のままでは春まで持たないから、どうしても今すぐきてくれ」とのことだった。

 普段わがままを言わない祖母がこんなことを言うのだから、行った方がいいのかもしれない。でも、もし自分がコロナだったらどうしよう――。

 「コロナ PCR検査 値段」とGoogleで調べてみる。

 信頼の置けそうな病院でやっているものはだいたい相場が25,000円くらい。タピオカ屋の跡地にできたと噂の激安PCR検査センターもあるが、結構先じゃないと予約が取れない。

 濃厚接触者やすでに症状がある人など、医師から検査が必要と判断された人でないと健康保険は適用されず、私のような無症状の人たちはだいたい自費で検査を受けているようだ。

 このとき私は「まあ症状もないし、ほぼほぼ陰性だろうから、家でできる検査キットで調べてみよう」との軽い気持ちで、“野良検査キット”の世界に足を踏み入れた。

すぐ検査を受けたい×金がない=野良検査キットの沼

 調べていくうちに、検査には大きく分けて3種類あることがわかった。

PCR検査……現在感染しているかどうかを調べる

抗原検査……現在感染しているかどうかを調べる、PCRより精度が劣るとされる

抗体検査……過去に感染していたか、抗体の有無を調べる

 どれがいいのかよくわからなかったので、とりあえずYahoo!ショッピングで「コロナ 検査キット」と検索。すると出るわ出るわ、世はさながらコロナ検査キット戦国時代であった。

1000件を超える検索結果が出た。/Yahoo!ショッピングより

 値段は1000円からウン万円するものまでまさしくピンキリ、「医療関係者オススメ」「CE承認」「WHO推奨リスト登録商品」「病院と提携」「厚生労働省承認」などの文句がずらずらと並び、一体何を基準に選んでいいのかサッパリわからない。

 レビューをしらみつぶしに見て、どれがいいのかネットで情報を漁るも、一向によくわからない。

楽天も見たが、PCR検査ののぼりが売られていた/楽天市場より

 野良検査キットの沼にはまり意識が朦朧としてきた深夜、総合的にみてなんとなく信頼が置けそうな気がした3000円くらいの抗原検査キットをひとまずカートに入れてその日は寝た。

 しかし翌日、注文しようとカートを見ると、検査キットを売っているショップは店ごと消えていた。

抗原検査キットが届いた、不安地獄の始まり

 私の野良検査キットサーフィンは振り出しに戻り、調べども調べどももうよくわからないからとりあえず「一番売れている」2000円の抗原検査キットと、「クチコミレビューが一番多い」3000円の抗原検査キットを買った。

 注文した翌日、どちらもすぐ届いた。

2000円の検査キット

 左上の手書きのThank Youカードがメルカリで物を買った時みたいで逆に不安になる。

 説明書の通りに、鼻の奥にこの綿棒を突っ込んでクルクル回す。くしゃみが止まらない。

 その綿棒を、この処理液を入れた容器に浸して振り、待つ。

 それから、採取した検体をテストカセットに数滴垂らす。待つ。

 20分程度待つと結果が出るとのことだが、すでに陰性のところにラインが出ているのがわかり、テンションが上がる。

 20分後。

 

「……あれ?」

 

 陽性のラインに、うっすらラインが入っている気がするのは……気のせい?

 ここで心臓が飛び出そうになったのをハッキリと覚えている。同室していた家族が皆、私のそばからじりじりと離れ始めた。

 このウッスラとした陽性のラインはなんなんだ。

 Google、Twitterなどに助けを求めて検索をかけ続けるが、それらしき回答もないし同じ経験をした人の声も探し当てることができず、私は爆発しそうな不安を抱えてやっと「あ、そうだ、とにかくこの検査キットを売っているところに電話してみよう」と思い立った。

 しかし、説明書の紙やら手書きのメッセージカードやらを見ても電話番号が載っていない。私は注文確認のメールから検査キット販売店のWebページを発見、なんとここはペット用品を売っている店であった。なんでこんなところから買ったんだ、と確認不足の自分のバカさを呪った。

 なんとか電話番号を探し当て、電話をする。

「はぁい」という気の抜けたバイトの声がして、私の不安はMAXに到達した。

「あの、検査キットを使用したら陽性のラインがうっすら出ているんですけど、これはどういうことでしょうか?」

と早口でまくし立てると、

「はあ、薄くても陽性にラインが出てれば陽性の場合が多いですねぇ」

それを聞いて、全身から血の気が抜けたようだった。

 電話口で沈黙が続き、私はえっと、えっとを繰り返した挙句、「あの、どうすれば」と聞いた。

「心配でしたら、病院で検査してもらった方がいいかと」

 あっさりとした事務的な回答が返ってきて泣きそうだった。はあ、とそれ以上どうしていいかわからず電話を終えた。

 陽性なのか。

 そうだとしたら、私と同居している家族や先日会った友人たちにも知らせなければ、それにしても一体コロナだったらどこに電話すれば……そんなことがぐるぐる頭を巡ってパンクしそうだった。

 それにしても、このハッキリしない線はなんだ。

 そうだ、もう一回検査をしてみよう。それでも陽性だったら、病院に行こう。

 私は同居している家族の分として買っておいた分の検査キット(また違う会社から買った)を使ってみることにした。

 すると結果は――。

 こちらは陰性だった。

 ここまできたらもう一回だ。最初の検査キットと同じやつでもう一回検査をしてみよう。私はもうやけっぱちだった。

 結果は――。

 陰性。

 集計すると、陽性1 vs 陰性2との結果だった。
(でも最初より、陽性のラインが濃くなっているのが怖い)

 私に検査キットを使い果たされてしまったかわいそうな家族は、「1対2で陰性ってことでいいんじゃない」などと言っていたが、私の不安は余計募るばかりだった。

 もう一度、先ほど電話をかけた店に電話をして、ことの顛末を話すと、「じゃあメーカーに一応確認して折り返します」とのことだった。

 “一応”ってなんだよ、とイラッとする気持ちを落ち着かせ、ひとまずリモート仕事に取り掛かるが、一向に集中できない。気がつけば「抗原検査 陽性 薄い線」「抗原検査 陽性と陰性 どっちも」などと検索してしまう。

 しばらくして、店からメールが来た。

「メーカーに問い合わせたところ、検査キットに偽陽性反応の可能性があり、検査結果を参考にし、PCR検査を受けるかの判断材料として使うキットです。
結論としては、簡易検査キットもPCR検査も100%のものはないので、検査両立で使って頂けるといいそうです。宜しくお願い致します。」(本文ママ)

偽陽性? それとも、陽性?

 偽陽性……、なのか?

 調べてみると、抗原検査キットで偽陽性(陰性にもかかわらず陽性と判定されること)が出てしまう例が何件か報告されていることがわかった。

 しかし、本当のところは、病院でPCR検査をしてみないとわからない。でも私には、もう2万いくらかの検査料金を払うほどの余裕はない。

「もし偽陽性じゃなくて、本当の陽性だったらどうしよう」
「ふたつの陰性結果の方が、偽陰性(陽性なのに陰性判定がでること)だったら?」

との不安が拭いきれず悶々とした挙句、私は家族と離れ、おばあちゃんに会うこともやめて自主隔離生活を送ることにした。

 よく考えたら2000円の検査キットを3つも使ったしその後ストレスで漢方薬やら栄養剤を買い込んでいるしこの精神的バタバタで何個か仕事を断る羽目になってしまったしで、最初から病院でPCR検査受けた方が安上がりだったんじゃないかとも思うが、もう後の祭りである。

 しばらく様子を見て、どこかでちゃんとした検査を受けたいが、結局私はただ不安なまま日々を過ごしている。保健所などに電話をした方がいいのかとも思うのだけど、なんの症状もない私のようなただ不安なだけの人間が忙しい人たちの手を煩わせるのは申し訳ない。

 安心したくて検査キットを買ったのに、余計不安になるという結果になってしまった。

誰もが安心して検査を受けられるようにはなっていない

 改めて思うが、この新型コロナウイルスというのは本当に、精神的に人を参らせてしまう病気なんだなと実感する。病気そのものがメンタルに打撃を与えるというのではなく、未知のウイルスとして私たちの生活の中に突然現れ、それがいつ収束するのか、そして誰がコロナなのか、自分もコロナなのか、などと毎日エンドレスに続いていく先の見えない不安にとらわれてしまい、気がつけばメンタルをやられてしまう。

 自分がもし、コロナにかかっていたらどうしよう。大切な人にうつしてしまったら、どうしよう――。私のように不安なまま生活を送っている人は、実は今の日本にはたくさんいるのではないかと思う。

 検査キットは簡単だが、検査結果に信頼がおけるとはとても思えず、その後のサポートも不明瞭である。キットで陽性の結果が出たとしてもそれを隠して一般生活を送る人もいるだろうし、これで偽陰性が出たことによって安心してしまい、感染を拡大してしまう例もあるのではないか。

 こんなにたくさん真偽不明の検査キットが出回ってしまうくらい世の中の人々は不安なのに、誰でも気軽にちゃんとしたPCR検査を受けられるようにはなっていない。もう一年も経つ。どうして、信頼のおける検査を、一般の人の手の届きやすい価格で簡単に受けることができないんだろう。

 現状では、医師にPCR検査が必要と判断されない場合、自費で数万円を支払う余裕のある人しか医療機関でPCR検査を受けることができない。私のような者は、このように格安でよくわからない検査結果に翻弄されるばかりである。

 芸能人のコロナ感染報告では、新しい作品の撮影に入る前にキャストとスタッフが全員コロナの検査を受けて陽性が判明した、というケースがしばしばある。感染した役者さんは全くの無症状であることも少なくない。だが、そうした芸能界の人々は一体、どこでどんな検査を行なっているのだろう。まさか野良検査キットではないだろうし、芸能界ならではのクリニックとのパイプがあるのだろうか。

 たくさんのどうして・なぜがぐるぐるになり、いよいよ参ってしまいそうなので、とりあえず今はあまり気にせず元気に引きこもり生活を送るよう心がけている。

(追記:国と栃木県は2月22日、全国で初めて無症状の人を対象としたPCR検査を開始した。学校や、繁華街にたてたブースなどで希望した人がキットを持ち帰り無料で検査を受けることができる。今後、緊急事態宣言が発令された他の都道府県でも検査を拡大していく予定とされている)。

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